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いを
2024-01-04 15:54:43
1561文字
Public
刀神
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あの子の影がほしい
菊司のこと。
・(お名前だけ)定之さん【higasa_onink】
お借りしています。
手のひらのなかで、まだあたたかい缶にはいっているコーンポタージュを転がす。
「結構、うまく隠してたと思ったんだけどなぁ」
バレちゃった、とひとり呟いて苦笑した。8も年下の子に気を遣わせてしまった。そんなことをさせるつもりではなかった。言い訳だけが塵のように積もっていく。
作業途中だった豊和を見下ろして、「ごめんね」と謝る。柄糸に触れながら。
「きみのあるじが疲れていたら休め、って。ほんとに、ごもっともだよね」
鞘におさめた豊和を一旦、刀掛けに掛ける。そしてほこりがつもらないように、布も一緒にかけておいた。
昨日はあまり眠れなかった。
だからといって、仕事は仕事だ。そう分けていても、彼はお見通しだったというわけか。菊司はくちびるをゆがめて、研究室のベッドに腰を下ろした。
無意識にいつものように背中が丸まって、大きくため息をつく。
丸い眼鏡のつるをおさえて、頭痛を耐えるように目を伏せた。
実際、頭痛はしているので仕方がない。
白衣の胸ポケットから半透明のピルケースを取り出して、2錠、手のひらに落とすと口に放り込んだ。奥歯で鎮痛剤を噛み砕く。デスクの上にあったペットボトルの水を一気に飲みこんで、息をついた。
――
そういえばこれ、一日に三回までだったっけ。これでもう三回
服
の
んでしまった。まだ昼間なのに。
床をぼんやりと見下ろして、汚れたスニーカーのつま先をゆらゆらと揺らす。
無意味な時間をすごしてもしかたがない。
赤い玉のついた簪二本を引き抜いて、髪をほどく。耳の近くで、チリン、と鳴った。
簪をつけながら頭痛を耐えるのは正直、つらかった。
定之からもらったコーンポタージュのプルトップを指先で開ける。
舐めるように飲みこむと、ほのかな甘さが喉の奥をじんわりとあたためた。
そのまま少しずつ飲んでいく。
そういえば、自販機で買うようなコーンポタージュを最近飲んでいなかった。自分で買ったとしても、他のことに集中してしまえばすぐに冷めてしまう。
あたため直すには、べつにスープ皿みたいなものを
――
まあ、ビーカーでもいいのだが
――
用意しなければいけない。そうすると洗い物が増える。結局は菊司のものぐさが悪いのだ。
頭痛がやわらいできたのは薬のせいかもしれないが、まだあたたかいコーンポタージュのおかげということも考えられる。
全て飲みきると、缶をデスクの上に置いた。
眼鏡を取り、そのままベッドに横になる。あってないような、堅い枕元に眼鏡を置いた。
目を閉じる。
昨晩あまり眠れなかったせいか、それとも鎮静剤のせいか、すこし眠たかった。
目をほんのすこし開けると近視と乱視が混ざった、見慣れたぼやぼやとした景色が見える。
「
……
定之どのは優しいねぇ
……
」
定之どの。
どの、と呼ぶにはすこし距離が近くなったような気がする。
次に目が覚めたら、
これを、覚えていたら。
定之くんと、呼んでみようか。
「ありがとう」
ほおに、相変わらず中途半端に伸びた髪の毛がかかった。頭をすこし動かすと、あっという間に髪の毛は菊司の顔ごと覆った。
巌那定之というひとのことを菊司はよく知らない、が、こころの表側のことを、すこし知った。
知れた。
彼はひとの些細な異変に気づける力を持った子だ。
それはとても尊いことだ。
だから、大切にしなければいけない。
必ず。
できたら、菊司自身も。
菊司自身、が。
大切に、できたら。
ぼんやりと思考しながら、意識がふつりと途切れた。
――
きみとの記憶が思い出になればいいと俺は思っているんだよ。
未来には形のないものしか連れていけないから。
だから、きみとのことを憶えていたいのだと思う。
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