そら
2018-07-12 00:00:27
2144文字
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【アンジェリーク】欲しい物【ルヴァ】

ルヴァさま聖誕祭2018。ルヴァ×女王リモージュ。SP1終了直後に迎えた誕生日。

 穏やかな昼下がり。
 日の曜日に相応しいささやかなお茶会。
 常春の聖地で宇宙を統べる女王陛下はためいきを零した。
「ルヴァさまの欲しいものがわからない」
 アンジェリークはテーブルに突っ伏した。
 付き合っていた青い瞳の女王補佐官は眉をひそめた。
「女王陛下」
 いつもとは異なる呼ばれ方をした。
 まるで謁見の間にいるような。
 行儀が悪かったことを責められたのかと思ったが、声色が違う。
 考えを巡らせ、アンジェリークは己の失敗に気がつく。
「ルヴァの欲しいものがわからない」
 即位したての女王は顔を上げ、言い直した。
 まだ、どうしても慣れない。
 宇宙の引っ越しという大事業を成し遂げた少女は守護聖を呼び捨てにするということが。
 女王補佐官はティーカップをソーサーに戻す。
「ロザリア。
 どうしよう」
 アンジェリークは弱音を吐いた。
 誕生日が迫ってきているのに、全然わからないのだ。
 せっかくの誕生日だ。
 ルヴァの好きな物を贈りたい。
「新茶の季節ですし、ギョクロだったかしら?
 緑茶の中でも、特に好むみたいだから、それにしたらどう?」
 女王試験中はライバルだったが、今は頼れる女王補佐官だ。
 的確なアドバイスだと言えた。
「ありきたいりじゃない?
 記念に残るような物をプレゼントしたいのよ」
 アンジェリークは頬杖をつく。
「それならブックカバーは?」
「すでにお気に入りのブックカバーがあるのに?」
「あなたから貰える物なら、何でも喜びそうだけど」
「そうなのよ!」
 アンジェリークはテーブルを叩いた。
 ティーカップが揺れて音をたてた。
 青い瞳が睨んだが、それ以上の気がかりだった。
「ルヴァは欲がなさすぎななのよ。
 だから、何をプレゼントしたいいのか」
 アンジェリークは深いためいきをついた。

   ◇◆◇◆◇

 執務の終了を知らせる鐘が鳴った。
 微かな期待をこめてルヴァは立ち上がった。
 執務室の隣室に向かう。
 手慣れた手つきで二人分の紅茶を淹れる。
 執務室の窓辺に置かれたテーブルにカップ&ソーサーを並べる。
 かぐわしい香りにブルーグレイの瞳が細められる。
 ルヴァが扉を見た瞬間、宇宙で最も尊い少女が飛びこんできた。
「こんばんは、ルヴァ」
 いつものように元気な挨拶に口元がほころぶ。
「こんばんは陛下」
 青年が言うと少女は一瞬、顔を曇らせた。
「執務の時間は終わりよ」
 翡翠色の瞳がルヴァをとらえる。
「そうでしたね。
 ……あー、アンジェリーク。
 お茶でもいかがですか?」
 青年は少女の名を呼んだ。
 宇宙一の贅沢だ。
 名を呼ぶのは、女王試験終了日に交わした約束だった。
 少女に笑顔が戻る。
「ありがとう」
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
 二人は窓辺のテーブルに座る。
 こうしていると何もかもが夢だったような気がする。
 女王試験の最中と変わらない光景だった。
「ねえ、ルヴァ。
 欲しい物はある?
 あるいは、して欲しいことはある?」
 少女は真剣に尋ねてきた。
「こうして、あなたとテーブルを囲めるだけで、充分幸せですよ。
 私の話し相手になってくれる。
 退屈ではありませんか?」
 青年は正直に答えた。
「ルヴァの話は好きよ。
 知らないことばかりだと気づかされるもの」
 アンジェリークは試験中のように、向上心にあふれる言葉を紡ぐ。
 本当に少女は努力家だ。
 ルヴァの言葉に、宝石のような瞳が揺らぐ。
「今日はルヴァの誕生日でしょう」
 声が沈みこんでいた。
「あー、そうですね」
 守護聖に即位して歳を数えることが無意味になったせいか、言われてから気がつく。
 誕生日が来ても歳を重ねることはない。
 即位したての少女にはわからない感覚だろう。
「考えてもルヴァの欲しい物が思いつかなかったの」
 アンジェリークはティーカップの縁をなぞる。
「ありがとうございます。
 その気持ちだけで充分、嬉しいですよ。
 覚えていただいただけで、幸せです」
 誕生を祝われるのは純粋に嬉しい。
 それが忠誠も愛情も捧げた相手からなのだから、至福だった。
「どんな我が儘でもいいのよ。
 だって、今日は特別の日なのだから」
 真っ直ぐに翡翠色の瞳がルヴァを見つめる。
「あー、我が儘ですかー?
 そうですねー」
 ルヴァは考えこむ。
 これといって欲しい物はない。
 今以上の幸せな時間はない。
 青年の脳裏にふいに過ったものがあった。
 どんな我が儘でもいいのなら一つ。

「次の日の曜日。
 ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」

 デートの申しこみというのは緊張する。
 断れない、とわかっていて卑怯なような気がした。
「そんなことでいいの?」
 翡翠色の瞳は大きく見開かれる。
「あなたと一緒に過ごせる時間は貴重なのです」
 ルヴァは言った。
「喜んで」
 アンジェリークは満面の笑みを浮かべた。
 その表情にルヴァは、ほっとした。
 心臓はまだドキドキと高鳴っているが、時期に落ち着くだろう。
 次の日の曜日が楽しみだった。
 きっと気持ちの良いぐらいの晴れの日だろう。