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しろくまたたくはくしゅんさん
2018-11-04 21:11:16
11978文字
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First Penguin【勝デク】
見守る系かっちゃんの話だけどそうにもならなかった。
推敲していません。
※オリキャラ注意 ※裸にはなっている
外は高音の風が吹く。テントは揺れているが、流石に吹き曝しの場所は避けている。問題ないだろう。問題ないはずなんだ。そう──
「
……
んん
…………
」
俺とデクが裸で抱き合っていることを除けば。
First Penguin
道端の石ころだと思っていた奴が、雄英高校ヒーロー科に入学した。おかしい、気持ちが悪い、圧倒的パワーを繰り出す個性を目の前にしても、その気持ち悪さはぬぐえなかった。1年の夏に少しずつ紐が解け始めて、一本の答えを見つけた。クソナードは俺の憧れだったオールマイトの力を受け継いだのだ。オールマイトの個性だ、弱いはずが無ぇ。けれどコイツには勝つという意思が俺よりも弱かった。制御もこん時は、まだまだだった。憧れの力を俺一人でねじ伏せた。それがどれほどショックだったか、デクには分かるまい。ともかくデクと初めて喧嘩して以降、俺は奴をどうにか巨悪に立ち向かわせるだけの力をつけさせなくては。そう思ったのだ。
高校は3年と短かったが、敵連合を封じ、AFOとかいうおっさんとの因縁も終わらせた。デクが死ぬと予言を聞いていたオールマイトも血を吐きながらピンピンしている。めでたしめでたし、だ。だから、卒業式の日、デクが何か言いたそうにしていたのを見計らって、荷物をまとめているA組全員を呼び出し、クソデクの背中を押した。
「テメェとオールマイトの秘密、此処でバラしとけ」
「うぇ、えぇっ!?」
「オールマイトと塚内さんにゃ許可を得てる。それとも、ココに居る奴ら一人でも信用できねーんか」
デクはぐるりと共有スペースに集まったクラスメイトに視線を巡らせた。体育祭でともに戦った者、己の存在意義を見直した者、共闘し敵連合を壊滅させた者。対峙し共にあったのは戦いばかりではない。ハイツアライアンスでは大いに笑い、苦しみを分かち合い、馬鹿なこともたくさんした。まァ秘密と言いつつ、オールマイトとデクはよくコソコソしていたから、轟や蛙吹あたりにはバレているんだろうが。
「僕──実は、中学3年まで、ほんとの本当に無個性だったんだ」
一度翡翠の目が俺を見た。そのことを真に知っているのは、この場に俺しか居ない。頷き、とん、とデクの足を蹴る。
「無個性の象徴ってあンだろ。前人類の化石。デクにはそれが残ってる。つまり、足小指の関節一個多いんだと」
だから俺は無個性だと思っていた。事実、オールマイトから個性を引き継ぐまでは無個性だったのだ。
「ガチの無個性じゃん!?」
だから、そう言ってんだろーが。話聞けアホ面。
「でも今は個性、あるよね
……
」
「先ほど、オールマイトとおっしゃっていましたが、まさか──」
「は、はは、緑谷、お前、まさかウソだろ」
そう、そのまさかだ。
「うん。僕、この個性
…………
オールマイトから、もらったんだ」
共有スペースの温度が少し下がって、そこからぶわっと熱くなった。
「う、おおおぉぉぉおオオオ! なんだそれ! 熱い! 熱ィーぜ緑谷!」
「あら、やっぱりそうだったのね」
「蛙吹もか。俺もそうなんじゃないかと思ってた」
「二人とも冷静すぎひん? デクくん、せやったら早よ言ってよ~!」
