確かあの日は夜までバイトをしていた。
うちは妹とほぼ二人暮らし状態だ。父親はうちに帰ってきたり帰ってこなかったりで宛てにならないしお母さんはとっくの昔にどっか行っちゃったし。
だから、まだ幼いあの子を守ってあげられるのはあたしだけ。
少しでも趣味と生活費を稼いであたしとあの子で贅沢する為にみんなには内緒で通りにある小さなオタク向けの本屋で働いている。
今日はいつもより仕事が立て込んでいて遅くなってしまったのだった。
暗い夜道を女の子一人はやはり怖い。でも、家で一人きりで留守番するあの子を思うとあたしよりも危険だ。
「早く帰らなくちゃ
……あ、そういえば家ってまだ食材あったっけ?買って帰った方がいいのかな~」
急ぎ始めた途端ぐるぐる色んな事が浮かび始めて頭まで忙しくなった。
少し小走りで帰路を歩いていると途中。チカッと何かが右目の端で光ったような気がした。
疲労で遂に目にきちゃったかな、なんて思いつつその光の方を向くと見間違えではなかったようだ。
近くの緑が生い茂る公園に光る一本の柱が見えた。人間って不思議なものを見つけると動けなくなっちゃうんだな。
あたしはその光る柱を少しの間ぼんやり見つめてしまっていた。やがて光の柱は空の黒色に静かに溶けて消えてしまう。
見届けたところでハッと意識を取り戻し、自分は早く帰宅しないといけないことを真っ先に思い出して視線を前方に戻す。
そこにあるのは街灯があって、それに照らされる道端の植物や石畳の道。住宅からは光がところどころ漏れていてそれがいつも通りの光景。
……のはずが、金色の丸が眼前にあった。これはーーー
……瞳?
「ひっ!?」
「君、見た?」
「え?」
誰の声?この世のものとは思えない声が突然した。
男というか女というか、それが混ぜこぜになっていて、ああそうだ。
あのテレビでよくある犯人の声みたいなのに少し近い。とにかく、例えようにもよく分からない声がする。
まばたきして少し首を後ろに反らすと目の前の物体の全体像は見えた
……がこれまたよく分からない。
人でないし、動物でもない。イメージするなら
……宇宙人が適切だろう。
真っ黒い目を持った白いマントみたいな物体が浮いている。
「君さっき僕が見えただろう?」
「見えたって何?誰の声よこれ~!?」
「僕、僕!目の前だよ!」
宇宙人はふよふよぴょんぴょん縦横に動いてアピールする。
まさかこれが喋ってるの?口なんてないのに。
「口はなくとも喋れるんだこれが!ふふふ、面白いかい?」
「
……」
「あれ?僕が見えてるよね?会話してよ~」
あたしの顔の周りを蠅みたいにぶんぶん周る宇宙人。
本能が関わるなと言ってる。危険信号には素直に従うのが吉だ。
無視して帰ることに専念しようと思った。が。
「君ね~僕の質問に答えないなんてとても無礼だよ!こんなに友好的に喋りかけてあげてるのに~!自分の思考が読まれてるって気づいたなら無駄に抵抗せず答えるべきだよ!」
ぷんぷんと可愛く怒ってるつもりらしいが異質さの方が勝っている。
「
……あんた、何?」
「きたー!僕はね神様だよ!君たちが暮らす逢魔
―――……桜磨町の!」
威厳がない喋り方だな、などと案外冷静に思う。
「だからこれは君たちと友好的に会話する為の口調なんだって。ほら、僕がいきなりさ「私は神だ。お前、私が見えているのか?答えろ。さもなくば首を飛ばすぞ」なんて言ったら怖いでしょう?優しさだよね!感謝しようね」
「はあ
……」
なんか疲れるなこいつの相手。い、いや神様ならそんなこと思っちゃいけないんだろうけど、どことなく怪しいし。
ってか神様?この町の?でも神社に祀られてる絵とかこんなんじゃなかった気が
……。
「おやおや、疑問がいっぱいだね?まあそれはいいんだ!僕が神である事実に変わりはないから!で、君僕が見えるんだね?うわ~すごいねえ、珍しいねえ。うんうんいるんだねえ」
相変わらずあたしの周りを楽しそうな声色で飛び回る。
「あの、神様
……ごめんなさい。あたし早く帰らないといけなくて。」
「ああそうだったね?じゃあ帰りながら話そうか!」
(うわあ、これナンパ男の手口と一緒じゃん
……やべえな
……)
「気にすることはそこなんだね~さっきから君ちょっと変わってるよね?面白いな」
「それで神様が何の用事なんですか?」
「地上でね~悪さをするやつがいるからこらしめないといけなくなったんだ!僕はただでさえ多忙だというのに、でも悪いことをすると罰がくだるんだぞ!って教えるのは大事なんだ。ああ、でもね僕ってこれ分身なんだ~代理が今は町を管理してくれてるよ~」
