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そら
2017-06-03 23:53:36
2027文字
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アイシュの弟
『ファンタスティックフォーチュン』 キール×芽衣
似てないのは外見だけじゃなかった。
中身の出来も違った。
一を知れば十理解できた兄。
それを隠す温厚な性格。
どうしたって敵うわけがなかった。
キールが努力して、手に入れたものを、兄は優雅に手にしていた。
そのものの価値を知らずに。
誰からも愛される兄と距離を置くようになった。
一緒にいれば、比べられる。
どちらが優れているか、一目でわかる。
これ以上、比べられるのは勘弁して欲しかった。
兄が父の後を継ぐ形で執政官になったのは、良いきっかけになった。
キールは院で研究に没頭できるようになった。
緋色の肩掛けを許されるまで、そう時間はかからなかった。
ようやくキールはアイシュの弟という枠から解放された。
院では比べる者はいなかった。
そう、いなかったのだ。
「アイシュってキールのお兄さんなんだね」
朗らかに被保護者が口にした。
異世界からの訪問者は無邪気に笑った。
「双子なのに、全然似てないんだね」
繰り返し言われた呪いの言葉を吐く。
「教えてくれれば良かったのに。
ディアーナに言われて初めて知った。
キールは秘密主義者すぎだよ」
芽衣は本が積まれた机を叩く。
「必要のない知識だろう?
課題は終わったのか?」
キールは本のページをめくる。
この本も外れのようだ。
知っていることしか書いていない。
「終わりましたよー。
スゴいでしょ!
褒めて褒めて」
芽衣は楽しげに言った。
「珍しいな」
「わからないところをアイシュに教えてもらったんだ。
さすがは姫付きの家庭教師だよね。
わかりやすかったよ」
芽衣の言葉に、話題の振り方を失敗したことを悟る。
誰も彼もが兄を褒める。
才能の差を見せつけられる。
「そうか」
キールは読み終わった本を閉じる。
「もう読み終わったの?」
「ああ」
「キールは本を読むのが早いね」
芽衣は積まれた本の表紙にふれる。
「それぐらいしか取り柄がないからな」
青年は本の山から新しい本を取る。
「そっかなぁ。
キールはキールでスゴいと思うけど」
芽衣は言った。
才能豊かな人間は不思議とキールを褒める。
こちらの文字を読めなかった少女が今は下級の魔法を扱えるようになっている。
砂に水が吸いこまれるように自然に。
キールが読むような本を読めるようになるのも近いだろう。
少女に出している課題は、決して楽なものではない。
簡単には解けないように苦心して作っている。
自力で元の世界に戻ることが出来るかもしれない。
キールの苦労が徒労に終わる日が来るかもしれない。
それでも少女が元の世界に戻れるなら、幸いかもしれない。
ページをめくる手が止まった。
「はい、今日の課題」
芽衣が机の上に、レポートを置く。
焦げ茶色の瞳と宙で出会った。
「兄貴の方が教え上手だったろう?」
キールはつたない文字が躍るレポートに目をやる。
自分で自分の傷を抉ることをしてしまった。
「でも、あたしはキールの方が好きだな。
アイシュじゃ優しすぎるよ。
キールぐらいがちょうどいい」
意外な言葉にキールは顔を上げた。
アイシュの弟、ではない扱いを受けた。
比べた上で、選んでもらえた。
ずり落ちたメガネを中指で戻す。
「これからもよろしくお願いいたします」
芽衣はおどけた様子でお辞儀をした。
風変わりなスカートを広げて、丁寧に頭を下げる。
「明日から、もっと難易度を上げてやろうか」
「ええ~。
遊ぶ暇がなくなっちゃうよ」
「冗談だ」
「キールが言うと笑えない」
芽衣は頬を膨らます。
可愛らしい抗議に、キールは失笑してしまった。
「やっと笑った。
最近、難しい顔ばかりしていた」
これで一安心、と芽衣は微笑んだ。
被保護者に心配をかけているとは思わなかった。
キールは心の中で、ためいきをついた。
「そうか」
読みかけの本に手を伸ばす。
「課題は合格だ。
あとの時間は好きにしろ」
「じゃあ、もうちょっとだけここにいていい?
読書の邪魔をしないから」
芽衣は歯切れ悪そうに言った。
「楽しいのか?」
兄と違って、場を和ますことは苦手だ。
息が詰まると他人は離れていくばかりだ。
「キールといると安心できるんだよね。
あたしらしくいても良いような気がするんだよね」
しどろもどろと芽衣は言った。
青年の胸に喜びという名の灯火がともる。
「好きにしろ」
「やったー!」
「読書の邪魔をしないんじゃなかったのか?」
キールは芽衣を見上げる。
「ゴメンゴメン」
芽衣は手を合わせて謝る。
ホーリーグリーンの瞳は本に集中する。
嬉しくて文字を追うのに、努力が必要だった。
こんな気持ちになったのは、生まれて初めてかもしれない。
アイシュの弟という呪縛から解き放たれた。
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ましゅまろ
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