「次の平和の象徴、か
……
うむ、緑谷君にピッタリだな!」
「なるほど。だから入学当初は個性の使い方なってなかったのか」
「はいはーい! バクゴーは前から知ってたんだ?」
ノーコメントだ。というか、大体予想できているだろうが。しかし次第に視線が集まりはじめたので、「だーウゼェ! んなことより、この秘密、漏らしたらぶっ殺す!」「かっちゃんそれ僕の台詞
……
いや、殺しはしないけどね?」とデクがあきれ笑いしている。共有スペースに居る奴らはひとしきりデクの周りでやんやかんやと騒いだ後、「誰にも秘密は言わない」と固く誓い解散した。はー、とクソナードは深いため息をつくと、ソファにどっと沈み込んだ。
「かっちゃん」
「んだよ。言ったのはテメーだろが」
「選択肢一つしかなかったんだけど」
「
……
ちったぁ、気ぃ楽になったかよ」
「そうだね。そうかもね。このままだったらきっと
……
かっちゃんしか知らなかったかも」
ありがと、と言うソファの背もたれから出ているもさもさの緑頭をくしゃくしゃに撫でまわしてやる。なにするんだよぉ、と迷惑そうな声でさえ、どこか清々しかった。それでいい。なにか困ったことがありゃA組連中を頼るように仕向けた。肩の荷が降りた。あとは好きにやってくれ、と俺はその日のうちに退寮した。一度実家に戻ると、明日届く荷物は段ボールのまま部屋に置いておくようジジイとババアに言づけて、次の日の朝飛行機で飛び立った。場所はアメリカのどっか。空港までは迎えに来てくれるらしいが、事務所は秘匿されており、実力テスト合格まで教えないとのことだ。んなもん合格し殺すに決まってんだろがァ! と迎えの車に乗って数分で放り出された俺と携帯端末。
「今日の19時までにリストアップした奴全員捕まえて来な」
できるもんならな、と左ハンドルの車内から黒髪男のファックユーが見えた。頭の血管がひとつ跳ねる。
「Gotcha!」
クソッタレ、と聞こえたかもしれない。まァいい。端末には5名の顔がある。特徴、個性、かかわっている悪事の内容。すべてを頭にインプットした。免許は一応あるが、ここじゃド素人のド新人。ついでにサポートアイテムやヒーロースーツは車に攫われた。上等、と口の端を上げ、見知らぬ大都会に飛び込んだ。
「初めの、ぺんぎん」
幼い頃に見ていた教育テレビ。そこに映し出されている真っ白な世界。天候は悪いのか、吹雪の中に親よりでけぇ子ペンギンが群れていた。周りに居る親は離れないよう身を寄せあい、群れは少しずつ動いて少しでも寒さを耐えしのごうとしていた。
『ペンギンのお父さんお母さんは、この海で餌を探します』
氷の陸と海の境目。大人のペンギンが寄って集っているものの、海に飛び込もうとしない。そのうち、後ろからのそのそ歩いてきたペンギンがその集団の前に立ち、頭から飛び込んだ。
『勇気ある最初のペンギンをきっかけに、どんどん飛び込んでいきます』
一斉に飛び込むので、まるで黒い波が青い海になだれ込んでいくようだった。そうしているうちに、ぱしゃん、と一匹戻ってきた。一番はじめに飛び込んだペンギンだ。魚を飲み込んでいるのか、お腹がふくれている。
『勇気あるペンギンのおかげで、みんな餌をたべることができたようです。よかったね』
大きい子どもに口渡しで餌をやっている。その映像をぼんやり見ていると、画面は番組名を左下に表示させ、「END」と表示されフェードアウトした。そのあとは女の子が出てきて「パパママいっしょにクッキング!」と出てきたが、一瞬で消された。
「さてと、おやつにしましょうか」
「あら、もうそんな時間? この間頂いたお茶淹れるわね」
