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ひろっぷ
2022-11-21 20:03:59
1481文字
Public
第五 リ探
怪我未遂の功名
夜来香×ロナードなリ探
"お前がいなければ!!"
なんてありきたりな文句。なんてありきたりな行動。
突き落とされたと分かった時には自分の体が宙を舞っていた。そこそこ急な階段のために高低差がかなりあり、滞空時間が長いなと他人事のように思っていた。
突き落とした張本人が絶望した真っ青な顔でこちらを見ている。そんな顔をするぐらいならしなければいいのに馬鹿な奴だ。
周囲の同僚や客が悲鳴をあげ、こちらに駆けてくるが間に合うはずもない。次に待っているのは落ちた衝撃だ。
受け身こそ取れるだろうがどれだけ軽減できるか分からない。
(死にたくは、ないな)
らしくない浮かんだ気持ちに少し戸惑うものの、ロナードはただ衝撃を待った。
しかし、少し経っても痛みはこない。代わりに感じたのはここ最近の匂いだ。
「っ
……
。
…
?」
「ご無事ですか」
夜来香。そう呼ばれる男がロナードを受け止めていた。自分が無事な事に驚き、咄嗟に階段上を見れば突き落とした犯人は既に取り押さえられている。その間も、夜来香はロナードをしっかりと抱いたままだった。
「
…………
」
突き落とされた故の動悸か、はたまたこの今の状態故か。落ち着かない心音にどうか気づかれないようにと願うしかなかった。
……………………
「助かった。この前といい情けないな私は」
「お気になさらず。間に合ってよかったです」
ついつい感謝の言葉が小声になる。夜来香は知ってか知らずか揶揄う素振りはない。
それどころか、あれ以来夜来香が訪ねてくる頻度があがってしまい、応対する時間が長くなっているのだ。事実上拘束に近い。同僚達はこぞって行ってこいと言う始末である。
更に一番困った事が。
「さぁロナード」
階段では必ず手を差し伸べてくる。一段二段と下に降り、振り返って待つ。こちらが手を伸ばして応えるまでその場を動かないのだ。
「
……
私はもう大丈夫だと言っ、」
「いいえ、いいえ、ロナード。こうして触れてくれた貴方の手はまだ震えているのです」
事実だ。実際にまだ恐怖心が消えた訳ではない。
階段を上がる時こそ余裕は出てきたが、どうしても降りる時は足踏みをしてしまう。それをしっかりとこの男に見られているのだ。隠す事が出来ないとは俳優の名折れではと思うが、下手をすれば死んでいたのだから無理もない。
「どうか私に貴方をエスコートさせて下さい」
ロナード。と優しく名を呼ばれ諭されれば応えるしかない。委ねるように数段降り並べば、周りから守るように後ろから腰にも手を添える。さすがに恥ずかしくなり添えられた手を外そうと抵抗を試みた。
「私は女じゃない。さすがにこれはやめてくれ」
「?貴方を女性扱いした覚えはありませんが
…
」
なんとこの男、無自覚であった。
しかも抵抗の意思を示したはずなのに一向に離す気配がない。過保護を通り越してもはや執念ではないか。
勘違いしていた事も増してより恥ずかしくなり、耳が赤くなる感覚がする。悟られまいと願うが、そんな時に目敏いのがこの男だ。
頭の上からくつくつと笑い声が聞こえる。
「フフ。なるほど、未経験でしたか」
「変な言い方をするな」
ゆっくりと降りるために階段の先がまだまだ見えない。急いで降りようとすれば引き寄せられ、これではまるで拷問だとロナードは思う。
早く終われと焦りながら、今後は何とか階段の少ない場所へ行かねばと強く決意するのであった。
仮面の内側で静かに舌舐めずりをする男に気付かないまま。
(他の輩に殺されるのは私が許せないので、ね)
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