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ひろか
2022-10-01 21:26:22
4593文字
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観劇録
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*観劇録*『スプリング、サプ、カム。』感想と考察。
おぶちゃさん『スプリング、サプ、カム。』の感想と考察です。
⚠︎内容に関するネタバレと深読みを含みます。
*観劇録*『スプリング、サプ、カム。』感想と考察。
⚠︎内容に関するネタバレと深読みを含みます。
サプリンとはなんぞや。
そんなところからこの作品の観劇は始まった。
いまとなっては記念日に近い、私とおぶちゃさん出会いの作品である。
サプライズ師・サプリンを取り巻く春の物語ということで、オムニバス形式で短めの作品が続く。そもそも作品の前情報的にはサプリンだのモテリンだのサプライズ師だのモテ師だの、全体的に疑問符が浮かぶような感じだった。一体どんな世界観なのか想像もつかない中で始まる突然の因縁対決。それに実況と解説がついているのがまた面白いし、実況の須永こと鈴木雅也さんがいい声で実況しているの最高だし、市川フーさん演じる岩井琴寿喜夫の貫禄
…
なにからなにまで"よくわからないけど面白い"空間。サプリンとモテリンがやっていることもナンパみたいだし、当たり前ポエムや当たり前ソングなどの必殺技が繰り出される中、バトルは続いていく。まさかこの"よくわからないけど面白い"が、後々効いてくることになるとはこの時の私は思っていなかった。
女性ばかりのお芝居『スプリングフラワーズ』は、今回サプリンが登場しない唯一のお芝居。
女性ばかりのお芝居はちょくちょく観る機会があるのだけど、その都度女性にしか出せない空気感が味わえて好き。今回も例に漏れず、女性だからこそのお芝居を存分に味わえたと思う。
ガールズバーで繰り広げられる年頃の女の子たちのいつもの夜に乱入する酔っ払った女性。そこから始まるいつもと違う夜
…
あからさまに物語の始まり感があっていいなと思った。どうなることかと思っていたら、大倉安奈さん演じる薺の抱えたジレンマが吐露されていく。
安奈さん、とても素敵な女優さんだなと思った。サプvsモテの転職女のお芝居も好きだったんだけど、薺のお芝居は悩み葛藤する姿が苦しくて苦しくて。明かすつもりはなかったのに思わず話すことになってしまったことほど、こんなはずじゃなかったのにと涙してしまう気持ちはよくわかる気がする。目指した自分と現在の自分があまりにもかけ離れすぎていて、努力したくてもできない状況があって、そうやって状況のせいにしている自分にさえ腹が立つ。「あたしなにしてんだろ」にはそんな気持ちが全部詰まっていた。
DVDの副音声で「薺のセリフは役者ではない方達にどう聞こえたんだろう」とおぶきょさんがおっしゃっていたのだが、役者さんでなくとも薺さんのセリフや葛藤にはものすごく刺さるものがあって。
このご時世うまくいかないことがたくさんあって、そうじゃなくても思い通りいかないことなんて星の数ほどあって、みんな同じだってわかってるからこそそのもやもやというか、叫びたい気持ちは胸の奥にしまってしまうのがいつのまにか当然になっている。それって実はとても苦しいけど、その苦しみを見ないふりをしながら人は生きてるんだと思う。薺さんの台詞からは、日頃目を背けている「みんな苦しいのは同じなのはわかってる、だから私一人が弱音なんて吐けない、でも叫びたい!」を胸に迫るほどに感じた。役者さんでなくとも薺さんの気持ちにすごく共感できたというか。心の中で燻っていたものに光をあててもらった感じがした。
同時に舞台が好きな一人として、薺さんたち役者のみなさまには、どんなときでもみなさまのお芝居に頑張る力をいただいていることを伝えたいなと思った。毎日を頑張るために、あなたたちの存在やお芝居が勇気をくれているんです。いつもありがとうございます。
高橋優太さんが脚本を書いた『学校の快談』、学校のシンボル・二宮金次郎をめぐるまさに"快談"。
物語の最初に客席が全く反応しない中一人フィーバーする金次郎がとにかくツボで。きりっと決めた顔ととてつもなくいい声で「どうも。二宮、金次郎です」って確実に笑わせにきている。そんな彼がサプリンの登場によって学校のシンボルをお役御免になるかもしれないという大事件が起こるわけだが、観ていくにつれて彼の心配事は自身の行く末ではなく、幼い頃から見守ってきた川口先生のため息だったのだなぁと切なくなった。もちろん最初は動揺していたけれど、結局は川口先生のことを心配し、彼に邪魔者扱いされたかもしれないと憂いていた金次郎は、紛うことなく子どもたちを見守るシンボルだった。
川口先生が「先生を辞めようと」と言い出した時は正直自分の行く末と重なってどきっとしたけれど。はらはらしながら観ていたら想像以上にしょうもない理由でほっとしてしまった。そして結末もしょうもなくて。しょうもないんだけど、たしかに!と思った。たしかに女子トイレの前で撮影してたら通報されるな
…
当たり前だけど目の前で起こる快談に心を奪われすぎてそのことに気づかなかった。
というか銅像の二宮金次郎やトイレの花子さん、人体模型くんとまで普通に言葉を交わすサプリン、何者
…
?むしろ金次郎たちの方が動揺しているのが面白かった。
そして表題『スプリング、サプ、カム。』。
正直ここまでの四作でもう何が来ても動じないぞと思えるくらいにはこの世界観に慣れてきていたと思ったら、なんとサプリンがタイムワープしてしまう。迎えてくれる矢口アサミさん演じる清掃のおばちゃんの「カムしちゃったねぇ」と楽しそうな雰囲気が好き。
