そら
2017-09-17 09:06:31
1825文字
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【刀剣乱舞】好きな色【加州清光】

Pixivに掲載中の『赤い鈴』の続き。遠征任務から帰ってきた安定が尋ねる。

「主、入るよー」
 明るい声と同時に、障子が開けられて、安定が入ってきた。
「遠征、お疲れさま」
 審神者は労いの言葉をかけた。
「あれ、清光は?」
 安定はそう広くない部屋を見渡す。
「今、お茶を淹れてもらってるの」
 審神者は答えた。
 政府に提出する書類はどうにか片付いた。
 期日に間に合って本当に良かった。
「加州に用があったの?」
 審神者は尋ねた。
 もうしばらくすれば、戻ってくるだろう。
「いつも主にべったりだから、珍しいなって。
 特に用はないよ。
 はい、これ」
 安定は懐から、四葉のクローバーを取り出した。
「遠征の帰り道に見つけたんだ」
「ありがとう」
 審神者は立ち上がり、木箱を机の上に置く。
「目立つね」
 安定が言った。
「え?」
 審神者は小首を傾げた。
「それ」
 安定は鍵を指さした。
 正確には、鍵についていた根付を。
「主は赤が好きなの?」
 審神者は答えに困った。
 どちらかといえば、安定の瞳のような青が好きだった。
 赤は、自分には華やかすぎて似合わない。
 そんな風に思っていた時期が長かった。
「変かなぁ?」
 審神者は木箱の鍵を開ける。
 赤い鈴がシャンと鳴った。
「清光を選んだのも、赤だから?」
 安定は真っ直ぐに審神者を見る。
 二年前、刀剣たちの主に選ばれた。
 その際最初の一振りは、どれを選んでもいいと言われた。
 五振りの内、一目で奪われた。
 真っ赤な鞘から、目を離せなくなった。
 まるで運命のように選んでいた。
「この鈴は、加州に選んでもらったの。
 どれも素敵で迷っていたから」
 審神者は言った。
「そうなんだ。
 清光は、赤が好きだからね」
 審神者は、安定から四葉のクローバーを受け取る。
 木箱にしまうと、鍵を抜く。
 シャンと赤い鈴が鳴った。
「似合わない?」
 審神者は安定に訊いた。

「誰だ。
 主を困らせてるのは?」

 お盆にお茶と茶菓子を載せた清光が入ってきた。
 審神者はホッとした。
「困らせてないよ。
 ちょっと話をしてただけだよ」
 安定は言った。
「遠征の報告は終わったなら、部屋に戻れよ」
 清光は安定に言った。
「そういえば、報告がまだだった」
 安定の言葉に
「最低限のこともできないダメ刀だな。
 主、歌仙さんの作った羊羹もあるから、一緒に食べてね」
 清光はお盆を畳の上に置く。
「四葉のクローバーをもらったの」
 審神者は清光に木箱を見せる。
 赤い瞳がすっと細くなる。
「願いが叶うといいね」
 清光は言った。
「それで、主は赤が好きなの?」
 安定は再度、尋ねた。
「どの色も好きよ。
 赤も好きになったの」
 審神者は答えた。
「へー、昔は好きじゃなかったんだ。
 良かったな、清光。
 嫌われなくって」
 安定は言った。
「とっとと報告書を置いて、戻れ」
 清光の声は冷たかった。
 それに気がついたのか安定は紙切れを差し出した。
「はい、主」
「遠征任務、お疲れさまでした。
 夕餉までゆっくりと疲れを癒してね」
 審神者は木箱を畳の上に置くと、報告書を受け取った。
「失礼しました」
 安定はお辞儀をすると立ち去った。
 審神者はそれを見送り、報告書を机の上に置こうとした。
 その前にお盆が先に乗せられた。
「せっかくのお茶が冷めちゃうよ」
 清光は言った。
「すぐに終わるよ」
「ダメ。今朝からずっと書類を書いていたでしょ。
 休憩は大事だよ」
 押し問答になりそうだった。
 その場合、勝つのは近侍だった。
 審神者は安定からの報告書を置くと、湯飲みに手を伸ばした。
 猫舌の審神者でも飲める温度になっていた。
 包みこむように湯飲みを持つと、あたたかさが伝わってくる。

「赤、嫌いだった?」

 ポツリと零された呟きに、審神者は振り返った。
 近侍は背を向けて、庭の方を見ていた。
 表情が見られないから、不安になる。

「今は一番、好きな色だよ」

 審神者はちょっと猫背になった背中に言った。

「そっか」

 清光は言った。
 沈黙が横たわる。
 それは不思議と気詰まりではなく、落ち着く穏やかさだった。
 審神者は机に向かってお茶を飲む。
 二年前、真っ赤な鞘に一目惚れした。
 それから、ずっと一緒にいる。
 審神者は机の端に置かれた赤い鈴を見た。
 お揃いの鈴が静かに答えをくれていた。