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望月 鏡翠
2024-01-06 13:00:40
969文字
Public
日課
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#1227 「洞穴」「王女」「繊維」
#毎日最低800文字のSSを書く
今年から、洞穴の王女の世話を私が務めるようになった。
難しいことはない。食事を持って行く。あまり美味しそうだとは思わないが、彼女はそれしか食べないらしい。そして引き換えに反物を受け取ってくる。肌触りが滑らかすぎて、儚く消えてしまいそうな繊細な布だ。
それは村の主な収入源になっている。だから、敬意を込めて王女様と呼ぶ。本当は誰の娘でもないらしい。もちろん高貴な家柄などではない。
彼女の希望で、世話係は怖くない人が良いらしく、それでが務めることになった。村で一番小柄だから。それに冒険心もない。でも好奇心はあるということをみんな忘れているらしい。
穴倉から一歩も出てくることなく布を織り続けている王女。糸はどこから持ってきているのだろう。どんな見た目をしているのか気になって仕方がない。こんなに綺麗な布を作るのは一体どんな人だろう。
だから中に入ってみた。洞穴は布や食べ物のやり取りをするのに十分な広さしかなく、大人は入れない。でも子供ならば中に入ることができたから。
中は真っ暗だったから、灯りを持っていた。入り口を潜り抜けると、広い場所に出る。外の光を頼りに火をつけて、中を照らす。
王女はいなかった。その呼び名から想像するような人間の形をしたものは、そこには存在していなかった。中にいたのは虫である。人よりも大きく、穴からは到底出ることができない大きさをしていた。
洞窟の中にはキラキラと光を反射するものがある。繊維だ。とても細かい糸。切れたりちぎれたりした糸の繊維質が洞窟の中に舞い散って、光を反射する。
綺麗だ。
布があった。よく見慣れた一枚の布だ。それは虫から発せられていた。この虫は、繭を作ろうとしているのだ。でもきっと一生完成することはないだろう。そうやって紡いだ糸は片端から布に作り変えられてしまうのだから。
それにこんなに体が大きくては外に出ることができない。だからせっかく紡いだ糸を人に渡してしまうのだ。差し出せば代わりに餌が穴から入ってくる。
じゃあ、私は?
ゾッとする。慌てて穴から這い出す。蛹にもなっていない虫は、動きが鈍いからなんとか捕まらずに外に出ることができた。
それ以来、穴の中には入っていない。だってあれは王女じゃなくてただの虫なんだから。
虫が私に気がついた。
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