しろくまたたくはくしゅんさん
2017-02-26 22:41:23
2150文字
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「身から出た嘘、     」




 狐は、人を騙す。



 たった今、満場一致でひとつの案が通された。主はこのままでは死んでしまう。それと同時にこの本丸は無くなる。産まれくる赤子と、壊れゆく本丸を救おう、と言い出したのは誰だったか。噂で誰かがささやいていた。この本丸は無くなってしまう。なぜ。だって主が死んでしまうから。そうか。死ぬのか。まるで決定事項のような予想。待て、誰からそんな話が出た?
「それでは。子は、この小狐が」
 狐は、子育てがうまい。
 これは野生の狐のことであるので、この小狐丸という刀剣に当てはまるかはわからないが。産まれてくる子は、神性を持って生まれてくる。吸わせる気は、父である三日月に近ければ近いほどいい。そうなると必然的に三条派がその気を、養分としての役目を担うこととなろう。だのに、小狐丸は必要なしと我らを一蹴した。これは本丸を守るための「影の世界」に関係する。一度構築されれば、解除はそう簡単ではない。解除したとて、立て続けに構築するのも難しい。であれば構築できるのは一度きり。その中に残るのは赤子と養分たる小狐丸のみ。
「それで、よいのか」
「ええ。この身に代えても。ぬしさまとそう約束したので」
 笑う顔は嘘を隠すためか。真を受け入れた強さか。俺にはどちらとも分からぬ。分からぬのでどちらともとれる。しかし皆が受け入れるのであれば、後者として認める他あるまい。

 狐は、魂を分けることができる。

 今、俺の目の前で小狐丸は消え去った。新しい主は立派に育ち、最初の役目として刀解という責務を果たした。和紙に散らばった茶色い粉。小狐丸だったもの。これでは素材に還るまい、焼却してしまおう。和紙を折りたたもうとした時、主が「ちょっと待ってくれ」とすぐそこの棚を探り出した。そして取り出した小さな物いれに、小狐丸の欠片を収めた。砂のような、中にはぶつぶつとした塊もあるそれを、大事に仕舞う。取っておいてなにになるでもあるまい、と言ったところでその桐箱を離さないのは分かっておった。残りを薪と一緒に燃やせば、その錆も焦げも一緒に、空へと昇っていく。ま、大部分は地に還るであろうが。泣いて清々したこともあってか、別れはあっけなく終わるものだ。どうせまた新しいのがやってくる。それに前の記憶がなくとも、幾ばか主の心が軽くなるであろう。

 狐は、人を化かす。

 新しい主になってしばらく。主の元に時の政府から二振りの刀が贈呈されたのには驚いた。一振りは三日月宗近。もう一振りは、小狐丸。主にとっては複雑な心になるかと思いきや、新しく本丸に加わる刀剣に関しては記憶が更であるのだ。それを主も十分に理解している。していて、二振りに以前のことを話した。いや、この奇妙な関係を話しておかねば、本丸でややこしくなることは必須。こうして主から話を聞いた三日月と小狐丸は、それぞれ狐につままれたような顔をしている。ともかく失われた二振りが戻ってきたのはよいことだ。えんやこら、祝えや、踊れや、飲めや、歌えや。

 三日月も、小狐丸も、しこたま酒を飲まされた。主は二人に挟まれて幸せそうに笑い、酒を飲んで泣き上戸になり、そのままぐうと寝てしまった。
「ぬしさま、こんなところで寝ては身に障ります」
「ん、ぐぅ・・・・・・すぅー」
「今日はこれでお開きにしましょうか。私はぬしさまを部屋に運びます」
 小狐丸は酒に強い。主をお姫様抱っこすると、心配ない足取りで席を立ち出ていった。
「おや」
 と、三日月がその後に小狐丸の席から何か拾い上げた。黒い布。おそらく、小狐丸の髪結であろう。追いかけようとした三日月の足取りは、だいぶん危なっかしい。
「ああー、よいよい。俺が持って行こう」
「はは、すまんな。小狐丸によろしく言っといてくれ」
 そして、主の部屋に向かう。どうせ主はつぶれて寝ているのだが、起こさずにこっそりと歩く。
 そして、主の部屋を伺い、声をあげそうになった。いや、平常心でみればなんともないのだが、展開についていけず驚いたのだ。
「小狐丸!?」
 小さな声で呼びかけると、もぞりと白い髪が揺れる。
「岩融ですか。ふふふ、困りましたね。ぬしさまが離してくれず、このような形に」
 考えてみれば、その行動は必然だったのかもしれない。我々はなにが起こったかすべてを把握していないが、主によると、眠るときは必ず小狐丸と添い寝していたという。懐かしくなって、こうして酔ったことで甘えにでているのかもしれない。
「髪紐を忘れておったぞ。縛ろうか」
 ひらひらとたなびかせれば、小狐丸はこちらを見ることなく、こう答えた。
「いえ、そこの机に置いてくだされ。――どうせ朝にはぬしさまに乱されるので」
「がはは、お主も難儀よ、の・・・・・・」
 どくり、と心臓が嫌な音を経てた。
 そういえば、聞いたことがある。
 
 天狐は、千里眼を持っている。

「まさか・・・・・・な」
「そのまさかだったら、どうします?」
 小狐丸は、手で狐を作りこちらに向けた。その目は、その目は、「遊んで満足した」という目だ。
 もう一つ、俺は大事なことを思い出した。

 狐は、人を騙す。



 「身から出た嘘、から出たまこと」