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ひろっぷ
2020-04-11 01:05:43
1178文字
Public
山の芋鰻になる※
※現パロ
*弟(碧)、兄(友鬼)
『世の中には山の芋が鰻になるような突拍子もない、思いがけないことが時として起こるというたとえ』
ミンミンと蝉が最後の力を振り絞り鳴く。
「兄者。今度は忘れ物をせぬようにだな
…
」
「うんうん。分かってるよ真面目丸」
「俺の名前は碧だ!」
下校途中の帰り道、日が傾き暑さが若干和らいだ下り坂を自転車で駆ける。この兄弟のいつもの光景であった。行きは弟の碧が前で漕ぎ、帰りは兄の友鬼が。
そしてそれは今日も同じで、帰宅すれば他愛無い会話を繰り返し一日を終えるのだ。
そのはずであった。
「弟、神社に寄らないかい」
「神社?何故?」
「いいからいいから」
こんな時の兄友鬼は気紛れで行動する事が多く、校内をよくふらふらとして行方をくらませたりしている。だから今回もなんら疑問を抱かなかったし、また兄の気紛れでなのだろうと拒否するつもりはなかった。
「暑いのだから長居はせんぞ」
「やった。行こう」
下り坂途中にある神社の入り口、側に停めた自転車が早く戻ってこいよと訴えている気がしたが、兄は気にせず小さな鳥居をくぐる。
行き帰り毎日のように眺めていた神社のはずだ。なのに何故だろう、碧は急に背筋が冷える感覚を覚えたのだ。周りを見ても日陰故の薄暗さのみで、相変わらず兄はこちらを振り向かず前を歩くだけ。
だが、その兄が振り向かないのが酷く嫌な予感を覚えた。
「あに、」
「なぁに」
「!?」
自分の前を確かに歩いていたはずの兄の声が、真後ろに聞こえた。悲鳴をあげるどころではない。何かがおかしかった。後ろを振り向く勇気がなく、次の言葉を中々絞り出せない。
「どうしたの弟。随分震えているけど」
「あに、じゃ。帰ろう。ここは、嫌だ」
兄の言葉に反応するように出た声は酷く震えていた。ここにいてはいけないと、ただそれだけが碧の中の感情を支配している。
ミンミン、と蝉の鳴き声が神社に響く中、焦燥と恐怖だけが碧を包んでいく。
「
…
まだ、早いのかなぁ」
ぼそりと呟かれた声にようやっと振り向けば、友鬼は顔を俯かせ表情は見えずにいた。
その声を聞き兄からの恐怖は和らいだが、碧はなおも今の友鬼がいつもの兄とは感じられない事に焦りが止まらなかった。
「
……………
」
「おや。ごめんよ。お前の言う通りだ。帰ろうか」
差し出された手から伝って友鬼の顔を見れば、それはもういつもの兄の優しい表情である。
強張った肩を緩め、碧は安堵の息をゆっくりと吐いた。
差し出された手を握り返し、今度は自分がと前に向かおうとした刹那。
「弟を、悲しませちゃ駄目だからね」
「?兄者?」
暑さのせいだろうと後の碧は思い続ける事になる。
握った手が柔い肌ではなく、何かを握り続けてきた猛者のような手になっていたのを。
(いつか知らない兄にでもなるのだろうか)
「
…
きっと、俺の悪い夢だ」
彼らのそばでは、耳に残るほど蝉が煩く鳴き続けていた。
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