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いを
2023-06-20 22:30:39
1339文字
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櫻神学園
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ハルニレの丘より
真珠のこと。
・美綴くん【yasuinokikaku】
お借りしています。
春に閉ざされた櫻神は、いつもすこし寒かったり、すこし暖かかったりする。
真珠の髪の毛にほつれ止めのようにくっついている真珠の珠を、指先で摘まんでするりと滑らせた。
あえなく毛先から落ちた珠を、真珠が見下ろした。
こんなにちいさい。
うつくしいものは、みんなちいさいのだなあと、こっそりと思う。
透司と真珠の部屋の風呂場は、ちいさな、つるつるとした桶と、体を洗うしゃわしゃわとした布があって、脱衣所には体を拭く厚いふかふかの布もあった。
湯船には、水が入っている。
真珠が水を入れたのだった。
そっと、湯船に足をかける。
足の指先がひやりと感じた。
真珠が生まれた場所は海辺だった。
今も、目を閉じれば聞こえて来る。
渦潮、漣の音、白波。太陽に反射して大きく照り返す波。
きらりと光るのを、真珠は見つめていた。
けれど砂浜で、桜は育たない。
今のように桜を見ることもなかったあの頃は、海の中でじっとしていた。
万華鏡の底を見つめるような、羨望を滲ませた目で海水をへだてた先にある太陽を見つめたりしていた。
夜は砂浜に出て、水面に影を宿す月を見上げた。
このあたりに人間が住む里はなくて、そこで二百年、過ごした。
あるとき、目を醒ますと籠の中だった。
漆塗りと蒔絵がほどこされた立派な籠の中。真珠は驚いたけれど、人間の声が聞こえて興味本位に耳を近づけた。
神様だ、という声が聞こえた。
私たちを救ってくれる神様だ。
山へ連れて行こう。
我々が住む場所にやしろを建てて。
そうして真珠が連れてこられた場所に、立派なやしろが建てられた。
見渡す限りの緑、そして季節は巡り、白にもなる。
山桜の紅。
竹と竹が打ちつけられる音。
台風の日は風がやしろを揺らした。
「真珠」
ゆらめく透司の顔が見えた。
真珠は口を開けると、ひとつ、あぶくを出した。
それから、ゆっくりと水面に顔を出した。体を丸めて湯船に体を沈めていたから、髪の毛も服も重かった。
「バカ、また服着たまま風呂に入って」
「水の中にいるとね、昔を思い出すんだ。櫻神の前の前にいたところ」
真珠の手のひらの上に、透明な膜のような水がゆれた。
「ここに海があったらな」
「もう出ろ。風邪引くぞ」
「うん」
湯船から出ると、余計体が重たくなる。阿古屋貝の色の髪の毛が体のラインにぺったりと張り付いて、水滴をしたたらせた。
脱衣所に入る前に透司からふわふわの布を渡される。それを受け取って、髪の毛の水滴を染みこませた。
のろのろとしていたからか、透司の腕が真珠の頭にのびて、その厚い布で髪の毛を拭いてくれる。
「ありがとう、とーじ」
「ちゃんと拭けよ」
「うん」
少しの間じっとしていると、透司は真珠から離れてキッチンに向かったようだった。
そのあと、ケトルでお湯を沸かしてくれた彼は、お茶を淹れてくれた。
とっぷりとした緑色の面を見ていると、このなかにもどぼんと潜ってみたい気持ちもする。そんな心の内側に気づいたのか、透司はまた腕を伸ばして真珠の頭をごしごしと撫でてくれた。
「海で、泳ぎたいなあ」
真珠はちいさく、ひとりごとのように呟いた。
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