しろくまたたくはくしゅんさん
2018-10-18 20:50:11
1792文字
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新世界より⑤

勝デクでもないかもしれないかもしれないしない。
※死ネタ。

口元にお手元。

 墓参りを済ませた二人はまた裏口を通り外へ出た。二輪の駐車場には相変わらず人は居ない。
「実家帰るぞ」
「今から?」
「つーか遅すぎるくらいだろ。引子さん滅茶苦茶心配してんぞ」
 出久は母親に三年半も顔を見せていなかった。もちろん諸外国に滞在する際は私用の通信機器も持って行った。よってメッセージのやり取りは行っていたが、音声のやり取りや映像通信などはしていない。それほど過密スケジュールであったのと、単に通信状況が悪かったというのもある。
 実はこの二人、会うのは久々ではない。2、3か月に一回は顔を合わせている。勝己が出久の所に顔を出すのだ。様子を見に、というよりは「くたばっていないかを確認する」ためだ。勝己は一応その度に出久の母親に「アイツは元気でしたよ」とか「五体満足、飯もいいもん食ってました」と報告しているのを、出久はなんとなくだが知っている。引子からのメッセージに涙模様が見えないのは、そうした彼の助力によるものだというのがにじみ出ていた。
「ご、ごめん……あ、でも塚内さんとの打ち合わせ──」
「俺が資料を引き継いでる。犯罪者データベースにアクセス権があるから、いつでも共有可能だわクソッタレ」
 あ、はい、と出久が漏らす前に、バイクは前進していた。今から静岡の実家に帰るとなると、夜の歓迎会に間に合わないのでは──という出久の杞憂を吹き飛ばすかのように、バイクのエンジン音が鳴った。

 結論として、昼過ぎに出て夜8時から開催される出久のお帰り会に間に合った。引子と顔を合わせたのは1時間ほどだが、最終的にはずいぶんと安心した顔で見送ってくれた。勝己のおかげだ、と出久は「乾杯!」のコールが終わりひとしきり周りからもみくちゃにされた後、勝己に「今日はありがとう」と礼を言いに行った。勝己は疲れた顔を一切せず、目をすっと薄めると「別にいい」と離れていった。高校を卒業する前の彼は、出久に対してかなり突っかかっていた。わめき散らしていたとも言えるその態度は、年数が経つにつれて大人しくなっていった。いや、出久以外には相変わらず吠えている。ニュースで敵と対峙している時などは狂犬のごとく暴れまわり、教育上宜しくない言葉を吐き続けている。変わったのは出久に対してだけだ。それは周りも、そして出久自身も気が付いていたが、八木俊典の死に関係することであるばかりに、誰にも触れられずにいる。
「はーいそれじゃあ、緑谷っ、なんか一言~!」
 上鳴電気が使われていないお手元をマイクのごとく握り締め、出久の前に差し出した。出久はあまりアドリブに長けていない。「あ、あの、一言、なに? 言えば、」とどもっていると差し出されたお手元は翻り「ふゥ~! 流石、流石です世界のヒーロー!」と茶化される。「なんも言ってねーじゃん!」と砂藤が突っ込むと、軽快なやり取りに皆肩が揺れる。場が和やかになった後、もう一度お手元が出久に向かってきて、今度は渡された。飲んで目元が赤くなった者、笑い泣きして涙を溜めた瞳、それから真っ直ぐに突き刺してくる赤を見た後、出久は肩に力を入れた。
「今日は、僕のためにお帰り会を開いてくれてありがとう。(ここで一度拍手が起きた)
 みんなも忙しい中、集まってくれてありがとう。梅雨ちゃんと、口田君、飯田君も、お仕事終わったばっかりなのに電話繋いでくれてありがとう!(芦戸は手に持っていた携帯をぐっと出久に近づけた。画面の向こうで各々手を振っているので、出久は小さく振り返した。ぐっと画面が寄る)近すぎ、近すぎ!『むっ、鼻毛が見えるぞ緑谷君!』言わなくていいってば! もー!」
 笑いが静まると出久はコホンと咳ばらいをひとつして、
「僕は卒業後、修行だ、って言って逃げるみたいに海外へ行きました。オールマイトの死を考えたくなかったし、オールマイトのいない日常に耐えられなかったから……(どこかで「もうフリークスじゃん」という小さな声が上がったが小さな衝撃波が起こり無言の悶絶に変わる)皆すごい。その現実をちゃんと受け止めて、ここでヒーローして。海外でもすごい人気なんだよ! 毎日誰かの名前が聞こえたくらい……。もちろん、僕の名前が一番多かったけどね」
「よっミドリヤ!」
「そこはヒーローデクちゃうん!?」
 出久は笑いがさざ波のように引くまで、二度息を吸った。