そら
2020-06-23 00:02:20
2018文字
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【ファンタスティックフォーチュン】名無しの王子様からの最後のプレゼント【ディアーナ】

ディアーナ姫の誕生日に毎朝、届くものがあった。――セイリオス×ディアーナ風味です。恋愛というよりも仲の良い兄妹といった感じです。

 誕生日の朝には帽子とメッセージカードと一輪の薔薇が届いた。
 メッセージカードには送り主の名前はない。
 流麗な文字で『誕生日おめでとう。エーベ神の祝福があらんことを』と書いてあるだけだ。
 だから今年の誕生日も期待した。
 けれどもディアーナの部屋に誕生日プレゼントは届かなかった。
 代わりに私室のドアがノックされた。
「どなたさまですか?」
 ディアーナは問う。
 ドアを簡単に開けてはいけないと注意されたからだ。
 都に戻ってから二年。
 色々と複雑な立場に置かされているようだ。
「部屋に入っても大丈夫かな?」
 清潔感があり、張りのある声が尋ねた。
「お兄様」
 ディアーナはビックリしてドアを開けた。
 病弱な父王に変わって摂政をしている兄が立っていた。
 一抱えもあるような箱を持って。
「誕生日おめでとう。エーベ神の祝福があらんことを」
 メッセージカードに書いてあった言葉をセイリオスは言った。
「ありがとうですわ。
 名無しの王子様はお兄様でしたのね」
 ディアーナは微笑んだ。
「ずっと秘密の方が良かったかな?」
 セイリオスは言った。
「名乗っていただけて嬉しいですわ」
 大きな箱を受け取る。
 中には帽子と数枚の紙が入っていた。
「これは?」
 ディアーナは紙を取り出す。
 どうやら、楽譜のようだ。
 見るだけでも楽しいような流れるような音符が五線譜に踊る。
「今年は特別だよ。
 成人するのだからね」
 セイリオスは言った。
「お兄様が作曲した曲ですか?」
「歌ってくれるかな?」
「もちろんですわ」
 いくら趣味とはいえ、忙しい合間に作曲してくれた曲だ。
 胸が熱くなるのを感じた。
「たくさん練習して、お兄様だけに聴いてほしいですわ」
 飛び切り素敵な誕生日のプレゼントだろうか。
 大事にしたい気持ちがこみあげてくる。
「私だけでいいのかい?」
「だって、お兄様がわたくしのために作ってくださってものですもの。
 お兄様の為だけに歌いますわ」
 ディアーナの言葉に、同じ色の瞳が細められる。
「それは楽しみだ。
 急かすようで悪いが、これから中庭に出られるかい?」
 セイリオスは言う。
「荷物を置いてきてもよろしいですか?
 それに、新しい帽子を被っていきたいですわ。
 ほんの少し、お時間をいただいてよろしいですか?」
 ディアーナは言った。
「それぐらいの時間なら大丈夫だよ。
 では、部屋の外で待っているよ」
 セイリオスはドアを閉めた。
 楽譜は鍵付きの引き出しにしまう。
 鏡を見ながら、真新しい帽子を被る。
 母と同じ色の髪に、白を基調とした帽子はピッタリだった。
 これからの季節らしい色合いでまとまっている。
 毎年贈られる帽子は、どれもこれもセンスが良かった。
 兄が良く吟味してくれたのだろう。
 ドレスの乱れがないか確認してから、ドアを開ける。
「お待たせですわ」
 ディアーナは笑顔で部屋の外へ出た。
 王族特有の紫色の瞳が優しく、微笑んでいた。
「さあ、行こうか」
 セイリオスは手を差し伸べる。
 ディアーナは成人したのだと再確認した。
 貴婦人扱いされて、照れる。
 淑女らしく、手を重ねる。
 舞い上がってしまって、中庭までの道のりは上の空だった。
 朝の中庭は、まだ眠りについているようだった。
 この季節にふさわしく百花の女王が陽の光を浴びていた。
「ここの薔薇でしたのね」
 ディアーナは綻びかけた薔薇を見つめる。
 すでに甘い芳香が漂っていた。
 毎年、贈られてきた一輪の薔薇。
 セイリオスは固い蕾の薔薇を手折る。
 おそらく今までもそうしてきたのだろう。
 手慣れた仕草だった。
「ディアーナ。
 これでプレゼントはおしまいだ」
 深みのある色合いの薔薇が差し出された。
「来年はいただけないのですか?
 毎年、楽しみにしておりましたのに」
 ディアーナは開いた手の方で受け取った。
 誕生の宴がすむ頃には、花びらが開いているだろう。
「それは、ディアーナの夫の役目だ。
 もう、兄の手はいらないだろう」
 すっと手を離された。
 それが寂しくて、ディアーナは俯いた。
「今日の主役がそんな顔をするものではないよ。
 王族なのだから、それらしく振舞わなければね」
 セイリオスは諭すように言う。
「お兄様は、いつまでも私のお兄様ですわ。
 きっと来年も用意してくださるはずですわ」
 ディアーナは顔を上げた。
 セイリオスは困ったように微笑んだ。
「そうだね。大切な妹だからね。
 どうやら、私は甘やかしすぎのようだから。
 ディアーナの言う通り、プレゼントを用意してしまいそうだ」
 セイリオスは、いつも通りの口調で告げた。
 ディアーナは笑顔を浮かべる。
 朝食の時間までの短い時間を二人は薔薇が開く中庭で過ごした。
 来年を信じながら。