「ほら勝己。出久君とちょっと遊んでて」
おもちゃ箱の前で降ろされる。出久も柔らかいカーペットの上で降ろされたが、ぼうっとしていた。
「かっこよかったね」
「あ?」
「ぺんぎんさん。さいしょに、えいってとびこんだの」
「はん、あんなの、おれもいっちゃん先にとびこむっての!」
幼い頃は知らなかった。あの青い海の中にいるのは魚だけじゃない。恐ろしい捕食者もたくさんいて、最初のペンギンはその犠牲になりやすいということを。ファーストペンギンが捕食される映像を見たのは中学の時だった。何故かそのとき、川に落ちた俺に手を差し伸べてきたデクと重なった。それからヘドロん時、喧嘩した時、敵連合総力戦で、手を差し出された時。どこでも飛び込んでくるくせして、強引に手は奪わない。そこがアイツたる由縁で、クソナードたる理由だ。アイツがもしペンギンだとしたら、危険だけを背負っておいしいとこは他人にハイドーゾと渡すんだろう。飛び込み損だし、それを勇気と呼ぶ世界は頭がおかしいと思う。だから無理をしないように、だから無茶をしないように、だからヒーローにならないように──全部蹴り落として、アイツはヒーローになった、んだろう。もう俺の手なんかいらない。差し出された手を二度と握ることは無い。テメェ勝手に生きて行け。手のかかるファーストペンギンは、今日も一人海に飛び込んで、いつか痛い目に在った時は俺じゃなくて、元A組を頼れ。俺はもう、まっぴらだ。体重は減りはしなかったが、待ち続ける雄のペンギンの身にもなってみやがれ。詰る所、なんだかんだアイツの心配や世話をせっせこ焼いているだけの人生は勘弁だ。
「って、だーれがアイツの心配や世話さらしとんだ!
……
ア?」
青い海の中に落ちたかと思ったが、理解するまでずいぶん趣味の悪い部屋だと思った。一面、真っ青。海の中なのか、海洋生物がガラス越しに優雅に泳いでいる。
「はーろー、みすたばくごぉ、rrrrrぷ、はじめましてぇ」
どこかからくぐもった声が聞こえる。あたりを見回すと、ひときわでかいイルカが足元にいた。尾ひれで水を薙ぐと、すい、と頭上まで来た。
「ここのしょちょう、どるふぃいいな、だよぉ。せかいをまたぐ、ほぇーる・うぉっちゃあへ、ようごぽぽぽppp」
「おう
……
」
目の前の異形型所長を置いておき、最後の現実の記憶をたどる。確か5人目を捕縛して、それから治安当局に突き出して、門を出るとすぐに「バリッ」だかいってそこから──この部屋だ。
「みすたばくご、すごいねぇ、20じまでっていってたのに、2じかんまえにおわらしちゃうなんて」
「──あん?」
黒髪男は19時と言っていたが──ほぉ、こりゃ随分ナメられたみてーだな? お?
「きょうからよろしく、ねぇyyyy! ここのしょうかい、してあげよう!」
「いや、いっす」
なんだかこの人(?)に付き合わされると1日かかりそうだし、イライラゲージが既に暴発しかけている。上司と言えど、気が合わなければ無理に付き合う必要もあるまい。世界をまたぐWhale Watcherだ、そこらへん寛容に願おう。部屋から出て食堂に行くと、手厚い歓迎が待っていた。まず片方から電流が走るわ(気絶させたのはコイツだということに気が付いた)床が泡だらけにされるわ、ガラスを通して延々と脳に振動がくるわ、泡が燃え始めて酸素が奪われるわ左右違う植物に絡まれるわ、最後に変な粉塗れにされて、俺ぁ今から揚げ物にでもされるんかと思った。最後に青い生クリーム色のケーキが目の前に出された時はまさかと思ったが、手の込んだ専用器具によりとてもいい音で顔面に投げつけられた時、ようやく両手から爆破が起きた。パーティ会場は小麦粉の焦げたいい匂いがしばらく漂っていたが、それも今となってはいい思い出である。
