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2023-12-09 14:07:24
3703文字
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祝福の花束
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骨の庭
アンヘル・ハーヴェスト。
・サヴァさん【gatewale2】
・フィリベールさん【umiushi666】
・ノディンさん【MotC_support】
・(少しだけ)マノンさん【nac_mok】
お借りしています。
魔法使いという名前がつくひとたちはみんな、優しい人たちばかりだと思った。
それなのになぜ魔法使い狩りなんてあったのだろう。
人間や人外が、自分たちには扱えない力があるからと怖れたのだろうか。恐れは残酷な行為を肯定してしまうものなのだろうか。
分からない。アンヘルには。
サヴァからあてがわれた部屋は、たくさんの本であふれかえっていたけれど、サヴァに手伝ってもらい、十分に住めるような部屋になった。
彼が「読みたいものがあれば読めばいい」と言ってくれた本があるので、本棚にはぎゅうぎゅうに本が詰められている。これだけ本があれば、きっと暇な時間なんてありはしないだろうとさえ思う。
鏡には、死んだ父が遺した服を纏った男が映っていた。
白を基調とした服を、黒い布を帯で締める。
足首には錆色をした痣が残ってしまっていた。鉱山で働いていた頃の名残だ。けれど今さら隠すつもりもない。
サヴァから、茶会の作法を教えてもらった。一通り頭に入ってはいるが、粗相があったら申し訳ないと、今から思ってしまっている。そんなことではいけないとかぶりを振って、意を決して階段を降りる。
扉の前にはサヴァと、サヴァの親友であるフィリベールが立っていた。
「サヴァ様、フィリベール様。お待たせしました」
「行くぞ」
サヴァの知り合いの家には、魔法がかけられた鏡があるらしい。そこから行くのだとフィリベールに教えてもらった。
「鏡から?」
「そう。移動魔法がかかっていて、今回のお茶会の会場
……
迷迭香の花畑に繋がっているんだ」
「そうなんですか
……
」
移動魔法というものがどういうものなのか、フィリベールの言葉でなんとなくだが理解した。
サヴァの知り合いというそのひとに礼を欠くようなことがないように、緊張しながら屋敷に入って鏡を抜けた。
手の中のスズランがちいさく揺れたあと、像が建っている場所に三人は立っていた。
像の元には、白い花や青い花が束になっている。
アンヘルは腰を折ってスズランを置くと、風が一陣吹いたように感じた。
足を踏み入れた先には、花畑にテーブルが並べられ、その上には豪奢な飲みものや食べものがたくさんおかれていた。
「これがお茶会
……
。いいにおいがたくさんします」
「好きに過ごせ。俺は、」
「サヴァ様! あの、えっと」
「なんだ」
眉をひそめ、サヴァはアンヘルを訝しむように見上げた。
「十分程度でいいので、一緒に行動してもいいですか? ちょっと、まだ、不安なので
……
」
「いいじゃないか、サヴァ。すこしくらい」
「ありがとうございます、フィリベール様! 邪魔をしないようにしますので」
「好きにしろ」
人間なのか魔法使いなのか分からないひとたちがたくさんいる。
もうとっくに痛まないはずの足首と背中が疼く。こめかみに少しだけ、汗が滲んだ。
さいわい、サヴァの友人たちはみな魔法使いで、アンヘルを見ると「弟子をとったのか?」と彼に聞いていた。サヴァは「違う」と答える。それを何回もくり返していた。
眉間に指先をあてて、はあ、とため息をつくサヴァに申し訳ない思いになりながら、ティーカップを差し出す。
「サヴァ様。これ、ジャスミンのお茶らしくて、いい香りがします」
「お前、そろそろいいだろ。慣れてきたみたいだし」
「あ! はい。すみません、お手を煩わせてしまって
……
。これ、リラックスできるお茶みたいです。ここに置いておきますね」
アンヘルが手にしていたのはジャスミンティーだった。このお茶の効能は聞いたことがある。
サヴァはアンヘルを見上げ、再度ため息をついた。
「じゃあ俺、これで失礼します。粗相しないようにがんばります!」
「待てお前、その顔で行くのか」
「顔
……
。あ、これですか?」
アンヘルがかぶっているのは半面の仮面。視線を紛らわすものだが、ここにいる人間は人外に危害を加えるようなことはしない存在ばかりのようだ。
「
……
そ、そうですね。取ります。きっと人間の皆さんも、優しいひとばかりだと思うから
……
」
紐を解いて、面を取る。とたんに視界が広がった。
