じじじと誘蛾灯の音がする。邂逅のなかでは、嫌な音だ。焦げた感じがするから。ベンチにあぐらをかいて坐る隣に、男は座った。そういえば名前も知らなかった。けど幽霊に名前聞かれるのもいやだよなと思い、口を閉ざす。
「お前の目を奪った理由だけどね」
この男から――二度目の死を与えられるかもしれない。そう思っても別に怖くも何ともなかった。一回死んでいるのだから、殺されるのは――いや、祓われるのは怖くはない。きっとあの熱さよりもひどい死を、この男は与えないだろうからと、そう思う。
「きれいだったからだよ。羨ましいくらい」
「そんなことで」
「そうさ」
邂逅が頷く。この男の目を奪って、どんな扱いを受けてきたのかは分からない。けれどきっと、いい扱いはされてはいなかったんだろうと思う。
「坊ちゃんが嬢ちゃんを庇っている姿、すごく人間らしかったよ。その人間らしさが、おれはほしくなった。人間じゃない、おれが」
笑ってしまう。邂逅は元人間なのに、人間の「もの」がほしいというのだから。
――それがどんな結果を生もうと、邂逅はほしかった。恐ろしかっただろう。こんな風貌の男に声をかけられて。そして、邂逅は彼の瞳の強さに惹かれた。
「人間らしさってなんだろうって、おれが生きてた頃……戦争中思ってたんだ。ひとがひとを殺しあって、特攻隊が命を使って命を奪っていた。人間らしさなんてどこにもなかった。でもお前は、守りたかったんだろ。嬢ちゃんを。少し思い出したよ。近所の兄ちゃんが戦争に駆り出された時、お前たちを守りたいんだって言っていた。べつに美化するつもりはないけどな。人間って、守ったり守られたりするもんなんだなぁって」
減ってきた下駄の歯を指先で撫でる。ざらざらとしたそれは、指を埋めればささくれだった棘に容易に刺さるだろう。
「おれはなにもできなかったよ。奪うことしかできなかった」
「だから返そうっていう思いがあるってこと?」
「そうだよ。返さないって思う子もいるけどね。でも、こうしてお前みたいに言葉を交わしてくる子がいる。坊ちゃんも変わってるね。力づくで奪い返してもいいのに。おれみたいなの、きっとすぐ祓えるだろう」
「どうだろ」
ふと笑う。
ほんの十年くらい前だ。からだの中に押し込めてある彼の目を掻き分けて見つける。昼の空と月のような色をしていた。
「嬢ちゃんを守りたいと思ったお前の目は綺麗だったよ」
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.