ひろっぷ
2021-02-15 21:13:39
1443文字
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たまには兄だって駄目になる

ほんのり髭膝。けれども兄弟愛で良し。



「兄者、朝だぞ。おはよう」

襖を開け、朝日を目一杯に浴びた部屋で、髭切は眩しさで目を開けた。日の光を背にした膝丸の凛とした挨拶でいくらか覚醒するのがいつもの朝。
のはずなのだ。普段なら。

………
「兄者?」
「うん起きるよ
「?」

弟の元気な声に、それ相応の返事をせねばならない。そう思っても腹から力が出ず、ようやっと絞り出した声と笑顔で誤魔化した。これは寝起きだから、と。自分を誤魔化す事も含めて。

………

「髭切、膝丸。お前達は今日畑当番だ。励めよ」
「承知した。行こうあに兄者?」
……うん。うん、行こうか」
…………

起床してから皆の前では普段通り言葉を交わせたように思う。髭切はこの不調の心当たりが分からないまま一日を始めようとしていた。
だがどうしても声に覇気がなく、体が重く感じて言うことをきかない。風邪などの怠さではない。とにかく何もかもが億劫だとひたすらその気持ちが巡っていた。

内番を無事に終えた二振が部屋に戻った後、膝丸がおず、と髭切の後ろから静かに尋ねた。

「兄者」
「うん?どうしたのかな」
「それは俺の台詞なのだが。今はいい。すぐ横になってくれ」
「?どうして」

己が身の状態を理解していないようだ。振り返った兄の顔は酷く疲れているように見えて、膝丸は早く兄を抱き寄せたいと思った。まるで幼子のようだ、と。

「今日は疲れているのだ、貴方は。内番もなんとか頑張ってくれたし、今からは好きにしても良いだろう」
「話が見えないよ弟、急にどう
「兄者」
………

未だ理解していない髭切を、諭すように説いていく。

「いい。とにかく、いい。とにかく明日は非番を貰ってきたから、何もしなくていい」
………。どうして分かっちゃうんだろうねぇ。……………

俯く髭切の顔はどんな表情か分からない。だが涙声なのはようやっと理解したからなのだろうか。もう一押しか、と膝丸はゆっくりと再び説いていく。

「俺は貴方の言われるままにしよう。俺も、何もすまい」
ずるいよ、そんなの」
「ふふ」

両手を広げれば倒れ込むようにもたれてくる。こんな兄を見られるのは弟の特権ではないだろうか。そんな多幸感に包まれながら。

「膝丸」
……あぁ」
「膝丸、膝枕して」
「いいぞ」

戸惑うことなく正座して髭切の頭を乗せる。いつもなら硬いだのなんだのと文句があるが、今回はそんな余裕もないほど髭切は参っていた。段々はっきりと自覚してきた髭切は益々声がしぼんでいく。

………。こんなにしんどい時ってあるんだね。初めてだ」
「皆の前では気丈であったのは立派だったぞ」
「馬鹿にしてないかい」
「滅相もない」
面倒くさいね、人の身体って」
「そうだな」
「でもお前と会えたんだから嫌いになれないよね

参っていた中での朝からの内番。それを終えた反動が今まさにやってきて眠気を感じ始める。うとうとしている兄の髪を梳きながら、膝丸は優しく見つめている。
言葉が途切れ、髭切のゆっくりとした息遣いを確認すると小さく息を吐き、開いた襖の先の桜を見つつ呟く。

………。そうとも、兄者髭切よ。人の身はこんなにも遣る瀬無い時もあるが、何百何千と時を離れた我らを会わせてくれたのも人なのだ。そんな貴方の本音を一片でも聞ける事が出来る。そう喜ばしく思う俺を許してくれ」


これは、ほんのひと時兄が参ってしまった話。