しろくまたたくはくしゅんさん
2017-11-06 22:44:36
3557文字
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シスター!①【勝デク♀】

勝デク♀。まーた神父と女体化シスターネタかよ。そうだよ、性癖だよ。
完結したら支部にまとめます。

 真っ白い肌に、紅く、紅く、印がついていく。
 それを見ている目も、また紅く煌めいてた。



 シスター!



 ごぉん、がろぉん、と響く鐘の音で、出久は目を覚ました。ふぁ、と伸びをした彼女は、窓の外を見る。白い壁、赤茶の煉瓦でできた屋根。青い海は少しの緑に遮られているが、地平線へと続いている。海からすでに顔を出している太陽が、彼女の頬をまろく照らし出した。
「お祈り、行かなきゃ・・・・・・」
 ベッドから足を降ろせば、床がきしんだ。この間の雨漏りで痛んでしまった木床は、端から曲がってしまい、こうして音を立てるようになってしまったのだ。下に住んでいる大家の長女から「うるさい!」と叱りをうけるのが目に見えた。早急に直したいが、彼女の小遣いはすべて寄付で消える。どこかで大工から切れ端をもらわなくては。出久はそう思いながら、踏む場所を見定める。
 部屋の広さは、いま彼女が使っているベッドを5つ並べればぎゅうぎゅうになってしまうほど、狭い。屋根裏部屋なので、天井は低いが、幸いにも彼女の身長はそれほど高くはない。置いているものも、ベッドとサイドテーブル、洋服をしまうための大きなバスケットだけだ。出久は、これでも十分な広さだと大家に感謝している。
 バスケットを開けると、厚めで、ちょっとやそっとでは破けない、黒の服が入っている。彼女はそれを着ると、次にベールを頭につけた。白と黒に身を包んだ彼女は、首にいつも下げている「I」の形をした金のロザリオを引っ張り上げた。
 腐食で鈍色に輝く鏡の前で、おかしいところがないかを見る。最近胸がきついが、今日もなんとか収まってくれた。太るほど食べてはいないが、最近服と言う服の、胸当たりが苦しい。神父様は相談に乗ってくれるだろうか? 己の身体のことだ、己でどうにかしなさい、と言うだろうか。
 よし、と出久は気合を入れなおす。部屋を出れば、目下には階段が続いている。静かに、眠っている住人を起こさぬよう、降りていく。一階にたどり着くと、既に大家夫人が起きていた。
(今日は、機嫌が良いかな――
 出久はシスターだった。シスターたるもの、教会での毎朝の祈りには行かなくてはならない。だが、彼女にはおいそれと行けぬ理由がある。
「おはようございます」
「あら、今日も早いわね」
 夫人の感情が籠っていない返答に、出久は胸のロザリオを握る。
「あの・・・・・・お祈りに行ってきてもよろしいでしょうか」
 彼女の言葉に、夫人は肩をピクリと動かす。包丁が煌めき、だん、と大きな音を立ててまな板に突き刺さった。
「これ、剥いておいてもらえる? アタシは次の鐘が鳴ったら戻るから」
「はい――わかりました」
 ああ、今日はダメな日だった。
 出久は夫人と入れ替わる様に台所へ立つ。次の鐘は、あと1時間、鳴らない。籠には芽の生えたジャガイモ、ネズミにかじられた跡のある玉ねぎ、ミミズ穴があるにんじん。剥いておいてくれ、という言葉を素直に受け取ってはいけないと、出久は経験上知っていた。夫人が起きてくる前に、大家家族の朝食を仕上げなくてはいけないのだ。
 このようないびりは、出久にとって日常茶飯事である。
 なぜなら、彼女の家族は、この世で彼女ひとりなのだから。

 小さいころ、両親が流行り病で死んでしまった。
 その後親戚中たらいまわしにされ、ひどい扱いを受けて森の中へと逃げた。そして、この街へたどり着いた。お腹を空かせ路地をうろついていたところ、神父に見つけられ、シスターとして最低限の教育を受けてから、この家へと連れてこられた。
 いびりのような生活はそれからずっとであるが、毎日2食のご飯が食べられるだけでもありがたかった。自分の部屋があり、ベッドがあるのもありがたかった。腐った生肉を食べることも、雪が降る中犬小屋で震えながら夜を過ごすことも、もうないのだと。

