文庫ページメーカー1枚分や、1ツイートの文字数の、掌編をまとめたページ。
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『#君・星・願で文を作ると好みがわかる』
『#君・僕・死で文を作ると好みがわかる』
掌編(文庫ページメーカー/一枚)
『冬』
『初夏』
『つゆ』
『晩秋』
『秋の終わり』
短文(SS名刺メーカー/一枚)
『2022/12/17』
『2022/12/21』
『2022/12/23』
『2022/12/30』
『#君・星・願で文を作ると好みがわかる』
息を呑むような満天の星の下、君が伸ばした指の先で、光の軌跡が流れて消える。
こちらを振り向く無邪気な笑顔に、言いようもなく泣きたくなった。
星にかける願いなんて、とっくの昔に決まってる。
これから先、少しでも長く、──君の隣にいられますように。
『#君・僕・死で文を作ると好みがわかる』
もう一度、君の笑顔が見たいと、ずっとそう思っていた。
君の姿を街に探した。君の声を夢で聴いた。
繋いだ手のあたたかさも、胸を打つ早鐘も、ずっと、ずっと覚えていた。
けれど、もう祈りが届かないなら。
──君との出会いすら忘れ、僕は死んでしまいたかった。
『冬』
冷えた鼻を隠すように、マフラーで顔を覆うと、口から零れた白い吐息が、ゆらりと眼鏡を曇らせた。
アスファルトを歩く靴裏からは、砂利道を行く音がする。しんと刺すような薄氷の朝を、霜を踏みながら進んでいると、一瞬、遠い北海に迷い出たような、理由のない心細さを覚えた。
葉を落とした軒先の木々に、鳥たちの姿は見えない。昇ったばかりの太陽は、まだ 夢見心地なのか、薄い雲越しに溶け消えそうな淡い光を投げかけてくるだけだ。
奇妙な程に赤く映る信号機を見上げながら、音のない車道の前で待つ。
赤い色が青に変わり、また霜を踏み慣らした時、穏やかな声が聞こえた。
「──おはようございます」
黄色い旗を持った女性が、道行く人に声を掛けている。
目が合い、ぺこりと頭を下げると、女性もそっと頭を下げた。
その短いやり取りだけで、車道を渡り終える頃には、薄氷の中で揺蕩っていた、心の在り処を思い出せた気がした。
ようやく目を覚ましたらしい、低い朝日が視界を染める。
──ああ、今日も良い天気になりそうだ。
『初夏』
熱い日差しを掻い潜り、涼風が首を撫でたとき、眠りから目覚めたカエルが一斉に鳴き始めた。
片手で作った庇を頼りに白むアスファルトを進むと、水の張られていない田んぼが微睡んだ顔で佇んでいる。その景色を認めた途端、響いていた声は止み、白昼夢じみた静けさが蒸し暑さの中に横たわった。
赤茶けた土の合間に声の主たちを探してみるが、彼らの姿は見当たらない。代わりに、水不要の看板が取り残されたように立っていた。
──この数年、この場所に、稲の苗は植えられていない。向かいの田んぼも駐車場になり、古びた酒屋は取り壊され、新築のアパートになった。レンゲソウの生える畦道は舗装された車道になり、亀の住んでいた側溝も、今では蓋をされ覗けなくなった。
変わりゆく街並みの中、例えしゃがみ込み視点を下げても、子どもの頃に眺めた景色を見ることはもう出来ない。
ふいに湧き出た郷愁に、看板から目を外すと、緩く首を振り歩き出す。しかし、再び吹き抜けた草の香の風に、呼応し響いた合唱を聞き、もう一度だけ振り返る。
変わらないものは、きっとない。けれど、どうか願わくば。
──次に巡るこの季節も、この場所に響く一斉の声が、変わらず、在り続けますように。
『つゆ』
まるで子守唄のように、屋根をたたく雫の音が、葉先で弾ける水滴の音が、しとしとと耳に届いていました。
窓を流れる細い川を、ぼんやりと眺めていると、気だるい眠気に包まれて、いつしかふわふわ夢を見ます。
──つるつるした赤い長靴で、水たまりをぴょーんと飛び越え、空にかかる虹の橋を、うきうきと散歩していました。
虹の上から見下ろした町は、きらきら光る透明な雫にあちらこちらが彩られて、とても眩しくてとても綺麗で、まるで宝石箱みたいです。
鮮やかな色に染まるアジサイたちの葉の上では、寝ぼけた顔のカタツムリが、のんびりと伸びをしています。赤い屋根の家の窓辺では、仕事を終えたてるてる坊主が、楽しそうな笑顔を浮かべて、青い空を見上げています。
そのとき、目の前を飛んでいったツバメが、そろそろ南へ行くのだと話しているのが聞こえてきました。
湿り気を帯びた風が止み、からりと爽やかな風が吹いて、傘が静かに眠るころ、次の季節がやってきます。
