そら
2022-12-22 00:06:15
2154文字
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【遙かなる時空の中で】初めての恋文【藤原鷹通】

#藤原鷹通生誕祭2022。


藤原鷹通×元宮あかね。
時間軸はゲーム終了後で京エンドです。


「神子殿からいただくのは少しばかり欲深いでしょうか?」

 京を救った天から舞い降りた乙女が初めて迎える冬だった。
 藤姫の館であかねは、時折やってくる八葉と共に時間を持った。
 八葉は、それぞれの生活に戻り、訪れるのは稀だった。
 藤姫も星の一族として、今回の戦いを記すので忙しそうだった。
 一人の時間が長いと、残って良かったのか疑問が湧いてくる。
 ただの邪魔者ではないか。
 そう感じてしまう。


「神子様、鷹通殿がいらっしゃっています。
 お通しいたしますか?」
 御簾越しに藤姫が尋ねた。
 手習いをしていたあかねの手が止まる。
「もちろん!」
 書き散らした文字が乾いているのを確認して、文机の隅に置く。
 ほどなくして落ち着いた足音が近づいてくきた。
 幾日ぶりだろうか。
 内裏での仕事が忙しい鷹通が足を運んでくれたのだ。
 あかねの胸が喜びでいっぱいになる。
「失礼します」
 御簾をくぐり鷹通がやってきた。
「今日は珍しい絵巻が手に入ったので、それをお持ちしました」
 と絵巻が几帳越しに差し出された。
 綺麗な紙からは、侍従の香がしてホッとした。
「ありがとうございます」
 あかねは笑った。
 でも、それも几帳越しでは伝わらないだろう。
 それが残念だった。
「鷹通さん、欲しいものがありませんか?」
 あかねは思い切って口を開いた。
「欲しい……ものですか?
 こんなにも幸せに包まれた毎日を送っているのに、これ以上望んだら龍神の怒りを買いそうです」
 鷹通は生真面目に言った。
 本心からの言葉だろう。
 欲がない答えに、あかねは落胆する。
「本当に欲しいものがないんですか?」
 あかねは、めげかけながら再び尋ねる。
「唐突にどうしたのですか?」
 几帳の前に鷹通は座った。
「それは……その、もうすぐ鷹通さんのお誕生日じゃないですか。
 何か素敵な物を贈りたいと思ったんですが、京ではお誕生日祝いを特にしないと聞いて、色々と迷ってしまって」
 あかねは言っていて悲しくなってきた。
 せっかく目の前に好きな人がいるのに。
 ちっとも嬉しくない。
 几帳があって良かったと思った。
 こんな表情は見せられない。
「スミマセン、迷惑ですよね」
 あかねは謝った。
「迷惑なんてとんでもない。
 神子殿がこうして私のことを考えてくださる。
 それだけで充分です」
 真摯な声が言った。
 神子と八葉らしいやり取りだった。
 いつまで自分は神子なのだろう。
 せっかく京に残ったのに。
 大切な想いを大事にしようと思っていたのに。
「形になる物を贈りたかったのです」
 所詮お飾りの龍神の神子だ。
 そう言われている気がしてくる。
「神子殿の世界では、そう祝ってきたのですね。
 ……欲しいものが全くないわけではないのですが。
 性急すぎるものばかりが思い浮かびます」
 困ったような、歯切れの悪い言葉が几帳越しに伝わってくる。
「どんなものでもいいんですよ」
 あかねは言った。
「女人が軽々しく言ってはなりません。
 それにつけこむ輩がいないとは限りません」
 鷹通はキッパリと言う。
「つけこんでくれてもかまいません。
 むしろ、そうしてください。
 私、本当にわからなくなっちゃったんです」
 涙が零れそうだった。
 大好きな人のお誕生日に何も贈れない。
 そんな無力な自分が嫌いになりかけていた。
……そうですね。
 そこまで言うなら、文をください」
 落ちかけた沈黙を破るように、鷹通は言った。
「え!」
 意外な言葉に、あかねは驚く。
「神子殿の気持ちをこめて歌を詠んだ文がいただけるのなら、これ以上の幸いはないでしょう」
 鷹通の声はどこか、楽しそうだった。
 現金にもあかねの涙は引っこんだ。
「わかりました。
 鷹通さんのお誕生日までに、藤姫に鍛えてもらいます。
 頑張りますね!」
 あかねは言った。
 ラブレターの書き方を習うのは子どもじみていたが、それが望まれたのだ。
 どんな歌がいいだろう。
 手習いを始めていて良かった、と思った。
「頑張りすぎないでくださいね。
 今年は楽しみなことばかりですね」
 鷹通は嬉しそうに言った。
「神子殿からいただくのは少しばかり欲深いでしょうか?」
「もう私は龍神の神子ではありません。
 ただの来訪者です」
 あかねは無力な少女に戻ったのだ。
 怨霊が再び現れた時、封じられるのか。
 星の一族の藤姫にもわからないようだった。
「神子殿は神子殿です。
 京を救ったのはあなたの功績です」
「私にはもう……特別な力はないんです。
 いつまで私は『神子殿』なんですか?」
 あかねは勇気を奮って尋ねた。
「私が八葉である限り」
 鷹通は断言した。
「頑固ですね」
 そこが好きなところなのだから、仕方がない。
「お互い様ですよ」
 鷹通は言った。
 几帳の向こうは、きっと笑顔だ。
 そうに違いないとあかねは思った。
 鷹通のお誕生日までに歌を詠む練習をしなければ。
 そして、お誕生日には几帳越しではなく、直接顔を見るのだ。
 愛をこめた文と共に抱きつくのだ。
 きっと侍従の香は、途惑いながら受け止めてくれるだろう。
 近い未来を想像して、あかねは幸福に酔った。