不吉な実だった。それはとある植物学者が、どこからから拾ってきたものだった。採取地も分類カードも書いていなかった。正確には書いてある情報が、不確実だった。どこぞの団地の棟と部屋の番号が書かれていて、種目のところには「不明・首」と書いてあった。
亡くなる数日前から様子がかしくなったらしいから、錯乱していたのだろう。それは遺品整理をする彼の息子が一時預かることになったのだが、その息子というのが私の友人だった。
身内が死ぬと手続きが多くて疲れる。特にものが多くて遠方に住んでいたとなると、その整理をするだけで有給が全て溶けて行く。そんな口を聴きながら、木の実を手渡された。
この実は気味が悪い。家の片づけが終わるまででいいから持っていてくれないか。場合によっては捨てたっていい。
捨てたっていいならどうして預けるんだ。燃えるゴミにでも出してしまえばいいじゃないか。そういうと友人はゆっくりとかぶりを振った。何か悪いことが起こりそうで怖いのだという。
ともかくそれを家に置いておくのが怖いから、遠ざけたいのだという。どうしてもというのなら、仕方がない。欲しくはないが、断る理由はない。
私はそれを受け取ってポケットに入れて、家に持って帰った。酒を飲んで帰ったから、帰宅した途端に、ポケットの中の実のことは忘れていた。
その晩に夢を見た。
家の鴨居に綱がかかっていた。ぶらんぶらんと揺れているそれは人の首だった。
だらりとした頭部を見て、なんとなく木の実を思い出した。間違いなくあの実だと思った。どうしてそう思ったのかはわからない。語りかけられたように、理解してしまったのだ。
友人が捨てられないと言っていた理由もわかった。捨てたら祟られるかもしれない。命を落とした植物学者のことを思い出す。友人は父の死因が何であったのか語らなかった。
朝起きて存在すら忘れていた木の実を持って家を出た。これを家に置いておいてはならない。近所の公園に行き、池に実を投げる。
どぼんと音を立てて、濁った水の中に沈んでいく。浮かんでこなかった。
これで不吉をようやく手放すことができた。
私はひとまず安堵した。
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