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いを
2023-12-02 18:05:50
2214文字
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祝福の花束
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幻月の環をかかぐ
アンヘル・ハーヴェスト。
・サヴァさん【gatewale2】
お借りしています。
彼の魔法は「無属性魔法」と言うらしい。水や火といったものを熾せないということらしい。
それでアンヘルは構わなかった。
アンヘルが魔法を学びたいと考えたのは、相手が彼だからだ。もしも彼が火や水を使える魔法使いだったとしても、アンヘルは変わらず弟子に志願していただろう。
左耳に輝く宝石が、残光のように暗くなってきた空気に溶けてゆく。
「弟子入りは現状許可しない。取ってもいいと思えたら契約してやる。駄目なら俺の前から即刻消えろ。答えが出るまで俺の家にいて構わん」
ありがとうございます、と言おうとくちびるを開きかけたときだった。
「ただし、この場で誓え。何があっても俺を守らない、と」
「
……
どうして、」
彼は「守るな」と言った。
もちろんアンヘルよりも彼のほうがあらゆることにおいて強いことを十分に知っているから、守るという大それたことなどできはしないけれど。
「
……
分かり、ました
……
」
まだ名も知らぬその魔法使いは、アンヘルに背を向けて家に入っていく。
彼はこの家にいていい、と言ってくれた。嬉しかったけれど、心に棘が刺さったような思いのまま家に入る。
彼はそのまま籠をテーブルの上に置くと、ソファの上にすわった。どこに行っていたのかは分からないけれど、ずいぶん疲れている様子だった。表情は変わってはいないが。白い頬がすこし青ざめているようにも見えた。
彼が出かけると言った日に食べていた、お粥しか胃に入れていないのだろうか、という考えになってしまった。
「あの、りんご一個、もらいますね。あとキッチンもお借りします」
「お前が採ってきたんだから好きに使えばいい」
アンヘルはりんご一個を手に持ち、キッチンの前に立った。鞄の中から果物ナイフと、鉱石を売った際に好意でくれた紅茶の茶葉を取り出す。
水をちいさいポットに入れて沸かす。その間にりんごを皮のまま細かく角切りにする。それから彼にお粥をつくったときに使っていた鍋に少しの水とりんごをいれて、火を熾した。
湯が沸いたら茶葉をいれて少しの間待つ。この時、沸騰させてはおいしくなくなるらしい。鍋を見ると、ちょうどりんごが煮えてきた。その鍋に煮出した紅茶と、少量のはちみつを入れる。
香りが立ったら、りんごの紅茶ができあがる。
母によると、りんごの皮にはたくさん栄養が蓄えられているらしい。勝手に使っていいかすこし躊躇ったが、彼のぶんのカップだからと、近くにあったティーカップとソーサーを持ってきて、余った湯で少しカップを温める。温めたら湯を捨てて、りんごの紅茶を注いだ。ごろごろとりんごの果肉がカップのなかに放り込まれる。空気を含んでさらにキッチンにりんごの香りが広がった。
カップとソーサーを持って彼がいた場所に戻ると、彼はソファから椅子に移動していた。
金色の長い髪の毛の隙間から見える、細いおとがいを見て僅かに目を伏せる。彼のことをなにも知らないけれど、彼はアンヘルのことを知ろうとしてくれた。今はそれだけで十分だ。
「あの、紅茶を淹れてみました」
金色のまつ毛が少し上がって、アンヘルを見上げた。テーブルの上には本がたくさん積み上がっていた。けれどもソーサーを置くスペースはあったので、彼の前に置く。
「よかったらどうぞ。りんごの紅茶です」
「
……
」
彼はカップに手を伸ばして、そっと飲みこんだ。表情はやはり変わらないが、おいしくないわけではなさそうで安堵する。
「お前の分はどうした」
「はい。こちらに」
片手にぶら下げていた自分の小さなポットを机の上に置く。
彼は一瞬だけそのポットを見てから、カップに再び口をつけてくれた。ふと、先日のアンヘルの手からお粥を食べてくれたことを思い出す。再会してひと月以上見せなかった弱った姿。その姿はアンヘルの脳裏に焼き付いてはなれなかった。それ以上に忘れるなとも自分で自分を叱りつける。
「座って飲め」
向かい側の椅子を指差した彼を見て、「はい」と返事をして座った。
ポットから直接りんごの紅茶を飲むと、だいぶ熱かった。咽せそうになったがなんとか耐える。
「これ、はちみつも入っているんです。はちみつは疲れを癒やしてくれるようですよ。あ! あと、嫌いな食べものとかありますか?」
「ない」
「おお、好き嫌いないんですね。ワルプルギスの森で頂いてきたきのこがあるので、またあとでキッチン貸してください。きのこと
……
ちょっとしなびちゃっていますが、野菜もあるのでスープにしようかなと思います」
かちゃりとソーサーにカップを置く音がかすかに響く。
アメトリンの色の瞳が、アンヘルを見据えた。左耳の耳飾りが星のように煌めく。
「サヴァ・セルクイユ」
「?」
「一度しか言わん」
サヴァ・セルクイユ。と口のなかで何回かくり返す。それが「彼の名前」であることに、すぐ行きついた。
「サヴァ様」
初めて声に出せて名前を言えたことで、アンヘルのこころに春に芽吹く花のように色がついた。
「ありがとうございます。大切な名前を教えてくださって。俺、すごく嬉しいです」
手のひらを丸めながら笑顔を向けると、彼
――
サヴァは肩をすくめた。
「俺は、アンヘル・ハーヴェスト。将来、あなたの弟子になる男です。よろしくお願いします!」
知っている、とサヴァはカップを持ち上げて呟いた。
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