Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ひろっぷ
2023-08-03 00:58:14
2122文字
Public
第五 ハス探
海神様と、夜伽の話
ハス探(ポセ歌)の禊事情健全編。
湖畔の真ん中に聳え立つ屋敷。
この大きな屋敷で暮らして一年ほどが経った。
村で虐待を受けていた地獄とは裏腹に、まるで天国のような扱いにしばらく戸惑っていたが、人間の慣れというものか今となっては屋敷を一人で歩けるまでになっていた。
備え付けられた書庫に入り浸るようになり初めこそ海神に関心されたが、今や呆れられるほどに籠る始末だ。一度叱られた事があり頻度はそれなりになっているが。
ぽーん、ぽーんと佇んでいた古時計が海神との会食の時間を告げ、夢中になっていた事を嫌というほど実感してしまう。窓を見れば陽が傾いていた。
(これは
…
また怒られてしまうかな
…
)
いつもなら時計が鳴り響く前に席についているはずの己が身を、ほんの先の未来を予想して案じてしまうのだった。
『また書庫に浸っておったか』
「ごめんなさい。まだまだ面白い本がたくさんあって」
『フ
…
そうか、僥倖よ。しかと蓄えよ』
「はい」
この時間、この場所で、ノートンと海神は食事をする。海神こそ食事を必要としないが、人間に食事が必要という習性のため海神も席につき付き合うのだ。こちらにしか食事が用意されていないのは興味からくる観察をするためらしい。
連れてこられた当初、見られながら食べるのはかなり抵抗があったが、海神はそれをやめるつもりはないらしく、一年も経てば割と慣れてしまった自分がいた。
『時に我が妻君よ』
「ぶほっ
…
」
『む。未だ慣れぬか。早急に馴染め』
「無茶を言う
…
!げほっ
……
それで、なんですか」
唐突な呼びかけに喉を詰まらせるが、改まった海神の声に僅かに体を強張らせる。こんな時は大抵、"アレ"を行う時の合図だからだ。
そしてそれは案の定その予感が的中する。
しかし、今回は少し違うようで。
『そう構えるな。いつも通りにしておればよい』
「
……
貴方はそう言うけれど、僕は恥ずかしくて慣れないんです」
『人間は不便よの。して、本題はもう一つある』
「?」
『そなたの部屋に衣を用意した。今宵はその衣を召して場に参れ。良いな』
「分かり
…
ました
…
?」
…………………
(なんだこれ。なんだこれ!)
陽が暮れて月が顔を出した頃、宛てがわれたにしては広すぎる自室で、ノートンは繕われた服を見るや思わず飛び上がった。
この心の叫びをよく口に出さなかったなと思う。
何せ透けている。何もかもが。
着る意味はあるのか。大事な所は隠されているといっても、ただ上着を羽織っている全裸も同然の服。
これを着て来いとあの海神は言っているのか。
(でも、これ、女の人の)
時々夜の街で見かけていた娼婦の、それ以上の際どさがますます着る事を躊躇する。しかし海神はこれを来て来いと言う。
戸惑っていると何かがぶら下がる感覚を覚え見下ろす。すると嫌に渋るのを見たのか小さな使い魔がノートンのズボンの裾を引っ張り促していた。
「わ、分かってるよ。分かってるけど
…
」
ここ最近どこかで時間を忘れる事が多く、案じた海神が寄越した小さな遣いだ。見た目は海神とよく似ているが、小さい故か可愛らしさが目立ち威厳は感じられない。
けれど見た目以外は海神と相違ないようで、動かないこちらに痺れを切らし、無数の瞳を光らせ呪文を唱え始めた。
「っ
…
ぁう
…
!待って待って!分かったから!それはやめて!」
体に重力を感じ、疼く腹部を抑え慌てて声を張ると、使い魔は唱えるのをやめてこちらをじいと見つめている。早くしろと言わんばかりだ。
結局は着なければならない。ただ、時間が無駄に過ぎていくだけだ。
観念して透けた服を握りしめて、早鐘を打つ心臓を落ち着かせるべく袖を通すのであった。
………………………
『来たか』
浴場に響く低音にやる前だというのに頭がくらくらしてくる。未だ慣れない場に足が止まり、着た服も相まって床を見つめるしかなかった。ズルズルと触手が這う音を聞き、近づくにつれて縮こまる。
「あ、の。服、これで、合ってる、んですよね」
『左様』
「女性の、服みたい、で
…
その
…
」
これが、本当に儀式に必要な事なのか。
そう尋ねたかったのに、最後は尻すぼみして肝心な事が言えずにいた。触手が足に絡みつけば掬われ、恐る恐る見上げた海神の暗闇は海のようで思わず見惚れてしまう。初めは深海にいる感覚に陥り恐怖を抱いたが、接していくうちに真逆なのだと感じ始めていたからだ。彼が懸命にこちらに親身に接しているのなら、こちらも応えねばならない。
「わだつみ、さま」
おず、と海神のフードに手を添える。応えるように海神の手が腰を引き寄せ、眼前に深淵が近づいてくる。
『余り儀式と意識せずともよい。我が妻君よ、ノートンよ』
「
……
ふ、ぁ
…
」
妻君。ノートン。どれもが普段呼ばれ慣れない名で頭が痺れていく。深淵から出た細い触手はノートンの唇を捉え、ひと舐めした後ゆっくりと口内に侵入していく。その間も海神はノートンを抱え浴場に這っていき、情事に呼応して浸かった湯は淡く光る。
それが海神との儀式が始まる合図なのだと、触手を喰みながら横目でぼんやりと光る様を見ていた。
(また、長い夜が始まる)
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color