Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
いを
2023-07-29 18:43:07
2026文字
Public
刀神
Clear cache
幽霊か花の色
菊司のこと。
・瑚柚さん【Metol_P】
お借りしています。
ちかりと瞬いた。
花火が散っていく音と光。今日は夏祭りでもあっただろうか。自室を膝で這いながら襖を開けて立て付けの悪い硝子戸を両腕でこじ開けた。
「おおっと」
菊司は思わず前のめりになって二階から落っこちそうになった。だめだなぁもう。こう立て付けが悪ければ窓ごと落っこちてしまうかもしれないしバディの劫罰狐がいたずらをしてしまうかもしれない。もっともいたずらができるような情緒が備わっていればだけれども。
はっきり言って花火には興味ないのだけれど上がっているものはただだし見なければ。
アパートの二階の自室は畳が敷き詰められ、古いどこのものかも分からない文机が隅に寄せられている。
「あのねごう」
すみっこで丸まっている白い毛玉を見て息をつく。
「きみ暑くない? そんな暑っ苦しいかっこなんかしちゃってさ」
「あつい? あついとは分からない」
「ああそうだった。刀神って暑い寒いだって分かってる筈なんだけど。ねえごう、きみの毛すこしちょうだいよ」
「毛をどうするのだ?」
「加工してさ。防寒着に転用できないかなあと思うんだけど」
「てん、よ
……
。よくわからないが、やくにたてるのならいい」
「冗談だよ。バディの毛むしり取ることなんかするわけないでしょ」
劫罰狐は首をのろりのろりとゆりかごのように動かしてやがて再び丸くなって寝息をたてはじめた。菊司はまん丸い眼鏡をすくい取ってティッシュで拭う。
そういえば今日は変わった子が来ていたな。
名前を朱野瑚柚といって緋鍔局の職員だと聞いた。菊司が「清陵院て長いでしょ菊ちゃんでいいよ」と言ってみたら無邪気にも菊ちゃんと呼んだ。菊ちゃんなんていつぶりだろういつか呼ばれていたような気がするけれどとっくの昔だろうから忘れてしまった。
計算高そうな、菊司からしてみれば子ども、あるいは少女。その少女の目を、菊司はよく知っていた。昔の自分のようじゃあないか。ほんとの家族じゃない義両親の顔色を伺って、なんてそこまでとは言わないけれどどこをどうすればいいのかじゅうぶん分かっているような顔。だからといって何だと言うことはないが変わっているなあという感じだ。
花火がぱんと上がってちりちりと消えていく。
「俺は一度聞いた名前は忘れないよ忘れちゃいけないもんだろ名前って言うのは」
あのねぇ俺ってば頭がいいから、名前は忘れないんだ。
朱野瑚柚。今はバディがいないようだけれど何れバディを組むようになったならその刀神を見てみたい。彼女は一体、どんな神と組むのだろうね。
花火が上がった次の日に、瑚柚は手にエナジードリンクとお菓子を持ってきてくれた。そして内緒と云った。まだ幼そうな、いとけない人さし指をくちびるに押しあてて「内緒だよ」と云った。まあこの子くらいの年齢ならばこんな飲みものはいらないか、からだに悪いからと反対するものがいても何らおかしくはない。
「それにあと、お菓子。どうぞ!」
「へえ、ありがとね。エナドリ、これね、あんまりきみみたいに若いうちから飲むようなものじゃないからね。痛い目見ちゃうよ」
「そうなんだ」
瑚柚はきょとりとしたような柘榴のまん丸い目で菊司を見上げた。菊司は「ありがたく頂くよ対価なんてもらうなんて思ってなかったけど。これは俺の経験値だから」と刀掛けに置いた軽量特化の豊和を取った。鞘にはねこのシールが貼ってある。彼女がかわいくしたいといったのでシールを渡したらかわいい鞘が出来上がった。鞘は消耗品だからねと菊司は伝えてある。
「軽ーい」
瑚柚は両手で豊和を上げたり下げたりしているその姿を見て菊司は目を細めた。
「軽ければ軽い程ね、鞘も頑丈じゃないし刃だって毀れやすい。戦う時は気をつけなさいね。いざとなったら鞘でも柄でも投げでもなんでもして逃げな。俺の豊和はそういうふうにできているんだから」
「豊和を投げて逃げるってこと?」
「そういうこと、いい、命があっての物種なんだからね。生き延びたって自分を許してあげなよ」
「
……
」
「生き延びて苦しい思いをしてる子だっていることは知ってるからね。俺もバディを折って生き残っちまった。まあ昔のことだけど」
くちびるの端っこを上げて笑ってみせると瑚柚は首を傾けた。
「刀遣いの惨めな昔話さ。忘れちゃっていいからね」
誰にでも言っているわけではないけどこの子にはなんとなく言っておきたかった。バディを折った俺でもよければ豊和は幾らでもつくるからね。そういったことをわざわざ、むざむざ言い聞かせたかったのかもしれない。
「悲しかった?」
瑚柚は云った。
「そうねえ悲しかったかもしれない。今も悲しいけどずっと悲しんでたって腹は空くんだ。だから食べたり飲んだりするの」
そうしないと生きていけないからね。分かった?
「朱野ちゃんはちゃんと食べなね。よく言うでしょ体って食べたものでできてるんだって」
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内