Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
しろくまたたくはくしゅんさん
2022-08-12 22:36:24
3449文字
Public
Clear cache
あしたはきっと いいてんき ※hrak362話 死ネタ
※362ネタバレ
※死ネタ
捏造しかない
※362ネタバレ
※死ネタ
捏造しかない
雨が降っている。
春先には珍しい入道雲からもたらされた、憂いのような雨だ。
急に空気の流れが変わり冷やされた雨の一粒は重い。肌に、地面に、打ちつける。
冷たい体に、温い一滴が落ちる。
『いずく』
口にした名はぼやけて、ふやけて、誰の鼓膜もふるわせない風だった。俺の前に立ち尽くし、絶望が溶けだしたような涙が俺だったモノの肌に落ちて冷めていく。
それからは、一瞬の出来事だった。
「緑谷くん!」
「デク、止まれッ!!」
死柄木の体が緑の彗星によって電磁の壁に打ち付けられる。激しい電流と肉が焼ける匂い。衝突の煙が二人を包んだ。それはもうヒトではない。まるで、
『かみさま、みてェ
…………
』
今はもう遥か遠い夢。自分もこの先、研鑽を積めばああいう風に戦えていただろうか。力を力で押し、へし合い、命をそのまま押し付けるような闘いが続く。
幽霊に足はないというが、俺にはちゃんと足があった。自分から離れて歩き出すというのも変な感覚だが、先人たちはみんなこうしてあの世へ旅立ったのだろう。でも、どこにいけばいいかわからないから、昼間の流星をぼうっと見上げる。振り向けば嗚咽が聞こえた。ジーニストが泣いている。大人の泣き顔を見るなんて久しぶりで、俺の死を悲しんでいるというのがわかって、無い心臓がしめつけられる。きっとこれから何人も、もぬけの殻になった俺の体に涙を垂らす。生んでくれた両親の顔が浮かんで消えた。
あまりに壮絶な戦いに、他のヒーロは介入出来ない。物間も相澤先生も瞬くことなく闘いの化身を見続け、目の端を赤くさせながらも忙しなく瞳を動かしている。
ふと軌道がずれ、墜落する。鉄の地面がめくれ上がり二人の姿が砂塵に覆われた。
「マズい!姿が見えない!」
相澤先生の言葉と同時に、人々の悲鳴のような個性が死柄木の体からあふれ出す。それを食い止める黒鞭。緑の稲妻が出久の身体を取り巻いている。
「ハハ、ハハハハハハハハハハ!悔しいかいヒーロー?あの姿を見たかい?なんとも無様じゃあないか!!」
「ッ!──────許さない、お前を、絶対に!!ブッ殺す!!!」
出久の口から零れた言葉に先輩たちがギョっとする。まるで俺を真似たような言葉だが、出久のそれは本意だ。本当の本当に、死柄木を、AFOを、殺そうとしている。
二人の間に渦巻く風。強まる憎しみ。地面が激情のあまり沈んでいく。
幽霊でよかった。きっとその間に立てるのは俺だけだから。
『いずく』
呼んでみてもなにも変わらない。もう一度呼んでみる。何度だって呼ぶ。俺を見てほしいわけじゃない。お前がこの闘いで目指したものを思い出してほしくて。
『しがらきを、すくうんだろ?』
幼い死柄木が助けを求めていた。AFOに体を、存在を奪われようとしている死柄木を助けたい。そう口にしていたのはつい数時間前のことで。
『──いずく』
頬に触れる。頭に触れる。額を合わせて、願う。
『たすけて、かつんだろ?』
裂けるほど見ひらいていた瞳からぽたりと大粒の涙がこぼれ、足元でなくなった。獣のような荒い息づかいがしだいに収まっていく。
「
……
かっちゃん?」
その言葉に目を細める。へえ。俺以外にも神様っているんだなァ、なんて笑みが零れる。
『おもいだせ、おれたちがめざすのは、』
「完全、勝利
…………
っ」
親指で涙を拭ってやる。拭えるわけがなく、風で吹き飛んでいく涙が綺麗だ。出久はぐっと唇を噛みしめ、うつむき、そして面を上げる。決意した瞳は、あの時校舎裏で呼び出したときと同じくらい震えているのに、すきとおる緑で。
力が反発し二人の体は離れる。再びぶつかりにいくAFOに対し、いなしていく出久。
「皆さん、すみません!時間を稼いでください!!」
呼びかけられ戦場を再び奔るヒーローたち。死柄木の体に飛びついては離され、追いついては攻撃を繰り出し。飛ばされても何度だってしがみつく。
「このっ、ハエ共がッ!!」
