しろくまたたくはくしゅんさん
2018-10-18 08:48:50
1638文字
Public
 

新世界より④

勝デクかもしれなくないかもしれないだろ?
※死ネタ

眠気をこめて


 バイクは爆音で通りを駆け抜けると、角を曲がった瞬間後ろから追い抜いてきたバイクの音に同調すると、すっと音を無くした。後ろに乗っていた出久も、手前で勝己が操作している何かのスイッチをきっかけに音が無くなったのだとわかった。エンジン搭載型ハイブリッド電気バイクだ。出久にはこのバイクがすこぶる高いということだけはわかった。後ろから追いかけてきた記者たちの目はこぞって音の方向を聞き分けているが、勝己は奥の車線に入るとトラックの陰に隠れて角を曲がる。そのまま追尾されることもなくもう一度角を曲がる。セントラル・グレイヴ・タワー、横の駐車場入り口だ。静かなままスロープを降りていき、地下の二輪駐車場に降り立つ。正面入り口には乗り遅れた記者が撤収作業あるいはまだここに来ると山を張っている記者数名が残っていたが、二輪駐車場には人が居なかった。その隅っこに非常口が点灯しており、勝己はヘルメットを外すと唇に人差し指を立てそこを指さした。
 出久は頷くと、ヘルメットを外しどこに置こうかと迷っていると差し出された手があったのでそこに乗せた。かちり、と音がして、二つのヘルメットはしゅる、と空気の抜けるような音がして折りたたまれていった。小さくなった塊の上に描かれたロゴは、バイクに詳しくない出久でも知っているような超有名メーカーである。なるほどな、と出久は感嘆の声を上げようとして口を抑えた。勝己が二つの塊をボックスに投げ入れつつ眉を吊り上げたが、もう一度親指で非常口をさした。
 音もなく忍び寄り、そして非常口を締める。はぁ、と出久は息を吐き出し、もう一度吸った。あまり使われていないのか、埃っぽい匂いがする。勝己は二畳ほどのスペースを見て、ジーンズから鍵を取り出した。出久から向かって左側面は防火シャッター、正面に扉があり、勝己はその中に入っていった。
「かっちゃん」
「いいからついて来い」
 久々に聞いた勝己の声だけで、出久は泣きそうになった。本当に勝己なのか、造形だけを模した敵ではないのか。これは過去に彼が戦った敵にそういう女がいたからこその危惧であるが──やはり仕草も言葉遣いも声も、己の幼馴染なのだとほっとした。
 勝己は突きあたりの扉をノックした。
「はぁい」
 中年男性の声だ。扉が開かれると「いらっしゃい。一応身分証は──はい、カードキー」と、差し出してきた四角いプレート、それと交換するように勝己は先程の鍵を男性に渡した。勝己の肩越しに出久は奥を様子見たが、いつも見ている受付の部屋と逆の方向から見ている、つまり受付事務室の入り口がここなのだと気付いた。
「行くぞ」
「うん」
 ここまで来て「どこに?」と聞き返すほど出久は木偶の棒ではなかった。裏にも職員用のエレベーターがあり、表の一般訪問者向けと同じ仕組みである。カードキーを挿せば、誰もいない部屋に案内され、そこに会いたい人の墓がやってくる仕組みだ。
 部屋に降り立つと、同じくして向こうの扉も開く。一面白い部屋で、今歩いているところが「床」であるということ以外わからない、と出久は確かめるように歩く。こんなところに一日閉じ込められていれば気が狂ってしまうであろう。生者であれば。
 白い壁にゆっくりと浮かび上がる個人の姿。遺影に使われた笑顔から、オールマイトとして活躍していたころの姿。これがなかなか不気味で、感じ入る人には感じるであろうが、勝己も出久もこのシステムはどうにも寒気が感じた。この施設は動画を含めるような設計をしていない。メモリサーバー容量の問題である。
 数珠も線香も花も用意していないが、出久は強化ガラスに阻まれた納骨箱を前に手を合わせた。
……ただいま」
 おかえり、とこのただ白い空間から聞こえるはずも無く。勝己もそういう性格ではない。むしろエレベーター付近で寄りかかってあくびをしている。少しだけリフレッシュした脳で、「こっからどーすっか」くらいは考えていたかもしれない。