しろくまたたくはくしゅんさん
2023-05-05 18:39:56
1465文字
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祝杯 【アルカヴェ】※イベネタバレあり

※盛典と彗業イベント後、ルート分岐で最後アルハイゼンとカーヴェが会話している前提

 カーヴェはその日、上機嫌で家路を歩いていた。
 彼にしては珍しく懐が温かく、道行く人から「優勝おめでとう」「賞金すべてを寄付するなんて、素晴らしい!」と口々に褒めたたえられる。そんな素晴らしい日がまさか自分にやってくるとは────身に余る栄光と罪悪感からの開放、それから久しぶりに気心の知れた友人たちとの会食を経た帰り道。上機嫌にもなるはずだ。
「ふらふらするな」
 その後ろに、アルハイゼンが付いてきていることだけが、彼の今の気分を唯一、害するものだった。
「なんでついて来るんだよ!」
「俺の家に帰るところだからな。ああ、君は新しい家を見つけたんだったか」
「ぐっ…………!知ってるクセに!」
 優勝すれば手に入る予定だった賞金、もといサーチェンの遺産を受け取ることを拒否したカーヴェ。そのことを試合の評論員であるアルハイゼンが知らないわけがない。
 良い気分をやや害されたが、カーヴェの足は迷うことなくアルハイゼン宅へ向かっている。
「仕方ないから、もうしばらく君の家に居座ることにしたんだ。文句があっても聞かないぞ!」
「別に────嫌とは言っていない」
 ぴたり、とカーヴェの歩みが止まりアルハイゼンを振り返る。
……なんだ?」
「いや…………。評論員は座ってるだけだと思ったけれど、案外疲れるものなんだな」
「別に俺は疲れていないが」
 カーヴェはいぶかし気な顔と眉を上げただけで、教令院から街へ降りる途中にあるアルハイゼンの家の前で止まる。
「どうした」
「いや……。君が開けろよ。家主だろ?」
「別にどちらの鍵で開けても同じだろう」
「そういうことじゃなくて。……まあ、いいか」
 祭りの夜。街に賑わいはあるがここはただの民家の前。人通りは少ない。カーヴェは鍵を取り出すと、いつものように素早く回し家屋へ入る。アルハイゼンも続けて入り、くん、と鼻を効かせた。
「夕食、まだなんだろう?セノたちと食べてきた店で、いくつか包んで持ち帰ってきた」
「ああ……。そう予想したから、なにも食べて来なかった」
 カーヴェはその言葉を聞くと、すでに冷めている食事の包みを解く。
「温めなおそうか?」
「いや、そのままでいい」
 効率を重視したアルハイゼンらしい答えに、カーヴェは眉を寄せるもそのままリビングのテーブルに置いた。食べやすいように、葉に包まれた料理を皿や器に乗せ換えていく。
「飲み物はどうするんだ」
「自分で用意する」
「待て。僕が用意する」
 カーヴェは自室に向かうと、酒瓶を一つ取ってきた。アルハイゼンはそれを見て、冷ややかな視線を送る。
「安心しろ。君が好きそうな味を選んだ」
「そうじゃない。君が会食で酒を飲まないのは珍しいと思っただけだ」
「人を酒狂いみたいに!──まあ、確かに、いつもなら飲んでいるところなんだけれどさ」
 きゅぽん、とコルクを開きとぽとぽと杯に注がれていく。
「今日は……酒なんてなくても気分が良くて、顔が火照って、飲まなくても酔っているような感覚だった」
 テーブルに乗せられた二つの杯。アルハイゼンの瞳は細められ、器の中の琥珀色を観察している。
「それに────飲んで、楽しい記憶が台無しになるのは嫌だった」
「では、今から飲むのもほどほどにしておくんだな」
「善処するよ」
 二人の手にそれぞれ杯が掲げられる。視線が交わると、「優勝を祝して」とアルハイゼンが告げた。カーヴェはむずがゆそうに口元を歪めたが、「あ、ありがとう!」と大声で告げると、杯を空にするのであった。