当面の問題は人間関係と思っていたが、アメリカの文化がそうなのか、それともこの事務所が特殊なのか、全員さっぱりとしていて深刻だというほどでもなかった。唯一所長だけが面倒くさい。海の中にいるのでどの部屋で何が起こったのか、音でわかるらしい。海難事故では全米トップクラスの救出数を誇るため、いないことの方が多いのだが、帰ってくると必ず話しかけてくる。
「おやぁ、きょうは、ピコンくん、こないね」
「今は日本時間真夜中だろ。寝とるわ」
所長が言うピコンくん、こと日本在住次世代平和の象徴クソ幼馴染ことデクは、アメリカに来て初日からメッセージを送ってきやがった。「かっちゃん、アメリカ行ったんだね」と。アメリカに行くというのはジジイババアと担任の相澤先生にしか言っていない。ついでにいえば、クソナードと連絡先の交換をした覚えはない。大方クソ髪経由だろうが、デクには絶対教えるなと口封じしておけばよかったのだ。無視していると、毎日来るようになったメッセージ。
『僕は今日から配属です。サイドキックとしてできる限りがんばる』
『一人暮らし緊張する。全部自分で、って思うとなかなか大変だ』
『轟君と麗日さんが家に来たけど、あまりの汚さに絶句された』
『僕って料理下手だったんだね。気が付かなかった』
『かっちゃん! 今日はテレビのトップニュースになったんだよ! 動画送るね!』
『かっちゃんってもしかしてものすごく機密性の高い所で働いてる? 全然名前ヒットしないんだけど
……
』
『そっか、英語の方で検索すればいいんだよね! わっ、かっちゃんの写真だ! 相変わらず顔こわい!』
『っていうか事務所! めちゃくちゃ有名どころじゃん!』
『ねぇかっちゃん、その事務所のトップヒーロー、ホエイルに会ったらサイン貰ってほしいんだけど! 防水性の色紙とペンも送っておくから! 住所教えてもらっちゃ、駄目?』
『かっちゃーん! 返事してよぉ
……
』
『今日麗日さんと飯田君と一緒に遊園地行ったんだけど、途中で敵が乱入してきた。あとはお察しの通りです。はい』
『かっちゃん、いつこっちに帰ってくるの? もしかして帰ってこないとか? ずっとアメリカにいるの?』
他の奴らとは何回かやり取りしたが、無視しても毎日送ってくるのはデクだけだった。一応日本のヒーローニュースは把握しているし、デクが死んでいないことがわかればそれで良しとしていた。だが本人から毎日のようにメッセージを送られてくるので、次第に日本のニュースも見なくなったし、なんなら私用の携帯に手を付けなくなった。一日一ピコン、鳴ればだいたいアイツだ。メッセージも他愛ないものなので見る必要はない。だが、毎日鳴るのでドルフィーナ所長が気にしている。誰かは教えていないので、所長の中では「ピコン君」という愛称がついた。
その日、朝目覚めて海の色が澄み切っていたので、なんとなく嫌な予感がしていた。朝食の卵は双子だったし、今季のヒーロービルボードチャート番外編で俺が特別賞に選ばれたという朗報もあった。だが嫌な予感を拭えなかった。いやいや、良いことばっかりじゃん、と先輩であるジャラジャラ(初日俺を街中に放り出した黒髪。ジャラジャラ身に着けているのは避雷針代わりになるサポートアイテムで、決しておしゃれではないと本人は言っている)は背中を叩いてきたが、やはりどうにも寒気が止まらない。目の前に現れたターゲットに一発爆破をねじ込めば、今日の仕事は終わりだった。順調順調、やっぱお前今日ツイてるんだよ。とジャラジャラは口笛交じりに敵を拘束した。ホームに帰り、ピコン、と液晶画面に示された一行だけのメッセージ、送信者を見て、寒気の原因が分かった。
