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いを
2023-05-22 19:12:40
2722文字
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刀神
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散らば餞
【黄泉ト刹那】
とある死者の妄言。
・円寿さん【keim_sabu_dayo】
・(お名前だけ)優香さん【orver_ykn】
・(お名前だけ)灰さん【yasuinokikaku】
お借りしています。
おそらく致命傷という傷はなかった。
ぶすぶすと、体に穴を開けて。
ただ、そうやって生きて、死んだ。
ひとの生というものが、どれだけ無価値で、どれだけ矛盾に満ちていて、どれだけ無意味なことなのか、よく分かった。
死んだおのれがいうのだから、間違いない。
間違いないが、結局は亡者の。
――
阿伽陀清司郎の、世迷い言。
目を開けると、そこは煉魔区らしい場所だった。おもむろにとなりを見ると、青年が立っている。
ああ、円寿。ここにまで着いてきてくれたのか。
やけに霧が濃い。
なにかあったのだろうと
・・・・・・・・・・・
、それだけ思った。
死者である清司郎に夢など見ないのだから。
ただ、やけにひんやりとしている。あちこちで怒号が聞こえる。慌ただしい。
「円寿」
「はい」
「ここ、煉魔区みたいだね。俺、あんまり来たことないけど、煉魔区って書いてある」
「そうですね。なんだか奇っ怪なことに巻き込まれたようで
……
」
「死んだのにね」
自分の恰好を見れば、あの時のライディングウェア。傷はあるのかどうか分からない。ただ、痛覚はなかった。
ふ、とくちびるを上げる。
そう、死んだのだ。
円寿の黒い髪の毛が風に乗ってすこしゆれる。彼の恰好も、いつもの軍帽に外套ではない。清司郎が見知った服装ではないようだった。
「はは。まるで悪意の塊だ。馬鹿馬鹿しいにも程がある。死んだのに続きがあるなんて」
耳もとで甘言を囁かれるような。
けれどあいかわらず視界は半分だし、体は生きていた頃より重い。
つまりそういうことなのだろう。
死んだ直前のことを清司郎は知っている。それだけ分かれば十分だ。
足を踏み出すことはすこしおっくうだが、ここで立ちっぱなしになっていても埒が明かない。
「とりあえず、この辺り歩いてみようか」
「はい。清司郎様。あ、見てください。あそこ、天丼の店があります」
円寿が指差した店は、チェーン店の天丼屋。生きていたころよく行っていた気がする。
そう思うくらいにはありがたいことに記憶があるらしい。
「この状況でやってるのか分からないけど、行ってみる?」
「ぜひ」
濃茶の目が輝いている気がするので、その店の前まで歩いて
――
扉を開けようとする、が、手が宙を切った。
「なるほど。確かに幽霊だね、俺たち」
「残念です。目の前に天丼の店があるのに」
「そうだね。
……
知り合いに会うのは避けたいところだけど、煉魔区にはあんまり土地勘ないからなぁ。このまま歩いていてばったり、なんて
――
」
そもそも今はいつなのか。
電子機器なんて、死人である清司郎は持っていない。
家に向かおうにも、土地勘がない亡霊がどこをどう行けば家に着くなんて分かるはずもない。
「
……
円寿」
考えあぐねて、あごにあてていた手をふっと下ろす。
濃すぎる霧の群れに、清司郎は頭の片隅で考えていたことを吐き出した。
「さっきから考えていたんだけど」
円寿の顔を見て、眉毛を下げる。
「俺、微塵も後悔していないんだ。死んだこと」
死にたかったのか、といえば「いいえ」と答えるのだろう。
死にたくなどなかった。
生きていたかった。
だが、生き続ける勇気が清司郎にはなかった。
ボロ雑巾みたいになって、関ノ胎に行ったのはもしかするとまっとうな生き方ができるかもしれない、という可能性を見たからだ。
清司郎にとってのまっとうな生き方とは、刀遣いとして最期まで戦うという、はたからみれば矛盾に満ちた道だった。
もし関ノ胎で死んでいなくとも、おそらく清司郎は遅かれ早かれ、死んでいただろう。
死に場所を求めるように。無意識に死を求めるこの体を、あざ笑いながら。
「殉職、なんて、耳ざわりのいい言葉だよ。
……
吐き気がするくらいに。俺のは、ただの自死だったのにね」
「清司郎様は自死などでは」
「自死だよ。あのまま引き返すこともできたのに、しなかったのは俺。けど。けどね、俺は後悔していない。誰かを置き去りにして、きれいさっぱりこの世からいなくなって、後悔しないなんて。はは、やっぱり俺も母さんの子どもか
……
」
狭山翠霞という精神科医に止められもした。
けれどみずからのこの道を選んだのは誰でもない、清司郎だ。
「自分殺しの血からは、逃げられなかったよ。でも、円寿。円寿がそれを肯定してくれた。間違っていないと。俺の生き方は俺で決めていいんだって」
「清司郎様は俺を連れて行ってくれましたから。俺はそれでいいんです」
「
……
ありがとう。この霧がなくなったら、俺たちもまた消えるのかな
……
。きっと、それが二度目の最期なんだろうね」
円寿を、誰よりも近くにいたバディを折った自分に、魂の安らぎなどあるものか。
そう思ってはいるけれど、おそらく円寿は「置いていかないでくれた」というのだろう。
刀神は折れない限り、無限の時を生きる。
何度も何度も、主を看取ってきたのだろう。置いていかないでという悲鳴を振り払って「生きろ」と無責任にいうのだろう。
清司郎には、それができなかった。
25年、共にいたのだ。家族よりも傍にいたのだ。それくらい、分かっていた。もっとも、そう分かったのは死ぬ間際だったけれど。
円寿の昔話を寝物語に、清司郎は目を閉じた。
約束を、と言いたかったけれど、あの時はもう意識もほとんどなくて、聴覚だってほとんど機能していなかった。
それでも聞き遂げた。
「なんだか、変な気分ですね。二度目の最期なんて」
「まあ、普通はないだろうから。たぶん」
そういえば優香はどうしただろうか。灰は。
あのちいさかった優香が立派に刀遣いになったと聞いたときは驚いた。少し、いとこらしく反対でもしようとした。
けれど、彼女の人生を否定などしたくなくて、結局「そう。おめでとう。しっかりね」と笑ったのだった。
灰は。
あの親友はどうしただろう。怒っているだろうか。それとも泣いてしまっただろうか。
蝶子、そして腕さえもなくして。それでも清司郎が笑えば灰も笑ってくれた。ささやかな悲しみをまといながら。
「
……
やっぱり、本当に、ろくでもない死に方だった」
足を一歩、前に出してみる。
この道が地獄に続いていればいいのに。
「それでも円寿。きみは一緒に着いてきてくれたね」
「はい」
25年前から、そしてずっと昔から変わっていないであろうその
容
かんばせ
を、清司郎は見て、笑った。
「そうだ。いつ霧が晴れるか分からない。また、聞かせてよ。きみの物語を」
こんな、悪い夢のような場所で。
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