しろくまたたくはくしゅんさん
2018-01-03 14:40:14
2675文字
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鯵は電気椅子の夢を見るか【勝デク】

勝デク ※コミック未収録 163話ネタ ※ほんわっと死ネタ


 夢を見た。 

 とある刑務所では、緑の道を「死への道」と揶揄するらしい。陰湿な牢屋の道、その奥にはメカな椅子と拘束具。拷問にしては、その椅子だけがぽつんと、その部屋にあるのだ。さらに椅子の下には排水溝。横にはでかでかと「危険」と書かれたスイッチ。古ぼけた床に血を流した跡は無い。黄色い砂ぼこりの舞う部屋は、滅多に使われていないらしい。
 その椅子の上に、小さな魚が一匹。なんとも、平凡な形をした魚だ。白い腹、青い背、ひれは黄色く、焼いたら美味いだろうな、という白身魚。その名も、鯵。
「それでは、処刑を開始します」
 厳格で、それでいて嫌悪の混じった声。がちん、とスイッチが入ると、導線を伝って電流が走る。
 びち、びちちち。
 魚は、尾を何度も椅子にたたきつけた。痛みからか、電気に筋運動を狂わされてか。
「やめろ・・・・・・」
 手を伸ばしてみたが、伸ばしたほうとは逆の手を、誰かにつかまれる。
 やがて、魚は動かなくなった。

 死んでしまった。

 振り向いた先には、床の緑よりも、深く鮮やかな緑――




 手を伸ばし、ひんやりとした携帯の液晶に指を這わせる。ぐるぐる、と二回円を描けば、音は止んだ。
「・・・・・・どんな夢だよ」
 鯵が電気椅子で処刑される夢を見た。日常生活と一切関係のない夢だ。どうせなら強え奴と戦闘する夢がよかった。夢だがイメージトレーニングの代わりになったのに。
 今日も授業はいつも通り行われる。が、欠席が目立つ。件のインターンに言っている連中が、入院して帰ってこれないのだ。ざまぁ。ついでにいっぺん死んでこればいいのだ。

 びちびちびち。

 耳に聞こえる、陸に上がった魚の必死にバタつく音。今朝の夢のせいで、死から連想してつい阿保みたいな光景を思い出す。そもそもあの椅子の鯵はなんのためにあそこに置かれたのだろう。調理方法としてはいささか斬新すぎやしねえか。
「おいアホ面」
「んお?」
 休み時間に寝てんじゃねーぞアホ、と苦言をこぼしてから聞いてみる。
「テメェ、電気で魚、焼いたことあるか」
「魚? 魚か~」
 ねーな、と返される。
「そもそも、この個性で食べ物焼いたことねーもん。電気って熱量の調節が難しいからよ、今の俺だと焼こうと思っても焦げちまうし、衝撃でぶっ飛ぶし・・・・・・。IHとフライパン用意して焼くならうまくいくけど」
 おお、馬鹿が論理的に説明するとやけに頭良く見えるな。そんなことを考えながら、「変なこと聞いた、忘れろ」と釘をさす。
 席に戻ろうとすると、アホ面の携帯が光る。
「お、切島からだ。今日夜に帰ってくるってよ」
「やっとか! つーか大丈夫なのかあいつら」
 しょうゆ顔がアホ面の液晶をのぞき込んでいる。話はあっという間に教室内に広がり、どう出迎えるかという話題に移っていった。

 やっぱ、魚を処刑するためにあの椅子の上に置いたのか。
 何度考えても意味の解らない夢だ。たかが夢、と思っても、耳の奥に聞こえるぴちびちびち、と魚の跳ねる音が気になる。

 授業を終え、帰寮してから走り込み用に着替える。その前に寝る前の部屋着を出しておく。汗まみれで帰ってきても、すぐに風呂へ入れるように。適当に取り出したたみなおしてベッドの上へ。Tシャツのプリントには「AJI FRY」と描かれている。なんだこれ。いつの間に。
 この変なのは、たぶんデクからもらったやつだ。仮免試験が終わって少し経ってから、水族館に行ったときのお土産だと、他の奴の分はないからこっそり渡されたそれ。ゴミ箱行きにしたつもりだったが、クローゼットの奥に眠っていたらしい。
 まあ、着て眠るだけだ。他の服も洗いに出したばかりだし、部屋に戻って気に入らないと思ったら別のTシャツに替えればいいだけか。
 そう思いロードワークへ繰り出た。

 飯を腹に収め、風呂に入り、居間でゆったりしていると、人が多いことに気付く。
「もうそろそろかな・・・・・・」
 黒目がふと立ち上がり、玄関のあたりをうろうろし始める。他の奴らも、くつろいでいるというよりは待ち人来たらず状態で落ち着かない。
 舌打ちが出た。さっさと部屋に帰って明日の準備でも――
「あ、帰ってきた!」
 その声で、一斉に玄関へと群がる。久々に耳に届く声。状況はアホ面やしょうゆ顔から聞かされていた。作戦は成功したが、完遂とはいかなかったらしい。保護対象は無事に回収できたが、敵連合の介入によりその親玉は捕り逃した、と。怪我人は複数出ており、なによりヒーローが一人、殉職した。しかも、クソナードがインターンで世話になったヒーローだという。あいつ、死神でもついてんじゃねーの。つか、あいつが死神なんじゃねえか。

 びちびちびちびちびちびち。

 魚が、鯵が跳ねている。電気椅子の上で、その身に激しい痛みを感じながら。
「大丈夫」
 聞こえた声。どこが大丈夫だよ。てめぇ、その言葉正しく使えたためし無ェだろうが。
 馬鹿らしくて、阿保らしくて、にやにやと近寄ってきたアホ面を躱して部屋へ行く。

 ベッドの上に身を仰向けて、白い天井を見ながらどれくらい時間が経ったか、控えめにノックが聞こえた。
「入れ」
 誰と確認しなくても分かる。弱々しく、4回もノックするのはクソデクしかいねーから。
「起きてたんだ」
 照明のついていない薄暗い部屋に迷いなく入ってきたデクは、へらへらと笑う。その頬を、思い切りぎゅっとつねってみる。
「はよ泣くだけ泣け。涙腺バカ」
 ふ、と鼻から抜けていく息を皮切りに、大きな目からぼろんぼろんとぬるい水が出てくる。ティッシュを抜いて、押し付けるだけ押し付けといて、鼻をかみ、使用済みになったものは床に散らばって。
 床はすぐに白いゴミだらけになった。考えもせず、嗚咽まみれの言葉は何を言っているのかさっぱりわからない。適当に相槌を打ち、ティッシュ2箱目を開ける。何枚か重ねてデクの鼻に、目に、押し付けていく。
「かっぢゃんは、しななぁ、でぇ・・・・・・っ!」

 びち、びちち。

 ああ、そうだ。あのとき俺の手を掴んだのは、コイツだ。
 せり上がってくる笑いを、抑えることなく口に出す。ひぅ、と涙目でデクは俺を見つめる。手を伸ばし、緑色に生い茂る頭を掴む。
「誰に言ってやがる、クソナード」
 きっと俺が死ぬまで、この緑色は視界に入ってくるのだろう。
 夢で、動かなくなった鯵に告げる。

 俺はまだそこには座らない。