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しろくまたたくはくしゅんさん
2018-03-31 21:21:56
5431文字
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【勝デク】4-1=
#かぴ蜜版解釈無限大だよ性癖シャッフル 企画参加作品になります。キーワード→泣き顔、ピアス
セリフ→「僕(俺)だけを見てくれ」 で書かせていただきました。※同棲設定です
4-1=
かっちゃんの耳たぶは薄い。だからか知らないけれど、健康診断の血液検査で耳から血を取るとき、そんなに痛そうじゃなかった。僕の耳たぶは「福耳」って呼ばれる部類で、ちょっと厚め。揉んで揉んで、真っ赤になった耳たぶから細いガラス管に血が流れていって。それを見るだけでも怖かったのに、終わった後ちょっと涙目になった僕をかっちゃんが毎回からかってくるのが嫌だった。
「いい加減とれよ!」
とかっちゃんが僕の耳の四角いちいさな絆創膏を、無理矢理べりっと剥がすのも嫌だった。
つまるところ、僕はあまり自分の耳たぶにあまりいい思い出を持っていない。
だから耳に触れられて「開けろ」といわれた時、「いやだ」と言ってしまった。
「ア?」
かっちゃんが不機嫌だと顔をしかめる。瞳の光が細く瞬く。薄暗い部屋、ベッドの中、服は着てるけれど、ピロートークはとろとろに甘かった。さっきまでは。
話の流れ的に、かっちゃんが不機嫌になるのも仕方ない。
幼なじみで、同級生で、同僚で。長年連れ添っているけれど、こんな風にパーソナルスペースに入ることをお互い許すようになったのはここ2年くらいのことだ。高校を卒業して、プロヒーローになって、ひょんなことから漏らしてしまった「好き」の二文字。なんで今までこんな簡単なことに気が付かなかったんだろうっていうくらい、かっちゃんはあっさりと僕の好意を認めてくれた。
そこからは歪んでいたりひび割れていたりしていた僕らの関係は、いきなり潤って草木が生えて肥沃の大地と化した。今まで伝えきれなかった分、触れあえなかった分、少しずつ分かち合って育んで、あっという間に「愛」という実は大きくなった。
しばらくお互い離れて仕事をしてたけれど、かっちゃんが広い部屋に引っ越すからお前も来いと引っ張られ、気づけば同棲なるものをしていた。
それから、なんやかんやであっちこっちで紆余曲折の二転三転を経て、一つのベッドで眠るようになって、2年。
夜ごはんを食べて、お風呂に入って、ベッドに潜って、しばらく駄弁っていると「そろそろ買わなきゃな」とかっちゃんが呟くので「なにを?」と聞けば、「結婚指輪」と至極当然のように返ってきた。ついこの間プロポーズをされて、あとは出すだけの書類が棚の上に置いてある。
指輪かあ。と自分の左手を見つめる。一応グローブはしてるけれど、近接戦闘では殴ることも多い手。歪んでしまわないか、傷ついてしまわないか心配だ。いや、僕よりもかっちゃんだ。
「かっちゃんの手って、金属駄目だよね?」
ベッドの中をさぐって、かっちゃんの手を布団の外に出す。「じゃーん」と見せれば、かっちゃんが鼻で笑う。子どもっぽいって思ってるんだろうなあ。そんな僕も好きって知ってるけれど。
「僕もかっちゃんも中・近接戦闘が主だし、手になにかつけるのは向いてないよね。ブレスレットとか?」
両手でかっちゃんの手を揉む。手の皮は厚いけれど、ニトロのせいかすべすべとしている。親指の付け根の筋肉が盛り上がっていて、押せば確かな弾力を返してくる。
「そもそも片方にだけなにか身に着けるってのが無理だわ」
「さっき指輪って言ったじゃん」
かっちゃんの指が閉じていくので、抵抗してみる。両手で指を必死に押し上げてみるが、かっちゃんの大きな手はそのまま僕の両親指を握りしめてしまった。負けたー、降参! と残りの指でかっちゃんの手の甲を叩けば離してくれた。
「じゃあ、両方つけてもおかしくない物とか、」
「首につける系、か。デクお前、首輪な」
「はぁっ!?」
首輪ぁ? と顔をしかめた僕に、かっちゃんはささっと携帯で何かを調べて画面を眼前に突き出してきた。首輪と言っていたが、皮のチョーカーがそこにズラリと並んでいる。
「うーん、却下」
「ふん。まあ、これで首絞められる可能性あるわな。お、プレイ用にごっついの買っとくか」
