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いを
2023-08-23 20:36:44
1271文字
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刀神
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少年詩
蓮のこと。
・(お名前だけ)森さん【waffle_mofu】
お借りしています。
きっと仕方の無いことなのだ。
いや、けれど仕方が無いと諦めるにはまだ早い。今日はパンでいい。食パンに塗るものはバターよりもマーガリンのほうが好きだった。
二番目の姉が「遅刻」と笑った。少女のような笑顔だった。一番上の姉は25歳。会社員で、ありきたりのように毎日のように上司の愚痴を言っている。二番目の姉は22歳。就職活動中で毎日忙しなくスーツを着て鳥居をくぐっている。
「ごはんあるよ」
まだ寝ぼけまなこな姉が炊飯器を開けようとするが「いい」と一蹴した。
「なに、パン? うわ、なにこれ真っ黒じゃん」
「うるさい」
「焦がしてやんの」
「
……
うるさい」
「食べなよぉ」
「分かっている」
間延びした声を再び一蹴して、マーガリンを塗りながらフライパンに卵を落とす。今日は卵焼きをつくるひまなどない。今日は目玉焼きだ。目玉焼きに、焦げた食パン2枚。十分な朝食とは言えない。遅刻だからだ。それでも朝食をとる時間はギリギリ、ある。卵の白身が透明からふつふつと泡立ち、完全に白くなる間に食パン1枚にマーガリンを塗りたくって口に入れる。
「
……
にが」
当然、苦かった。
黄身が固めなのが好きなので、十分に熱する。後ろから行儀悪い、という声が飛んできたが無視をした。キッチンというよりも台所と称したほうがいいここは、コンロの前に丁度、はめごろしの窓がある。木々の影がゆらゆらと揺れていた。
再び手元を見て、頃合いになった目玉焼きをマーガリンを塗った食パンの上に乗せる。そこに醤油を一差し。そのまま齧りつく。くしゃりと音がして、じんわりとマーガリンの甘塩っぱさを感じた。苦いが食パンはあっという間に半分まで胃の中に収まった。皿を使う猶予などないので、フライパンを皿の代わりにする。姉に見られたらそれこそ大目玉だが、今は時間が惜しい。昨日の夜損ねたスマートフォンの目覚ましは、やはりうんともすんとも言わなかった。小憎たらしい気持ちになりながらも、昨日そういえば虹が出ていますよという晴夏からの連絡があったことを思い出す。写真を撮ったのだった。フォトアプリを開くと、美しい虹が半月を描いている。フライパンから食パンを取って、一口再度囓る。口もとがふ、と緩んだ。
「時間いいの!」
姉の言葉に液晶画面を見ると更に猶予のない時間になっていた。囓っていた食パンを頬張って、急いでフライパンを洗う。急いでいるからか水気がシンクの外まで飛んでいった。フライパンをしまい、歯を磨いて鞄を引っ掴んで肩にかけ、玄関でスニーカーを履く。二番目の姉はにやにやと顔をだらしなくさせながら「えっと、森さん?」と言った。ばっと後ろを振り返る。
「名前聞こえてたよ。あんたの部屋の隣、私の部屋なんだからね」
「
……
聞いてんなよ」
「今度からは外かどっか廊下で電話するんだね」
「うるさい」
あはははと高笑いしながら、二番目の姉は廊下を歩いて行った。
スマートフォンの虹の写真を走りながら思い出す。ついさっき感じた食パンの焦げた苦みは、それでも確かに悪くなかった。
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