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ひろっぷ
2023-04-19 19:37:02
1709文字
Public
第五 ハス探
かみさまのいうとおり
おめかしして準備するハス探
『そなたの思う最高級の装束を纏って参るがよい』
普通の人間には読めない未知の文字。そんな言伝を紙切れに残して姿を消した黄衣の王に、目が覚めたノートンは一つため息をついた。またいつもの戯れか、と。
何処に行くとも何時に来いとも記載はなく、ただ前述の言葉のみ記されており途方に暮れるしかなかった。
もちろん無視をしてもよかった。けれど何故かいつも断りきれず、なんだかんだと流されて彼のペースとなって巻き込まれていくのだ。
(仕方ない)
黄衣の王が勝手に寄越した大きすぎるクローゼットをこじ開け、ずらりと並んだ自分の衣装を物色する。どれがいいか、正確にはどれがマシか。
何をするかも分からない。憶測で服を選んでも仕方がない。
彼は言ったのだ。"自身の思う最高の服を"と。
であれば。
諦めたように笑い、決めた衣装に手を伸ばした。
「
……
あなたはこれが好きだと言ったんだ。そう言われたら、僕もそう思えてしまうんだろう」
…………………
『来たか』
向かった先はノートンへと王が拵えた居館。荘園の自室の扉を開けば暗闇に続き、足を踏み入れれば泡の音に満ちた豪邸が出迎えた。そして階段下、奥に見知った存在も。
「ん」
王のもとに近づこうと階段を降りるが、向かってくる王に手で制され思わず動きを止めてしまう。階段途中で止まり一歩でも動けば落ちてしまいそうな位置のまま、目前には王が佇みこちらを見下ろしている。伝えようとしている事がなんとなく分かってしまいノートンは思わず俯いた。
巨大な燭台がパチパチと火花を散らす音と壁一面の水槽の泡の音が合わさって、どことなく急かすような空気を醸し出している。
『その衣服を選んだか。どういった意図か?』
「
…
あなたがこれが一番好きだって言ったから」
『そなたの意思で、と我は申したはずだが。いや
…
ここに辿り着けたのならば虚偽ではないのだろう』
「
…………
」
覗き込むように屈む気配がしたが、照れ臭く未だ俯いたままであった。帽子がずり上がり、額がかの王の胸元に触れる。それでも未だ、見る事が出来ない。火照った顔は燭台の灯りで誤魔化せるだろうか。手は、耳は、誤魔化せるだろうか。
どちらもこの黄衣の王には無意味で。
灯りでより強調された赤の装束を王は手ずから引き寄せる。
「こんな事させるの、時間の無駄って思わないの」
『さて、な。我は時に頓着せぬ故』
「
………
あっそ」
頬に手を添えられれば従わざるを得ない。情事の際の合図でもあるその行為に緩々と顔を上げていく。こんな時の王は度々揶揄うような態度を取るが、今回ばかりは珍しくこちらをただ見つめていた。ぴたと二つの目と無数の瞳がかち合い、今度は目を逸らせずノートンは震えた。
「それ、やめて、くれ、ない。苦手なん、だけど」
辿々しくなる言葉にようやっと王は笑う。けれどそれは揶揄う笑い声ではなく、まるで人間のような慈しむ声であった。笑い声に震えが解け目を逸らすと今度は不満気に声が降る。今この瞬間、人間を相手にしているようでノートンは益々戸惑って蕩けていく。
『こちらを見よ。すべき事は分かっておろう』
「分かってるけど。いつものあなたじゃないから困るんだ。
…
いつも通りにしてよ」
『稀に見る反応を見過ごす訳にはいくまい。そうさな
…
そなたの言い分で言えば勿体ない、であったか?』
「茶化さないで」
支えられていた体を軸に背伸びして王の首に手をまわす。
つま先が宙に浮けば、抱擁し抱え踵を返して這っていく。肩になるであろうそこに顔を埋めれば、柔らかな毛皮が鼻をくすぐる。王もまた衣装を選び待ち構えていたのだと思うとむず痒くなるが、互いに考えた最高の服と思えば気分も高揚するものだ。
着続ける事は好まないが、稀に望むのであれば吝かではないと思える。
偶には全て言う通りにしてもいいだろう。
この王はどんな表情をしているのかと考え、傾げながら迫るフードの中を見据えるのであった。
「あなたはこれを汚したいんだ?」
『フ
…
そなたがそう思うのであればそうなのだろう』
「
…
意地悪」
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