抹消の効果に遮られ、増殖の個性のみを使ったAFOの力業。電磁バリアもろとも空間を薙ぎ払うが、痛みに慣れてきたのかもう一瞬の隙も無い。伸びてくるワイヤー。ジーニストが立っている。その後ろにある自分の体には、もう死んでいるのに傷が縫い合わされていた。
空を翔けながら出久の口元はずっとブツブツ動いている。その思考が完璧にわかるのはこの場では俺だけで。ぺたぺたと移動し、ターゲットポイントで空を見上げ待つ。曇天。嫌いな雨。濡れないのに、じめつく気配だけはふしぎと感じる。
攻防を続ける棺の中、とうとう出久が翔ける足を緩める。そして、棺の中央──この場所で最も強固な足場に着地した。
出久が駆け回りながら溜めていた力を解放すれば、OFAの歴代継承者たちが出久を囲み力を集結させていく。突進してくるAFOの巨大な肉塊。出久の拳が握られる。
「死ねェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
「スマァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッシュ!!!」
決着は、一瞬だった。
デクとAFOの間に静寂が訪れる。その一瞬、二人の間だけ永遠が訪れていた。
過去の因縁、死柄木のこと、個性のこと。向き合い、語り合う姿が俺にははっきり見えた。
次に訪れた暴風は天を貫き雨をはらい、雲を散らす。解き放たれた空気圧は複雑な風を生み出し、死柄木の周りの肉体だけを消し飛ばす。
「ハハハハハハハハ!無駄だよ、そんな温いパンチじゃあオールマイトにも及ばな────」
砂塵に紛れ再び抹消から遮断された空間で、死柄木の肉体に異変が起こる。再生しようと増えた肉が破裂し、人面が叫んでは消えていく。個性の制御が不能になったAFOは、高笑いの顔を奇妙そうにゆがめ、苦しみ始める。
「──何を、した
……
!?僕の完璧な体ヲ、──が、ギギ、ュ!あ゛────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」
七色の光が死柄木の体を包む。そして、数多の個性が内側から弾けた。
「譲渡、したんだ。僕の個性────ワン・フォー・オールを
…………
」
赤い鋼鉄
ガントレット
に包まれた腕を抱え、出久がAFOに微笑む。スマッシュと同時に出久は己の血を死柄木の傷に塗り込んでいたのだ。
死柄木の体からありとあらゆる個性がなだれるように崩れていく。その中にAFOもいた。死柄木の体から追い出され、今まで良いように使われていた個性たちがAFOを喰らっていく。その光景に信じられないという視線が中央に集まる。
AFOはあがいていた。なんとか逃げようと空に昇っていく。だが、歴代のOFAたちがそれを許さない。追いつかれ、齧られ、奪われ、崩れ、そして最後に残滓は細く、儚く、散っていった。
「
……
終わ、った
…………
?」
天喰先輩が中央を見つめ、それから辺りを見渡した。左わき腹を抑えていた波動先輩がぺたりと座りこんだ。通形先輩が駆け寄り出久を抱きしめようとすると、その体が屈む。仰向けに倒れた死柄木の体。出久が胸板に耳を寄せ、安堵した表情で「よかった、生きてる
……
」とつぶやき一筋の涙を零す。
『よかったなァ
……
。いずく』
緑のモサい頭を撫でたが、呟いた言葉も、撫でる手も、ずいぶん曖昧になり始めていた。
「虹だ、」
物間が充血した目に丸い青空を映す。棺の上に綺麗な虹がかかった。霧散した雨がベールのように空を覆い、はっきりと濃く出た七色。
「かっちゃん」
ぽつりとつぶやかれた自分の名前。その視線は確かに、俺をとらえていて。
「いか、ないで
…………
」
潰れ、震える指先が伸ばされる。触れることはないが、胸を通るとこそばゆい。その手はもう、握れないけれど。
『くンな、いずく』
浮かんだ体が虹を渡り始める。どうか、今度は追いかけて来ませんように。
『そーそーにこっちこようとしたら、ブッぱなしてやらァ!』
青い空を目指しながら、ひたすら祈る。
この先、なにがあったとしても出久が笑っていられますように。
ウマいメシ食って、クラスのみんなと楽しいことして。
痛くても時間がかかっても困難を乗り越えて、絶対勝つ、たくさんの人を救う、そんなヒーローになれますように。
救けて勝つ、勝って救ける、最高のヒーローに────
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内