「そうだね──ん?」
なんか最後聞き捨てならないことが
……
と画面越しにかっちゃんの目を見ようとしたけれど、かっちゃんは画面を自分の方に向けなおし、また指で操作し始めた。
「あー。こっちのが手軽だし戦闘中も気になんねえか?」
かっちゃんがまた画面をこっちに向けてきた。小さい石みたいなのがいくつも見える。ページタイトルを見れば「ピアス」の文字。
「たいして高価なモンでもねえが」
かっちゃんの手が伸びてくる。指の甲で首筋をそろっと撫でられるのがこそばゆい。
「まあまあ目立つし、どんな奴でもそれなりに似合う」
耳たぶがふにふにと揉まれる。かっちゃんの指先が軟骨の線をなぞっていく。ぞわ、と聞こえるのは、耳からか、背中からか。気づけば、意地悪く笑うかっちゃんの顔が目の前にあった。
「ん、ぅ」
「、デク」
唇の先で小さく呼ばれて、また口づけられる。のしかかられる体温に、毎度感じる充足感。このまま流れで、というわけにもいかない。僕ら二人とも、明日の朝は早出だ。
何度か唇を食みあって、浅いうちにお互い離れる。これ以上は我慢できなくなるから。
かっちゃんはまだ僕の耳たぶをやわく揉んでいる。
「ここ、開けろ」
囁かれ、僕は溶けた脳を頭蓋骨のかたちに固めなおして答えた。
「いやだ」
そして冒頭に戻る。
「耳に穴開けるんだよ? 絶対痛いっ」
「耳にちっせえ風穴開けるだけだろーが。四肢骨折経験のあるクソナード君」
「意識して開けるのと戦闘の怪我は違うんだってば!」
「じゃあ戦闘終了後に開けたる」
「アドレナリンあっても無理!」
ベッドの上で言い合いが始まる。しばらく口論していた気がするけれど、かっちゃんが「優しくしてやるから、な?」と涙の溜まった睫毛に口づけてきた。耳に穴をあけると聞いただけでこの様だ。僕の涙に年々弱くなっていくかっちゃんだけど、今回は譲ってくれないらしい。僕もそれ以外の案は出せそうにない。仕方なく「うん」と頷いた。
そして迎えた次のそろいの休日。テーブルの上に用意されていたのは、保冷剤、ピアッサー、消毒液、脱脂綿
……
うわ、見るんじゃなかった。
「な、何かの手術するみたいだ」
「おい、声上ずってんぞ。そんなに怖ェかよ」
ソファに招かれて、向き合って座って、かっちゃんがマジックのキャップをあけた。
「めぼしつけといたほうが、ずれずに済むんだとよ」
かっちゃんは保冷剤で冷えた指先で耳たぶに触れる。ひやっこくて、肩をすくめれば「じっとしてろ」という声。かっちゃんの方を見れば、もう開ける位置に黒い点がうってあった。
「ほ、ほんとに今日あけるの?」
「安心しろ、てめぇの耳たぶ用に太めのロング買っといた」
きっとピアスの専門用語なんだろうけれど、太めで長いとか、その、嫌な記憶しかないんですけど。ちらっとかっちゃんの股間あたりを見れば、アホ、とかっちゃんに叩かれる。
「ん」
「ん!?」
渡されたのはピアッサー。四角くて軽い器具。針が出ていて、受け止める部分があって。まるで小さいミシンみたいだ。
「俺から先に開ける」
「う、うん」
「できるか?」
かっちゃんの目が、まっすぐ僕を見つめてきた。きっと僕に開けさせたいんだと思う。そういう儀式めいたことに関して、かっちゃんは意外にもロマンチストだ。二人でおんなじことをして、秘密の共有をする。まるで幼いころの遊びみたいだ。
「できる」
かっちゃんの腕が伸びてきて抱き寄せられる。ソファ上のちょっとした移動を経て、僕はかっちゃんの膝上に腰を落ち着ける。いつもこうするとドキドキするけれど、今は違ったドキドキが僕を襲う。かっちゃんは始終落ち着いていて、テーブルの上の保冷剤を手に取ると耳に当てていた。
僕は消毒液を脱脂綿にしみこませて、次にピアッサーと呼ばれる器具を見た。うわぁ、太い。あのガラス管と同じくらいか、もっとあるかもしれない。
「いいぞ」
冷えて、色の抜けたかっちゃんの耳たぶ。脱脂綿で耳たぶの表と裏を拭き、ピアッサーで薄い肉を挟む。
「押し込んで、ちゃんと垂直か、開ける場所に当たるか確かめろ」
「うん
……
」
ぐ、ぐ、と何度か押し込めば、針がかっちゃんの耳たぶに食い込む。ずれてないことを確認して、
「い、いきます!」
「おう」
ばちん。思った以上に大きな音がしたけれど、手を離さなかった。力を込めた親指をゆっくり離せば、針も抜けて──あれ?
