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いを
2023-08-15 20:52:25
1339文字
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刀神
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滲む冥途
久遠のこと。
・日影さん【s_tatumi】
お借りしています。
水無瀬日影。その男は、そう言った。
「鯉朽隊壱段、早乙女久遠。よろしく頼む」
「よろしく」
明るい琥珀色の髪の毛をした水無瀬日影という男は木刀を左手に提げ、久遠の目を見た。値踏みするような顔ではない、ただ単にそこにいる者を見ているというだけの目だ。
濃い藍の袴をつけた久遠は日影に礼をした。同じ壱段とはいえ久遠の方が若輩者であることは変わりない。
互いに木刀を両手で握る。
「始め」
審判の声と同時に
――
あるいは一拍遅れて久遠は足を踏み出した。日影も同時だった。一拍おいたのは
見る
・・
ためであったのだろうかと思う。壱段同士の決着というものはつくかつかないか、久遠にも相対しなければ分からない。何せ、まだ壱段になって半年だ。目の前の男より、圧倒的に場数は踏んでいないのだろうと後々思うことだろう。
木刀と木刀が打ち合う甲高い音が道場に響き渡る。この男、目がいい。久遠にはないものだ。木を擦る音が耳朶に届く前に足を引く。
「
……
っ!」
足を引いた久遠を見越していたのか
――
男は足を踏み出してきた。
(馬鹿な。
懐に入らない
・・・・・・
気か。)
そう、男は懐に入らずに久遠の後ろを取った。その間おおよそ0.5秒。まばたきするよりは遅いが、それに近しい速さで後ろに回り込んだのだ。久遠は体を捻り、肩に入ろうとする木刀を下から弾く。ガン、と鈍く高い音がして、日影の目が細められる。
型のない武術。
久遠は幼い頃から武術に親しんできたが、流派は無い。それ故に「知っている」こともある。型のない武術というものは、本人の癖が出やすい。自分で練ったものだから当然だろう。そこに性格も出るのかもしれない。
まっすぐな、基本の流派に則ったものではないその太刀筋ならば久遠も望むところだ。
日影は弾かれて振りかぶった恰好のままの体勢を瞬時に直し、久遠の耳を狙い突く動作をした。木刀が風を切る音がする前に屈み、足の筋肉と筋を使って肋に木刀を叩き込もうとした直後、日影はくるりと木刀を指先で翻し、木刀の腹で叩き落とす。
――
からだが、持って行かれる。
前屈みになろうとする体をつま先で踏ん張ってから背中を無理やり伸ばし、体勢を整えて眼前に迫る刃を刃で以て受け止めた。
「止め」
審判の鋭い声が耳に入り、ゆっくりとその場から後ずさる。
日影も同じように木刀をおろし、足を引いた。
肩で息をする久遠とは違い、日影はあまり呼吸の乱れはない。これが、差、というものか。
再度礼をすると、審判は次の試合を見届けるために去っていった。
「
……
ありがとうございました」
「こちらこそ。ありがとうございました。
……
きみ、壱段になったの最近?」
「半年くらい前です」
「そうなんだ。太刀筋が荒いから。まだ若いからっていうのもあるのかもしれないけど、荒削りだね。剣先のブレ、手の力の入り抜き、もうちょっと考えたほうがいいよ」
「ご鞭撻、どうもありがとうございます、水無瀬さん。
……
あなたも勝負に出るのが早かったですね」
彼は焦げ茶の瞳をほんの少しほそめて「相手が壱段なら」と答えた。
「獲れなきゃ獲られるからね」
ねぇきみ。
日影は問いかける。
「どうして強くなろうと思ったの?」
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