ほうじゅ
2021-03-12 16:25:13
1235文字
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読み切り短編『青空の宝石』

『冥界から星は見えるのだろうか』の一文から書いたおはなし。

 星の輝きは宝石なのだと、あの子は楽しそうに笑っていた。
 冷たい風が洗ったあとの、宇宙が透ける闇色の空に、勇ましく現れるのがオリオン座。
 英雄の傍にいる犬たちは、一等星と呼ばれる宝石をそれぞれ大事に持っていて、冬に訪れる旅人たちが持っている六つの宝石は、繋げるとダイヤモンドになるらしい。
 オリオンが西に沈む頃、綺麗な乙女が宝石スピカを持って、春の訪れを知らせてくれる。
 宝石を持つ織姫ベガ彦星アルタイルが暑い夏を運んでくる頃、空を飛ぶ大きな白鳥デネブは、『銀河鉄道』の始まりの駅だ。
 けれど、赤い心臓アンタレスを持つさそりが秋の風に追いやられると、途端に宝石は無くなるらしい。
 じゃあ秋の夜空は真っ暗なの、と私が淋しく尋ねると、一等星以外にもたくさんの宝石が宇宙にはあって、見えなくても輝いているのだと、明るい声で教えてくれた。
 それに、と耳元で囁かれた声は、どこかイタズラっ子のようだった。
「オリオン座の宝石のひとつは、もうすぐ爆発するんだって。そうしたら、とっても眩しくなって、まっしろに輝いて、真昼の空でも見えるって! ねえ、それならきっと、一緒に宝石を見られるよ。ねえ、そうしたら一緒にピクニックに出かけて、青空の宝石を見に行こう。ね、それじゃあ、指きりげんまん──」

 ……後に、ほかの人に聞いたところ、あの子の言っていた爆発は、宇宙の尺度でいう“もうすぐ”らしく、それが明日なのか、来年なのか、十年後なのか、百年後なのか、一万年よりもっと先なのか、誰にもわからないらしい。
 もしいくつもの奇跡が重なって、生きている間に星が爆発しても、そのときにはもう、太陽の明るさすら、私は思い出せなくなっているかもしれない。
 ──だけど、私は知っている。

『指きりげんまん、いつか、星が爆発したら、一緒に青空の宝石を見に行こう。
 もしも、離れた場所にいても、もしも、どれだけ未来になっても、ぜったい、約束。
 ……指きった!』

 むかし、死んだ人は星になるのだと、誰かが穏やかに話していた。
 それなら、冥界から星は見えるのだろうか。
 もし、この世界で約束が果たせなくても、辿り着けない遠い場所、光の届かない遠い未来でも、約束は叶うのだろうか。
 あの日、夢見た青空の宝石を、いつか見ることができるのだろうか。
「──見られるよ、きっと。だから、ピクニックの用意は忘れないでね!」
 白杖の代わりに繋いだ手の先で、変わらない声であの子が笑う。楽しそうなその声に、釣られて笑い声を出すと、さそりを追いやる冷たい風が、すぐ傍を吹き抜けて行った。

 ──だけど、私は知っている。
 天に広がる闇色の空に、星の輝きが見えなくても。
 地上を照らす太陽の明るさを、とうの昔に忘れてしまっても。
 いつだって、眩く光る宝石が、すぐ傍で瞬いてくれていることを。

「うん。── 一緒に、青空の宝石を見に行こう!」