 ぐつぐつ煮立っている鍋をテーブルに上げる。皿を用意し、均等に盛り付けていく。パンを二切れ、間にチーズを挟み、切ったハムを挟む。付け合わせはオリーブの酢漬け。湯気立つ食卓を眺める。どれもおいしそうだ。
 とん、とん、と階段を下りる音。夫人があくびをしながら降りてきた。朝食を出久に任せ、夫人は二度寝をしていたようだ。
「次の鐘までに洗濯物干しておいて。あと、中央広場の靴屋に主人の靴を出しといてちょうだい。そういえば、昼にオペラを見に出かけて夕方まで戻らないの。夕飯作る人がいないわね」
「すべて、僕がやっておきます」
「あら、そ。悪いわね」
 そこで会話は終わる。どたどたと階段をうるさく踏むのが聞こえて、出久は慌てて外へ出ようとした。
「マーマァー! 聞いて、あいつの部屋ぎいぎぃうるっさいの!」
 出久は背中に視線が突き刺さるのを感じた。振り返ると、夫人がにっこりと笑って言う。
「屋根裏部屋の修理も、今日中にね」
 目は、まったく笑っていなかった。

 出久は洗濯物を済ませると、遅めの朝食(大家家族が残した残り物)を食べ、朝食の片づけをした。大家の靴を出しに行くついでに、食料品の買い物を済ませた。これは言いつけられていないが、もはや彼女の仕事となっていた。帰り、食品の整理を終えた彼女は、陽が傾く前にようやく、教会へと足を踏み入れた。

「ふぅ・・・・・・」
 少し小高い丘にある教会は、この白と茶色の街と同じく、白壁で茶色いレンガの屋根で作られている。海と街、迫る森。ここから見る景色は、出久の癒しであった。
 一枚板で作られた扉を開く。すでに昼の礼拝も終わっており、礼拝に使ったろうそくの残り香を吸い込んだ。参拝者が毎日差し替える花を指先でくすぐる。
 ステンドグラスの前には、神として崇拝されるそのシンボルが出久を見下ろした。はるか昔、偉大な主は人々に愛を解き、自身の愛を他人へと無償で分け与えた。人々から集まった尊敬と畏怖の心はとうとう、主を殺してしまうに至る。主は捕らえられ、大きな一本柱に縛りつけられた。そして両手を真上で重ねられ、杭を打たれた。足もまた重ねられ、杭を打たれた。彼の神は最後、こう人々を諭したという。「これもまた、愛なのだ」と。ロザリオの形はここから来ている。己を表す「I」の文字は、主が張り付けられた柱の意味も持つ。普通の延べ棒と違う点は、上と下に穴が開いているところだ。杭を打たれた場所を表しており、その穴がゴミや錆で詰まってしまうと、その人は「地獄へ落ちる」とされている。上のほうの穴には鎖を通しているので詰まることはないが、下の穴を出久は毎晩磨いているので、穴の中も黄金に輝いている。
 出久は像の前に跪く。街の人々が健やかに過ごせるよう、これからも幸福で過ごせるよう。ぶつぶつと祈りを唱えていると、こつこつ、大理石の床を歩く音が聞こえた。こんな時間でも、己以外に別の参拝者がいるのか。頭の隅でそう考えつつ、祈りに傾倒する。
「おい、礼拝の時間は終わってるぞ」
 男の声が聞こえた。それは知っている。出久は祈り続ける。時間や祈りの長さは関係ないが、彼女はできるだけここに居たかった。ここで祈りを唱えている間であれば、何も考えなくていいのだ。
「この俺を無視するとはいい度胸だな? ああ゛!?」
 ぐい、とベールを引っ張られる。まとまっていた癖の強い髪が方々に跳ねた。
「な、なにするの!」
 ベールを取り返そうと、出久は振り返る。黒と白の布がはためき、ゆっくりと落ちていく。見えた顔は、恐ろしく整っていた。髪の毛は太陽のごとく黄金に輝き、瞳は燃えるように赤く見えた。ステンドグラスの光にあてられたかとじっとみつめても、やはり、紅い。
 出久より背は高いが、同い年くらいの少年は、彼女を見つめ返す。そのうちにやり、と口の端を上げると「テメェ、名前は」と尋ねてきた。
「い、出久・・・・・・緑谷、出久」
「ふぅん。じゃあ、デクだな」
 どこをどうして「デク」なのか、出久にはわからなかった。
「あ。その服――し、神父様?!」
 黒い詰襟、深紅のボタンがカソックの中央縦一直線に並ぶ。ケープの裾は金の刺繍が施されている。首からぶら下がり、ぺクトラルに至る「I」のロザリオと、右手薬指に光る大きな指輪には、夕焼け色の宝石があしらわれている。男は、まごうことなき神父であった。しかし、笑う顔は「健やかたれ穏やかたれ」と願う顔とはかけ離れている。どちらかというと悪魔的な笑みを浮かべている。
「おう。老いぼれジジイには隠居してもらってな。この教会の神父として、今日から仕えることになった」
 勝己、と名乗った神父を、出久が「かっちゃん」と呼ぶまで――あと3秒。