青い色の花が足もとでゆらゆらと揺れている。これが迷迭香、という花なのだろうか。
海を見たことがないが、絵で見たことがある。
まるで波のように足もとで揺らぐそれを、アンヘルはきっと生涯忘れないだろうと思う。
「きれいな景色ですね。とても」
「さぁな」
サヴァは肩をすくめて、アンヘルと同じ場所をわずかな間、見ていた。
「それじゃあ俺、行ってきます」
サヴァの元を去ると、視界の端に見慣れた褐色の肌をしたタウルを見かけた。するりと人の波を縫って、彼の名を呼んだ。
「ノディン!」
「? アンヘル」
「来ていたんですね。友達に会えてうれしいです」
「アンヘルも。ということは、弟子になれたの?」
ノディンの言葉に少しだけ笑って、首を振る。
「いいえ。今はお試しです。契約はしていません」
「そうか
……
。いつか認めてくれるといいね」
「はい。ありがとうございます。俺、諦めるのやめたので!」
彼はくすりと笑って、「アンヘルらしいね」と言ってくれた。ノディンはティーカップを持っていた。琥珀色の、きれいなお茶のようだった。
「いい香りがします」
「これ、レモングラスのお茶なんだ。ここにあるよ」
「ありがとうございます」
そばに置かれていたティーカップをもつと、レモングラスの香りがあたりに優しく広がった。すっきりとした味がする、ハーブティーをまだ飲めなかった子どもの頃、母がレモングラスなら飲めるでしょうといって、いれてくれたことを思い出す。
「あの、ノディン。今、楽しいですか?」
「楽しい? うん、今は楽しいよ」
「そうですか。それを聞いて安心しました。また、ワルプルギスの森に行ったら薬草のこと、教えてください」
「うん。待ってるよ」
ちいさく手を振ってアンヘルはノディンのもとを離れた。
その後、マノンにも会った。
彼は友人と同行して師を探しに来たらしい。
アンヘル自身は師にするひとを何年も前から決めていたけれど、これから見つけるマノンに、いい師に出会えることを祈る。
「旅をしていたら、またお会いできるかもしれませんね」
マノンは一度うなずいて、「また会おウ」と言ってくれた。
冬の国のはずなのに、寒さをあまり感じないのは何故だろう。
あまりにぎやかではない場所でアンヘルは椅子に座って、手にティーカップを持っていた。
なんのお茶かは分からないけれど、どこか懐かしい味がする。
「
……
」
紅茶にアンヘルの顔がゆらりと揺れた。水鏡のようだと思う。
サヴァの弟子にしてもらうためにここまで来たけれど、やはり来てよかったと感じる。
再会してからひと月以上。だがひと月なんて、どうということはない。
その倍以上の年月を、アンヘルは一人で旅をしてきた。
「君、ハーヴェスト家の子だよね?」
紅茶に、見知らぬ顔が映った。知らない男だった。おそるおそる、男の顔を見上げる。
「あの
……
どなたでしょう
……
」
おそらく人間であろうその男は、四角い紙をアンヘルに手渡した。
「しんぶん
……
き、しゃ
……
?」
「魔法使いの集まりが気になってね。知り合いに頼んで連れてきてもらったんだよ」
小太りのその男は、丸い指をスーツのポケットに突っ込んで、アンヘルの隣に座った。
「君のお父さんのことだけどね。十五年くらい前に
……
不慮の事故で亡くなっただろう。その時のこと、言っておきたいことがあって」
「
……
」
アンヘルの手が僅かに震えた。それを訝しまれないように、ぎゅっと手のひらを握りしめる。
「あれは事故じゃない。君のお父さんを殺したのは魔法使いだ」
「
……
え」
「鉱山ではよくあることさ」
「父は、落石で
……
死んだって、あなたがた人間が言ったんですよ」
「それは悪い人間だったねぇ」
ははは、と、男は愉快そうに笑った。
なにを笑うことがあるんだろう。
人外は、やはり虐げられることが当たり前だというのだろうか。死んでも文句は言えないというのだろうか。
飼われていて同然だと。飼われることこそ幸福だと。
「それだけ言いたかった。私はこの事件について調べているんだ。片手間だけどね。お父さんのことでなにか知っていたらこの電話番号にかけてくれよ」
腰につけたみっつの宝石がちいさく擦れた音がした。
魔法使い。
魔法使いが、父を殺したというのか。
なぜ。
なぜ、そんなことを。
男は椅子から立ち上がり、悠々と去っていった。
落ち着くために、紅茶を飲む。とっくに冷めて渋さを増したそれが、喉を通っていく。
アンヘルが憧れたのはサヴァひとりだ。
だから父を殺したのが人間だろうと魔法使いだろうと人外だろうと今は関係ない。
カチャカチャとアンヘルの手のティーカップが震えている。
アンヘルの足もとで、漣のように迷迭香の花が揺れていた。
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