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いを
2023-07-30 22:11:33
2085文字
Public
タグ、掌編、その他
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ワードパレットまとめ1
ワードパレットお借りしております。
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。
夕闇の手前
夕闇の近くの雨になると肌寒い。柳の枝がしとどに濡れて雫がコンクリートに落ちて蒸す。水蒸気があがり、地面が霞んでいる。
「なあ葵衣さん寒くない? 俺こんなカッコだから説得力ないかもしれないけど」
「いや別に。寒くはないな。
……
暑くないのかアンタ」
「寒くなければいいんだけど。夕方の雨ってさなんかムシってしてヤだよな。俺だって分かるよそれくらい」
そうだ寒くなければいいんだ。寒いのはいやだもんな。冬みたいに寒いと気だって滅入るよ。俺寒いのイヤなんだよ。手先も凍えてうまく使えないし。
「そうだ葵衣さん、手ぇだして」
葵衣さんは不思議そうな顔をみせて両手を出した。俺はその手をとって、握ってみせる。ぬくい体温が掌にじんわりと感じた。
「うーん、人肌って感じ」
「なんだよ」
「夜はね。寒いんだ」
お前は寒いことなんかないかもしれないけど。
「だからお前が夜寒くないようにね。おまじない」
葵衣さんの片方ずつ違う目の色を見る。変わった虹彩の色を見てにひ、と笑ってみせた。あのね俺はその目玉も好きだけど手も好きなんだよ。夜になっても怖くないよ。俺もそうだしお前もそうだったらいいな。
「はやく帰らなきゃな」
夜はもうすぐそこ。
黄昏時なんてものなきゃいいのにと思うのに毎日来てしまうんだから仕方がない。一生懸命その時間をくぐって生き抜いてやるんだ。今だってぐいぐいとゆるいジャケットの裾を引っ張っているんだからたまったもんじゃない。連れて行ってほしいなんて誰が言ったんだよ。
「また明日な。はやくうち帰んなよ、葵衣さん」
じゃあね、また明日。
月影の誘惑
暗い中でもちゃんと見える。竜胆の花みたいに仄かに中から光り輝いているようにも見えた。
つやりとした黒髪が月に反射して輝く。まるで深夜に見た蔦の影みたいだった。真っ黒というほどではない。自然な明るさならちゃんとある。
「彌太ちゃん飲み過ぎ。お酒くさい」
「そんなこと言わないでよぉ。月見酒ってさぁ、美味しいんだよね。なんか、よくわかんないけど」
「よくわかんないのに飲んでるの?」
昼の空のような目がこっそりと彌太郎をのぞき込む。百鬼切百面ノ太刀という名前の刀神は本当にかわいい。彌太郎の百。体を前に倒して、軒先から見える月を見上げた。百はあんな月みたいに姿が変わるのだ。だから彌太郎の百。百の彌太郎。
「そういえばさぁ百ちゃん」
「なに?」
ふっと月がかげる。雲に隠れて光がにじむ。
「百ちゃんはよく俺を気にかけてくれるね。俺んちなんてもう俺のこといないみたいに思ってるのに」
「だって彌太ちゃんはあたしの」
「そうね」
暗がりだからっていって、なんにもやましいことなんてしないけどさ。百の白い手をたぐり寄せて握った。背中を丸めたまま、うつむき加減で百ちゃんと呼んだ。こんなおじさんに百ちゃんなんて呼ばれて可哀想な刀神だとちょっとだけ思っている。そんなことを言ったら百ちゃん、怒るだろうな。でももう少しだと思うんだ。鯉朽隊にはいったのは戦うのが好きだからだよ。そんな人間が長生きできるはずもない。
「最期の時までそばにいてね」
するりと月影に紛れたのをいいことに、小指を絡めた。
隣の花
あのね宝石とパワーストーンって、一括りみたいに石屋は言うけどなんかサ、全然違うよね宝石とパワーストーン。
規格外になってはじかれたのがパワーストーンなんだって。だからそんなありがたがっちゃうことなんてないんだよね。
「朱野ちゃん今日もお疲れさまだよ」
小柄な背中を見て白衣のポケットから出した手を振った。瑚柚は顔を上げてその
紅玉
ルビー
みたいな目を菊司に向ける。丸っこい目はいつもみたく人を見ていた。
緋に緋を重ねたようないい色だ。瑚柚の眼球は。
「菊ちゃん」
ぽつりと菊司の名前を呼んだ瑚柚は、ジッと菊司の頭のてっぺんを見てから「菊ちゃんて」と続けた。
「なんでそんなに大きくなったの?」
「なんでだろぉね。こんなにひょろ長くなっちゃって鴨居にだって額をぶつけるよ」
花が揺れている。ふわふわとした髪の毛が揺れて窓を見た。そこは窓が開いていて風が入ってきているようだった。チリンと片耳につけた耳飾りが涼しい音をたてた。砂糖菓子のような声。菊司は瑚柚の声をそう評する。砂糖菓子といっても甘いだけではない。鋭い感覚もある。鋭く、そして聡い。
「朱野ちゃんは」
ふっと吐いた言葉を菊司は飲みこもうか否か迷ったあげく「朱野ちゃんはちゃんと食べてる?」と言った。他意などない。前にちゃんと食べなねと言った手前、放っておくこともできなかった。
「食べてるよ」
「それならいいけど。若者は健康が一番。仕事も課題も忙しいだろうけど体に気をつけてね」
食べるということを菊司はよく分からないが、瑚柚たちのようなまだ若い子に対する思いは違う。菊司は苦笑いをして「なんてね」と冗談めかした。
きみはきっと、パワーストーンなんかに願いをかけるようなことはしないんだろうね。
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