けれど今はまだ、眠たい窓辺で、──ふわふわふわふわ、夢の中
……。
『晩秋』
秋の風が吹いている。
子どもが気まぐれに浮かべたような羊の群れが空を渡り、山を彩る紅葉を真似て朱に染まった街並みは、のどかな牧羊を追い立てながら、早足で夜へ沈んでいく。
目を射す斜陽の片隅に一番星を見つけながら、ペダルを漕ぐ足に力を入れると、風を切る自転車の上に、季節の匂いがふいに届いた。
街角で咲く金木犀や、家々で作る夕食のような、名前のある匂いではない。
高架下を流れる川や、刈り入れを終えた平たい田んぼ、順に点っていく街灯や、紅葉の丘に立つ配水塔、ヘッドライトの軌跡を残して通り過ぎていく車たちや、踏みしだかれた枯葉たち。色々なものが混ざって生まれる、心が知っている、季節の匂い。
それは、昔からきっと変わらない匂い。図書室で借りた本をランドセルに詰めて走った頃と、書店の袋を大事に抱えて電車に揺られていた頃と、ポストに届いた小包を目指し自転車で帰路を行く今と、きっと、ずっと変わらない。
どこで嗅いだか忘れていても、風に包まれれば思い出す。十年前も、十年先も、秋空を渡る羊を見上げて、これから読む本を想うこと。この季節が、好きだということ。
自転車で風を切りながら、大きく息を吸い込むと、知らず一人で笑っていた。
秋の風が吹いていた。──大好きな、
季節の匂いがした。
『秋の終わり』
一歩、部屋から外へ踏み出すと、ひやりと冬の冷たさを感じた。
仄白い真昼の光は暖かさを保っているのに、触れたドアノブの感触や、肺を満たす空気の中から、次の季節が覗いている。
家々の屋根の向こうには、紅葉に燃える稜線が今が盛りと続いているが、見上げた空の澄んだ青は、色を失いつつあるように映った。
道を行き交う人々は、まだ防寒具を身につけていない。けれど、忍び寄る冬の気配に、少しづつ服の
嵩は増している。その群れに混ざるため、一歩足を踏み出した。
──途端、正面から強い風を受け、思わず目を閉じ立ち止まる。
どこか川のせせらぎに似た、街路沿いの木々のざわめきが、一瞬のうちに通り過ぎる。その後を追うように、カサコソと別れを言い合う落ち葉たちの声が聞こえた。
その声に目を開くと、一面に“秋”が舞っていた。
吹き抜けた風の通り道を我先にと示すように、広い車道を、連なる軒先を、遠ざかって行く澄んだ青を、色付いた落ち葉が舞っている。
楽しむように、惜しむように、触れ合う度にカサコソ音を立て、落ち葉は世界を彩り終えると、まるで満足したかのように、一葉ずつ地表へと落ちていく。
その別れを見守りながら、もう冬が来るんだな、と、まだ色のない息を吐いた。
『2020/12/17』
秋に高く遠のいた空が、すうっと先まで透き通り、山の向こうへ続いていました。
あの山を越えた先は、真白に染まっているのでしょうか。
吹き下ろす風は強く冷たく、音を立てて街を駆け抜け、南の海原を渡って行きます。
白波が立つ海岸線に、青い季節に旅に出た、ツバメのことを思いました。
『2020/12/21』
秋の名残を繋ぐように、池の岸辺でススキの穂が、寒々と揺れていました。
影絵と化した家々の隙間から、零れて輝く金色の斜陽は、またたく間にも夜に解かれ、ひとつふたつと消えていきます。
熱を奪われた風に煽られ、白く染まるレンズの隅に、凍った宇宙を透かした空が、しんと映り込んでいました。
今日は、一年で一番長い、夜の日です。
『2020/12/23』
電灯に照らされた廊下の先。開け放たれた扉の向こうに、真冬の陽射しが降っている。
暗い屋内から見た外は、色鮮やかにあたたかで、白い壁面も欠片だけ覗く空も、春の日向のように映る。
──ああ、けれど、それはまぼろし。
冷えた境界を一歩潜れば、身を凍らせる寒さだというのに、視界だけは夢を見るように。
今日もただただ詮のない、遠い世界の風景を想う。
『2022/12/30』
灯りを落とした部屋の中、閉めたカーテンの半ば頃に、煌々とした丸い月が昇っているのが透けていました。
誘われるように窓を覗くと、冷えた風に洗われた空は深く美しい闇色に染まり、天頂へ向かう寒月が、青白い光を降らせています。
眠る街並みは深海のように、時を忘れて凍ったように、朝を待ち侘びて朽ちたように、ただただしんとしています。
けれど、明日の今頃は、地上は光に満たされて、息吹に溢れているのでしょう。
明日、一年が終わります。けれど今は、束の間の静かな眠りを──。
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