『僕も今日からフリーで活動する。待っててね、かっちゃん!』
これ、ヤバいやつだ。危険信号が脳中枢から指先へ染みわたるより早く、俺は所長を呼んだ。
「おやぁ、めずらしいみすたばくごー! なんのごようrrpで?」
「別の海外支部に異動させてくれ! 今すぐ!」
「いいよぉ!」
本当にいいのか? という気持ちもあったが、本当に寛容な事務所である。俺は所長の采配ですぐに別の支部に移った。イギリス支部だ。だがどこへ行っても俺はヒーローだった。ヒーロー最大の弱点は、目立つところだろう。
『かっちゃん今イギリスにいるんだ。ちょっと待ってね、すぐそっちに行くから!』
英字新聞の上には「ヒーローデク、アメリカで活躍中!」という見出し。その下に俺がかかわった事件が載っている。ロンドン郊外にて麻薬の売人集団を検挙──こんなことをしている場合ではない。
「次!」
荷物もほとんどまとめず、ヒーロースーツ一式を持ってドイツ、フィンランド、フランス、ロシア、イタリア、スペイン、スイス、ギリシャ、エジプト、ウズベキスタン、インド、モロッコ、ウルグアイ、ブラジル、オーストラリア
……
カナダへ渡るころ、日本メディアは「次に爆心地とデクが行く場所」の予測がニュースになるくらいになっていた。観光会社は「次の目的地ツアー」などというクッソフザけたプランを立てているらしく、その場所で幻のヒーロー「爆心地」と「デク」に会えるかも、とツアー予約は毎回満員らしい。平和か!
一か月から数週間単位で異動していたが、1年と半年を過ぎたあたりでとうとうドルフィーナ所長から「オヤスミとってきなよぉrpppp
……
ゆうきゅーはしょうかしなきゃダメだよぉ!」と怒られた。多分怒っている顔である。なんというか、私情(理由は明確にはしていないが、デクを避けてのことだともうすっかり世界中で認知されている)で転勤繰り返しているヒーローにも優しいとか、福利厚生バッチリか? サンキューだクソったれ。
貰った休暇は二週間だ。にしゅうかん? と思わず所長の真似をしてしまった。考えてみれば、移動時間もすべて出勤扱いになるのだ。代休と有休、二つ合わせて二週間。そういや、バケーションもクリスマス休暇も一切取っていなかった。デクを振り切りつつ敵と戦闘しちゃ社宅で報告書仕上げて、眠って飯食べて敵殴って。休みを欲しいとも思わなかった。現地でいかに敵を一人でも多く倒すか、巨悪に飛び込んでいくかばかりを考えていた。
「とおくへいくなら、おしえてね。だいじょうppp、ピコン君にはいわないから!」
くぁかかかか、と所長は笑う。まあ、そもそもこの人(?)に出会うことは難しいだろうし、一応今から行くところは連絡が途絶える場所なので報告をしておこう。
「じゃあ今から二週間、」
行き先を告げると、所長はちょっとだけ考えて「いーよぉ!」と言った後「でも、そんなにさけなくてもいいじゃない」と所長がアクアリングを吹かした。
三日後。
「さっみぃ
……
」
外は常にマイナス。バカンスのくせに体休まることのない世界の最南端、南極大陸に挑んでいた。
各国を回っている間に出来たツテで、今回の南極観測隊に知り合いができた。国際便ではなく観測隊用の荷物を積んだ貨物船で乗り込み、基地へ到着すると知り合いと久々に茶を飲んだ。南極以前はもう少し太っていた気がするが、この極寒では消耗の方が早いらしい。明日はここを出て4日ほど自由行動をする。どうしても自分の目で見たかった光景を探すために、だ。
「海の方は風が強いから、気をつけろよ」