「か、かっちゃん、針、ぬ、抜けない
……
」
「そりゃそうだろ。これ、ファーストピアスだからな」
かっちゃんがピアッサーを持っている僕の手を外す。ぽろ、と四角い本体が足と足の間に落ちていった。
「あ、う
……
ぅ」
「泣くな泣き虫。失敗してねーから」
「ほんと? かっちゃん痛くない?」
「痛くねぇ。むしろ痛くなさ過ぎて驚きだわ」
よくできてんな、とかっちゃんは耳たぶに触れて、なにかキャップみたいなものを外して、さらにぎゅっとピアスを押し込んだ。うわぁ、見てるだけで痛い。
「だから痛くねえっての」
「わかったってば。っていうか、ファーストピアスってなに?」
「穴が固定されるまで、これずっとつけとくんだよ。大体2、3か月くらい」
かっちゃんは耳たぶを指先で持ち上げる。そこに緑色の石が鎮座している。かっちゃんに緑はあまり似合わない。色間違えたんじゃ、と視線を向ければ「もう片方もさっさと済ませやがれ」と視線を逸らされる。これは、かっちゃんが都合悪いとか恥ずかしいときにする仕草で──あ、ああー。そっか。
僕の、色だ。
「かっちゃん」
「あ?」
「ありがと」
「いいからはよしろ」
似合わなかろうが、なんだろうが、かっちゃんはつけてくれる。改めて、僕は傍にいても良いって許されたみたいで、嬉しかった。
ばちん。
音を立てて、もう一つ。かっちゃんの体に、緑が増えた。
で。
「ほんとに、する?」
「する」
「次の休みとかじゃ、だめ?」
「揃いでやんねぇと意味ねェだろが!」
「うううぅぅぅうう!」
「ったく、なんでそんなに嫌なんだよ」
かっちゃん! かっちゃんのせいだからね!? キミは覚えてないかもしれないけれど!
「あれか。ガキん頃、採血の絆創膏剥がしたやつか」
「覚えてるじゃん! かっちゃんのバカ!」
「おーおー暴れんな。うっかり軟骨通すぞオラ」
「やぁだぁ!」
顔を掴まれ、ソファの上に押し倒される。馬乗りになったかっちゃんはピアッサーをかしゃかしゃさせながら、いじめっ子の表情をしていた。保冷剤を当てられて、アルコールを塗られて。ひやっとか、すぅっとしただけが原因じゃない身体の震え。目の端に見える針はたしかにさっきよりも太くて、長かった。
「うぅ、う~!」
挟まれる感触。針がマークの上に何度か押し当てられる感触。
怖い。怖い。ぎゅっと目を瞑れば、涙が横に流れていく。ふっと、のしかかっていた重さがなくなる。
「デク」
怖くて目が開けられないけれど、ふわふわとしたものが目尻に触れた。かっちゃんの唇だ。軽いリップ音、流れていく涙を舐めとる舌。瞼に何度かキスされて。僕は目をゆっくりと開けた。
「終わった?」
「終わってねえ」
「だ、だよね」
かっちゃんは口づけを止めなかった。そういえば開けると決めた日、優しくするとかなんとか仰ってた気がする。僕にこんなに甘いかっちゃんなんて、一生に一度あるかないかかもしれない。額にも口づけられて、唇をちょっととがらせてみる。と、額に軽くデコピンを食らう。
「ったぁ!」
「そこは、全部終わってからだ」
全部。
…………
そうだ。そうだよね。「ピアスを開ける」は、今日の出来事を日記に書くとしたら一番冒頭の出来事。メインは、この後。
「デク」
鼻頭にキスを落とされて、そのまま鼻をくっつけられる。
「俺だけ、見てろ」
呼吸が詰まる。そういえば、僕はキスするときいつも目を瞑っちゃってるから。こんなに近くでかっちゃんの顔を見るのは久しぶりのことで。赤い瞳の中の僕が、僕を見つめ返した。小さすぎて分からないけれど、まるで合わせ鏡の中みたいに、かっちゃんの瞳の中には無数の僕がいるんじゃないか、なんて──「終わったぞ」
「え? ええ?」
かっちゃんの指が僕の耳たぶに触れる。キャップが外されて、ぐいっと押される。じん、と痛んだ穴は、確かに耳に開いていた。
「痛かったか?」
「ううん」
「じゃ、もう片方も大丈夫だな」
ばちん。
あんなに怖がっていた穴が、僕の体に二つ、開けられた。
洗面台で確認すると、想像していた通りかっちゃんの瞳みたいな赤が二つ。
「に、似合わない
……
」
「よおクリスマスカラー野郎」
「かっちゃんが選んだんだろ!」
「あ? 嫌かよ?」
かっちゃんの指先に耳たぶが持ち上げられて、蛍光灯に反射する石。はっきりと光を映し返すのが、ますますかっちゃんの瞳に似ていた。
「うれしいに、決まってる」
鏡の僕が真っ赤に染まっていく。かっちゃんは満足そうに笑うと、頬に口づけて洗面所から出ていった。口にもらえるのは、どうやらまたここに戻ってきたあとのようだ。
こうして今日、4つの石が僕らの生活に混じって、書類が一部出ていった。
答え:君との未来
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