この作品を観て、モテリンの印象が180度変わった。サプvsモテの時のモテリンは、キザで言っていることは全て当たり前のイケメン。それがこの作品を観た後は、彼がちょっとキザだけどただひたすら誰にでも優しいだけのごく普通の男の子だったことがわかる。きっと彼がモテるのはイケメンだからというだけじゃなくひたすら優しいからなのだと思う。優しいから誰のことも無碍にできない。誰のことも傷つけたくない。大事な友だちを二人裏切ってしまうことなんて望んでいなかっただろう。でも結果はそうなってしまう。
私はサプリンがタイムワープしたのはこの出来事をハピネスにするためだったのではと思う。清掃のおばちゃんはサプライズ師の未来が
…
!と言っていたけれど、それはサプリンにサプライズ師の仕事を全うさせるための建前だったような気がしている。だって人をハピネスにするのが生業のサプライズ師であるサプリンが、優しさが悲劇を招くなんて悲しいことを許せるわけがないのだ。実際サプリンは最初は渋々だったにも関わらず、本気で向き合い、本気で運命を変えようと奔走する。
モテリン、リダリン、オジョリン、そしてスケバンの四人組がとても好き。モテリンに限らず他三人も優しくていい子たちだった。
雅也さん演じるリダリンは立場的にはモテリンの親友にあたると思っていて、ある意味優しさから取り繕うことが多かったであろうモテリンがリダリンの前では素でいられているような気がした。モテリンにとってリダリンはかけがえのない友人だったはずで、そんな彼の思い人に恋してしまうの、つらかっただろうなぁ。一方のリダリンも自分の目を見てくれないモテリンが不安だったはず。女子は泣いてるし。きっとリダリンの中にはモテが女を泣かすはずないって気持ちもあったのだろう。なにがあった、と訊くリダリンは困惑以上にモテリンを心配していたと思う。それでも「明日話すから」というモテリンを信じて追わないでくれて、とんでもなくいい男。
吉田菜都実さん演じるオジョリンと虎子さん演じるスケバン、正反対の二人がどうやって仲良くなったのか心底気になる。モテリンに恋するスケバンも、彼女の背中を押してきゃっきゃするオジョリンもとてもかわいい。正反対の女の子の友情、とてもよい。
サプリンの乱入によって告白を邪魔されたスケバンはオジョリンに心無い言葉を吐いてしまうけれど、それを受けてもオジョリンは力になれなくてごめんねとスケバンを責めない。そんなオジョリンにスケバンだってやってしまったと思ったはず。
三人から逃げるようにその場を去ったモテリンが苦しい胸中をサプリンに吐露するのが切なくて切なくて
…
。あの場にいて状況がわかっているサプリンたちだけでなく、モテリンの言葉からでしか状況を知らないリダリンでさえも、この状況をすべて自分に起因するものだとモテリンがついた嘘に騙されなどしていなかっただろう。それをわかっていても優しさからすべて引っ被った上で彼が言う「ラブさえなければピースだって」はとてつもなく胸が締め付けられる思いだった。優しいから苦しい、そんなことがあっていいはずがないのに。サプリンもそう思ったのかもしれない。
そんなサプリンが卒業式でとった手段、実はものすごくいい手段だったと思っている。あえてパフォーマンスにすることで、事情を知らない人から見ればこれが本気の告白合戦だとは気づかれない。そしてそこに自分を入れることで勝者と敗者の存在をなくす。わからんわからん、という顔だったリダリンが、モテリンの「いいね。乗った」を聞いた瞬間すべて察して「言ってくれりゃいいのに」と笑うのが本当に
…
。ここでのオジョリンとスケバンのやり取りも、スケバンにとっては前日言ってしまったことを取り消す言葉だし、オジョリンにとっては知らず知らず友だちを苦しめてしまっていたかもしれない罪悪感(オジョリンは何も悪くないんだけど、前日のスケバンとのやり取りでこう思ってそうだなと)からの解放になるんだよね。つまりサプリンは正々堂々、誰にも誰のことも恨ませずにことを解決に導いたのだ。
「いいじゃないですか、誰が誰を愛そうが!」ここのサプリンのセリフ、好きだなぁ。きっとサプリンは、人間の善性を信じているんだと思う。だからサプライズ師なんだろうと思った。ちょっとしたサプライズで誰かが幸せになるのなら、どこへでも駆けつけてサプライズを贈る。そこにサプリンへの見返りがなくてもきっと、彼は駆けつけてくれるのだろうと思った。
個人的な話になるけれど、この『スプリング、サプ、カム。』が就職前最後の観劇だった。
紆余曲折経てようやく夢を実現させるところまで漕ぎ着けた私はこの時期ちょうど迫り来る春を前に不安を感じていて、だからこそスプサプに出会えてよかったと思う。この春私に必要だった作品。思い通りに行くことなんてそうそうないし、世の中つらいことも悲しいこともあるけれど、その中にある嬉しいことや幸せを見つけて頑張っていこうと思えたのはスプサプの優しくてあたたかいメッセージのおかげだった。
あぁ、人間っていいな。
このひと言に、作品のすべてが詰まっていた。
〈『スプリング、サプ、カム。』公演情報〉
※敬称略
製作:おぶちゃ
公演期間:2022年3月10日〜3月13日
会場:千本桜ホール
脚本:大部恭平(『サプリンvsモテリン』『スプリングフラワーズ』『レンタルサプリン(※映像作品)』『スプリング、サプ、カム。』)、村松洸希(『サクラ』)、高橋優太(『学校の快談』)
演出:大部恭平
音楽:田中和音
主題歌:「Spring Comes」IKE&rice water Groove Production
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