「わかった。定期連絡は9時と13時と17時に入れる」
「ほい。可愛いペンギンたちの写真待ってるぜ!」
テントと撮影用機材をソリに積むと、途中の貨物用通路まではスノーモービルで牽引してもらう。そっから先はソリを引っ張りつつスキー移動だ。さすがに雪上訓練でもここまでしなかったので初めての試みになるが、極寒の雪は上質で踏み出せばほとんど負荷なく走り出せた。1日目は割とスムーズに進めていたし、天候も安定して晴れていた。だが2日目に入ると朝からぐずついていた天候が、昼前に本格的に荒れ始める。ヘッドライトを着用し吹雪の中障壁となるものを見つけて、テントを設営。今日はこのまま立ち往生かとも考えたが、ぐずつくのも早ければ上がるのも早かった。テントから這い出て、澄み渡った空の下あたりを見渡す。岩肌、雪、遠くの基地の煙、青い空、緑のもじゃもじゃ。
「────は?」
もう一度順番に見ていこう。山肌から除く岩、さらっさらの白い雪、たぶん昭和基地から出ている煙、雲はあるが死ぬほど澄み切った空、それから、吹雪に埋もれたまごうことなくも紛ってほしい「クソナァァァアアアアド!!!」
スキー板なぞ忘れて駆け寄っていた。後でとやかく言われそうだったが、この時くらい雪上保存云々勘弁してほしい。人間の骨が埋まるよかマシだろ? 手袋を外し呼吸を確認し、脈も図る。凍傷もなく、生きてはいるが低体温症だ。基地に連絡するより早く、さっきまで晴れていた天候がぐずついて、あっという間のブリザード。
「畜生!」
読みは良い癖に、俺に会うためにそこらの南極でくたばってんじゃ無ぇ! 追っかけてくるならせめて誰かと一緒に来い! ナメプ野郎とか適切だろうが! つーかアイツらもアイツらで平和の象徴好き放題放置させやがって! 何のために突き放したと思っとるんだ! クソクソクソクソクソクソクソクソッタレがァ!!!
テントに入ってまずは衣類を脱がせる。俺も衣類を脱ぎ、比較的凍っていない部分と肌着に近い部分を被せる。それから薄いビニール膜で覆い、二人分の体温を逃さないようにする。どこぞのエロゲイベントだとブドウ頭は興奮するかも知らんが、男二人だ悪かったな。あとは抱き着き、隙間を布で埋めれば人間ホッカイロの出来上がりだ。パンツ一丁で抱き着く。まだ考えてみりゃ、まだ20歳にも満たない男二人。ヒーロー活動している筋肉ゴリラ二人。絵面は大丈夫かと衛星通じて基地に報告するわけにもいくまい。
「起きたら爆破だ、ストーカーナードめ」
抱きしめれば、数日体を洗っていないのかナード臭さがあった。体を洗っていないのは俺も同じだ。しかし妙に落ち着く。天候が荒れている限りすることもない。温さと体力疲労でうつらうつらとし始めていたし、ほんの数十分寝てしまっていたのだろう。次に覚醒した時には、やはりまだ外の音は高く鳴り響いていたし、デクが目の前にいた。
「
……
んん
…………
」
どうやらコイツの寝がえりで目覚めてしまったらしい。クソナードは体を反転させると、少し開いた隙間を埋めるようにすり寄ってきた。
「かっちゃん
……
」
ガキの頃から呼び続けている名前が、俺を目の前に心細そうに呼ばれる。俺は事務所を通しての異動だったが、コイツはフリーでの活動だった。援助の手は少なかったのかもしれない。語学はあまり得意な方ではないし、どちらかと言えば方向音痴だ。だというのに、異国で一人、俺を追いかけてきた。不安だったかもしれない。恐怖があったのかもしれない。それでも飛び込み続けた、寒く冷たい海の中。俺を探すために、というのは自惚れでもなんでもないだろう。
「そろそろ幼馴染離れしろ、クソが
