そら
2018-12-30 00:02:40
2193文字
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【アンジェリーク】交差点【エルンスト】

エルンストさま聖誕祭2018。エルンスト×レイチェル風味です。時たま交差する道に運命と名付けるのは、いささか感傷的だろうか。

 太陽が沈み、窓からは星の光が滑りこむ頃。
 執務の時間は終わりだったが、男性は端末に向かいあっていた。
 室内はタイピングする音と機械たちの重低音以外を拒絶していた。
 鋼の守護聖らしい執務室だった。
 チタンフレームの奥の瞳は、モニターを注視していた。
 数度瞬きをすると、キーボードを打つ手を止める。
 今日はこの辺りで区切りにしようか、とエルンストは息を吐き出した。
 時間は有限だが、残された時間を数えるほど短くはない。
 それが守護聖になってから利点の一つだった。
 テーブルの隅でぬるくなったコーヒーに手を伸ばす。
 静かな空間はセンチメタリズムを呼び起こす。
 ここにはいない少女のことを思い出させる。
 少女と男性は、ずっと平行線を歩んでいるのだと思っていた。
 近くて遠い。
 離れているようで、寄り添いあっている。
 時たま交差する道に運命と名付けるのは、いささか感傷的だろうか。
 突然、少女は現れてエルンストを途惑わせる。
 気がつけば少女に連れられて、トラブルのど真ん中にいることもある。
 神様が決めた運命だと思わなければ、乗り切ることが不可能な交差ばかりだった。
 今度の交差はいつもよりも長いようだ。
 鋼の守護聖となり、聖獣の宇宙への貢献を求められる。
 始まりの色だと思った瞳と同じ物を見る。
 それは退屈しない日々だろう。
 少女と離れた三年間という時間は、エルンストに変化をもたらした。
 前回の交差で永遠の別れだと思っていたから、時間は遅々として進んでいくように感じた。
 もう二度と少女に振り回されることはないのだ。
 そのことを厄介だと感じていたはずなのに、胸に穴が開いたような気がした。
 望んでいた自由を手に入れたはずなのに、衝撃を受けた。
 少女の明るい声も、すべて過去へと押しやられる。
 それが辛かった。
 研究に打ちこむことで毎日をやり過ごしていた。
 けれども、再び道は交差した。
 また少女と一緒の時間軸の中で生きる。
 僥倖にエルンストの心臓は高鳴った。
 共に歩める、ということが嬉しかった。
 宇宙を眺めるように、少女を観ることができる。
 またいつか別れの日がくるだろうが、その別離に備えることができる。
 それほどの猶予に、エルンストは感謝した。
 たぶん、最後の交差だ。
 全部を脳裏に灼きつけておきたい。
 三年前に感じた後悔をくりかえさないために。
 エルンストの思考を止めるように、ノックの音がした。
 執務の時間はとっくのとうに終わっている。
 私的な研究のために残っていたからいいものの、訪問者は空室だったらどうするつもりだったのだろうか。
 返事を待つことなく、ドアノブが回って、少女が飛びこんできた。
 執務服ではなく、街を歩くような恰好をしていた。
 手には紙袋。
「お誕生日、おめでとう!」
 レイチェルは言った。
 今日、何度か聞いたフレーズだった。
「ありがとうございます」
 エルンストは礼儀上、答える。
 今夜は女王陛下の名の下に晩餐会が開かれる予定だ。
 執務との空き時間、私邸に戻るのも面倒だと思い執務室にいた。
「はい、差し入れ」
 レイチェルはエルンストに紙袋を押しつける。
 コーヒーカップをテーブルに置くと、中を改める。
 栄養補助食品と無塩のトマトジュースだった。
「もっとプレゼントらしいものを好物にして欲しいよ」
 少女は愚痴る。
「わざわざ買ってきてくださったのですか?」
「仕事の合間にでも食べてよ。
 賞味期限はたっぷりあるから」
 レイチェルはテーブルの上に腰かける。
「お気遣いありがとうございます」
「チョー優秀な女王補佐官だからね。
 誕生日を迎えてどんな気分?」
 始まりの空の色の瞳がキラキラと輝いている。
「感慨はないですね。
 昨日の続きのようです。
 それに誕生日がきたからと言って、歳をとるわけではありません」
「嬉しいの一言が欲しかったんだけど」
「貴方も誕生日を迎えたら、分かりますよ」
 エルンストは言った。
 老化は緩やかになり、常春の楽園で過ごす日々。
 責務をまっとうするために与えられた気の遠くなるような時間。
 即位したてのエルンストでも、人ならぬ身になったことがわかる。
「それでも誕生日は嬉しいでしょ」
 テーブルから降り、レイチェルはエルンストの正面に回る。
 暁色の瞳が男性を見据える。
 道が交差するたびに少女は祝ってくれた。
 特別な日だという。
「お返しを考えなければなりませんね」
「ワタシの誕生日を盛大に祝ってくれるの?」
「それが貴方の望みならば」
 エルンストは微苦笑を浮かべる。
「期待しているよ。
 じゃあ、晩餐会で」
 そう言い残すと、少女は立ち去った。
 来た時と同じように、帰っていく。
 今宵の主役は重々しくためいきをついた。
 形式ばった食事は時間の無駄と思ってしまう。
 しかし、女王陛下が自らが直々に開いてくれるものだ。
 無下にはできない。
 騒動が起きなければいいが、個性的な面々だ。
 難しいだろう。
 それすら少女は楽しむのだろう。
 想像がつくだけに、気が重くなる。
 何事もなく、無事に終わりますように。
 誕生日の願いとしては、ささやかなことを鋼の守護聖は思った。