「
……べらべら重要そうなこと喋ってるけどいいの?あたし、ただの町民よ」
「ただの?そうかなあ。僕、今霊体のはずなのにな」
「
……え?」
しまった、と今更感じた。
時々あるのだ。霊か人間かわからず話しかけてしまうことが。
昔、道端でうずくまってる人を見かけて心配だから話しかけてみたら血だらけの幽霊でなにか呪いの言葉みたいなのを言いながら追いかけまわされることもあった。
だからなるべく気にしないようにしてるのに。不覚だ。
「そうそう。今君は見えない何かと喋ってるも同然なんだよね」
「さ、最初に言ってよ!!」
「言ったよ!?」
「うーーー
……じゃあもう帰ってください!あたしそういうのと関わりたくないんで!」
「待って待って~僕は悪いものじゃないよ~みんなを愛する優しい神様だよ~!君にもひどいことはしないよ!」
「嘘よ!関わるといつもろくでもない目に遭ったりすんの!困ってるなら他の見える人でもお頼りください!」
走って逃げだそうとするが、神様は悠々と私についてくる。
「僕暫く地上で過ごすことにしたからお家に困ってるんだよ~ほら、路上で神様が過ごすなんてかわいそうだと思わないかい?助けると思ってさあ」
「うちにそんな暇あると思ってる!?」
「大丈夫大丈夫!僕は君たちみたいに何か消化したりする必要がないから!」
「神なら家も創造すればいいんじゃないの」
「あ、確かに!でも君僕の力通用しないうえに大分事情知っちゃったよね?旅は道連れ世は情けって言」
「とにかくあたしに構うなーーーっ!!」
「も~強情な子だなあ」
「はあはあ
……!」
夢中で家の近くまで走っていた。
真っ黒でどこまでも続く路地の隅にうちの家のオレンジ色の灯りが見えて少し安心する。
周りを確認することもなく安心感に囚われたあたしはそのままゆっくり歩いて呼吸を整えながら玄関のドアの前へ。
ドアを開けた先でココアがあたしに明るくお帰りって言ってくれることを想像するとさらに安堵できる。
二人きりでも互いの想いであったかさを作れる我が家。どんな疲れや悩みがあっても、笑顔と笑顔で吹っ飛ばせるのだ。
鍵を開けて中に入って早速
……。
「ただいまココア~!」
「おかえりお姉ちゃん!」
いつも通り、ココアは小走りで私の元へと走ってきてくれる。なんと愛らしいことか。
ああ、なんかさっき変なことがあった気がするけどもう忘れちゃっ
……。
「お姉ちゃん後ろの人だあれ?」
「ん?人?」
人なんていなかったはずーーー
「こんばんは~僕はお姉ちゃんのお友達だよ~」
見知らぬ人が立っている。銀色の超ロン毛で柔らかい瞳なのに冷たく輝く金色のなんか知らん美形が。
声からすると男だ。ただ格好が
……なんともすごい。白装束っていうんだろうか。
それが豪華になったみたいな
……。
「お姉ちゃんのお友達さん!こんばんは~」
「今日からこの家でお世話になるんだけどいいよね?」
「うん!いいよ!」
「ちょ!?ココア!?勝手に決め」
「だめなのお姉ちゃん
……?」
「うぐッ
……」
うるうると涙と揺らめく瞳があたしに訴える。純粋な善意には少し弱い。
ダメなんだけどダメといえない、これが抑止力か。でもダメなんだよココア!
「あ、あたし、こいつ知らない
……」
「口裏を合わせてくれないと困るよ?君は僕を自分の領域に誘ったんだから、どうして確認しなかったんだい?ずうっと後ろにいたのにね。一心不乱でもはや感知することもできなかったのかな」
「まさか、あんたさっきの神様!?」
神様はあたしの驚愕する姿を見て可笑しそうにくすくす笑っている。くそぅこいつ顔がいいぞ。
まさかこいつあたしの弱点知っててこれなの?なんとあくどい野郎なんだ
……。
「僕は君の心強い味方にも、敵にもなれることを肝に銘じておくんだよ?僕と末永く仲良くしようねカレン君」
ぽん、と私の肩に優しく手を乗せてくる。相変わらずの微笑。
少しはあの姿の面影があるようなないような気がする。
「教えてもないのに気安く呼ぶな
……!」
「さあさあ早くごはんにしようよ~カレン君~」
「カレンく~ん!」
と真似をしながらココアがストーカーと一緒にリビングの方に入っていってしまった。
ああ、やっぱり絶対に変なのとは関わるんじゃなかった
……。
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