……
」
平和の象徴と俺のストーカー、どっちが有意義か少しでも考えたんだろうか。抱きしめて、ボロボロの右手に手を重ねてやる。早よ目覚めろ。お前が極寒の海に潜ってでも捕まえたかったモンが目の前にあるんだぞ。
時間が経つにつれて、クソデクの手足も随分温まってきた。いい具合に外の風も弱まりつつある。日暮れの早い季節だ。夜になる前に少しでも進んでおきたい。
「ん
……
」
長いまつ毛の瞬く音。胸元がくすぐられる。そっと腕を緩めてやれば、緑の目が俺を映した。
「かっちゃん、だぁ
……
」
それからすぐに、「天国って、こんな夢みたくて、温かいんだ」とつぶやいたので、そばかすだらけのほっぺを抓ってやる。
「悪かったな、現実で」
「は? あ? えぅ!? なぁ、あ、ぁあ?! はだか、はダカぁっ!??」
「パンツ一丁だ。意識戻ったんなら服着ろ」
「へは、ぁい
……
」
ビニール膜から抜け出し、体温が奪われる前に肌着とベストを羽織り、そこからソックスにズボン、スキーブーツをはめ込み、皮の上着、イヤーマフ、帽子にゴーグル、ヘッドライト。
「あ、の」
「さっさと行くぞ」
「どこに?」
「ペンギン見に行く」
ぺんぎん、とデクは呟いて、頭を振る。
「僕ここで待ってる」
「あ゙ぁ?」
「だって、邪魔だよね
……
かっちゃんにとって、僕は──」
はぁ? なんだこの追いついて捕まえたらそれはそれで面倒くさいストーカーはっ!? 思わず舌打ちが出た。
「このままココに置いて行かれるのがいいか、それとも一生俺の傍にいるか」
手袋をつける。ぎゅむ、と指先まで入ったことを確認し、ネックウォーマーを口元まで引き上げる寸前に告げる。
「選択しろ」
いの一番に飛び込んできたのは、いつだってお前だろ。
「あ、飛び込んだ!」
それを機にどばどばと飛び込んでいくペンギンたち。保育期真っ盛り、あと数か月は食べ盛りの子どもたちを養うため、こうして青くも冷たく、氷の下で待ち構える脅威と戦い続ける親ペンギン。一番初めに飛び込んだ奴が、海を真っ赤に染めるか染めないか。それを判断して後続が続くという、過酷な状況。ハイリスクハイリターンであろうと、飛び込む最初の一羽。勇敢さはたとい海から上がらなかったとしても、多くのペンギンたちの存続につながっている。
「最初の一匹──きた! あがってきたよかっちゃん!」
「ウゼェ手元ぶれンだろが!」
ぱしょ、と小さな音でシャッターが切られる。たらふく魚を捕まえたファーストペンギンは、てこてこと小高い場所まで上がると、ぺたんと倒れて滑っていく。内陸のヒナの元へ届けに行くのだ。
「午後には基地に向けて帰るぞ」
「はーい!」
デクはペンギンを見つめる目をキラキラさせて、ふと「かっちゃんみたいだ」とつぶやく。
「あ?」
「知らない土地にどんどん踏み込んでいってさ。僕はそれを追いかけてただけ」
「
……
」
お前がそれを言うのか。俺は事務所の支部を転々としていただけだ。開拓という分野で行けば、デクのほうが活躍している。いや、もしかしたら、それを期待して俺は国を渡っていたのかもしれない。俺の任務では解決できない部分を、コイツはもしかしたらどうにかしてくれるんじゃないか──そんな期待を込めて。少しでも敵につながる情報を残しながら。
今更ながら、俺はコイツから離れられないんじゃないかと思い始めた。一生傍にいるか、なんて問いただしたが、内心「ココにいる」と言われたらどうしようかと思った。結局その場合、俺もそこに留まっていたんだろう。ああ腹が立ってきた。そうか俺はデクに転がされていたのか。先に行けと嗾けられていたのか。「皆飛び込まないの? じゃあ僕が飛び込んじゃうよ~!」と言われて「ハァ? テメェよか先に飛び込むわクソッタレ!」
……
あり得る。ペンギン界だったらそんな調子で俺がホイホイ飛び込んどるわ。けれど次に飛び込んでくるのは絶対コイツだ。大丈夫? と心配しながら追いかけてくる。なんせストーカーだからな。そして俺が居ない時は率先して飛び込んでしまうんだろう。海が真っ赤に染まるのが見えた。
「あ
……
」
ばしゃん、ばしゃん、と一斉にペンギンたちが氷の大陸に上がってくる。アザラシにでも食われたのだろう。青い海が濁っていく。魚は逃げ、濁った視界では分が悪い。また狩りに出るためには数時間待つ必要がある。
かかか、ぐぅぐぐぐぐ、とペンギンたちが一斉に鳴き始めた。遠くにいる仲間に、ここは危険だ、別の狩場を探す、とでも伝えているのかもしれない。子に、もう一人のペアに、あいつは死んだ、と伝えているのかもしれない。
「胸糞悪ィ」
ペンギンは両方が狩りに出ることは無い。大体が交代制で狩りをするため、ペアは相手の死に目に会えない。海の底に沈み、牙で裂かれ、捕食者の血肉となるのを遠くで聞いているしかない。どうせなら──
「一緒に、飛び込みたい」
は、と顔を上げる。俺の言葉かと思ったが、デクの口から吐息が漏れていったのを見て、コイツが言ったのだとわかる。
「信頼できる人と、一緒に」
ふわりと包まれる感じがした。その目は気恥ずかしそうに青い空を映していた。アホか。見るなら俺だろ。俺を見ろ。遠くのジャパニーズ元A組なんて思い出すな。手を掴んでやる。手袋越しだが、その熱さだけはどうしても伝えたかった。心臓が鳴っている。緑が俺を映す。泣くな馬鹿、凍るだろ。頬が痛くなるだろ。
だから──俺が温めるしかない。
新しいヒーロー事務所は、設立前からずいぶん話題となっていた。
『犬猿の仲とかメディアは言ってましたけど、あれ嘘っすからね』
『一時はどうなることかと。まあ、惚れた弱みというものですわ』
『緑谷、いつでも頼ってくれよ。──お? もうその必要はないか』
『デクくん! バクゴーくん! 独立おめでとうっ、手綱はお互いで締めてるし大丈夫やね!』
『きゅっきゅ、んpr、みすたばくごー、ほえいるがうぇでぃんぐよんでって! たいへいようがわかハワイ! よろしごぽぷppp』
壁に当たりそうなリモコンを、デクが寸でのキャッチした。
「勝手好き好き脳みそアホんダラ集団がァ!!」
「ステーイ、ステイ、かっちゃん」
日本に戻って登記登録しようと専門家に話を聞きに行っただけでこれだ。クソ、クソクソクソ、といい加減顎が疲れてきた。事務所設立の専門家がリークするのはどうなんだ、と引きの悪さを嘆いても仕方が無い。
「ゆっくりでいいよ。僕もまだまだフリーで活動してコネつくりたいし」
「うっせー、こちとら飛び込んで死に急ぐクソナードを見張るために早く設立すんだよクソッタレ」
「はいはい、君と一緒に飛び込めるまで大人しくしときます、っと」
ブラックコーヒーを渡される。隣に来たデクはPCの画面を見つめる。
「進捗どのくらい?」
「あと事務所名だけ」
「えぇ、早い
……
」
専門家を頼った意味とは、とデクは呟いたが聞かなかったことにする。
「なんにするの? っていうか、もう決まってる?」
「おう。もちろん」
半角全角の切り替えを押して、法人名にカーソルを合わせる。ぱたぱた、と入力すると、デクが満足そうに足をばたつかせた。
そのヒーロー事務所はいずれ、日本だけでなく世界へ名をとどろかすことになるのだ。
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