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ひろっぷ
2019-05-20 09:34:05
1802文字
Public
主のなんとやら
創作審神者の昔の話を少し膝丸と喋る。
「主、今なんと言った?」
やばい。この焦燥感がまず浮かんだ。つい零してしまったたった一言。
『死のうとしたことがある』
顔面蒼白という表現が自分でも似合うだろうとそんないらぬ思案を巡らせていつつも、近侍の膝丸の顔は険しいまま。
「何処で」
「びょ、病院」
「何故」
「
……
っ」
矢継ぎ早な質問攻め。
「もう、言わないって」
だがそう言っても、膝丸が求めていた答えは違ったらしく、首を横に振りまた視線を審神者に寄越す。
「俺はそこへ結論づけたい訳ではない。何故と聞いたのだ」
「
…………
」
「主」
「
……
っ、
……
」
『死のうとしたことがあった』
その時を思い出し、服を握っていた手に力が入る。言葉を紡がねばと急く一方、はくはくと口を動かすだけで音が出てこない。
「
………
すまない」
「え?」
途端に切り出された謝罪の言葉。
膝丸を見ると襟を正して正座をしており、深々と頭を下げている。
ぎょっとした審神者が慌てて膝丸の肩を掴み起こす。先ほどとは打って変わって申し訳なさが滲み出た、苦虫を噛み潰したような表情だった。
「なんて顔してるんだ」
「君の
…
踏み入ってはいけない領域のようだった」
「あ
……
」
つい、触れていた手を離してしまった。
刀は、こんな事を言うだろうか。人は、これほど優しかっただろうか。どちらでもあり、どちらでもなく、彼等は神様でまだ産まれたてで。試行錯誤をして、こうして戸惑い、審神者に関わっている。
成長途中なのだ。彼も、自分も。石橋を叩いている最中で、お互いに顔色を伺っているような。
「今は全く思ってない、って前提で話をするけど、いいか」
「
……
いいのか」
「いいも何も。口を滑らせたのは俺だし、このまま無かった事にしたら後味が悪いだろ。大した事な
…
くはないけど聞いてくれるか」
「承知した」
緊張した面持ちが少なからず解れているようだ。それを見た後、審神者は呟くように自らを語っていく。
産まれてから今まで病院暮らしだったこと。謎の病のために医師からも嫌煙されていたこと。子供達と仲良くなっても退院していき長い友情は続かなかったこと。寝たきりで窓からの風景しか知らなかったこと。医師や看護師からのあたりも激しくなり、全く楽しくなかったこと。そして何より。
親が中々会いに来てくれなかったこと。
引き金はそこだった、と審神者は語る。多忙なのは承知だった。メールや電話も初めはそこそこやりとりをしていたが、段々となりを潜めていったという。誰にも頼れず、周りも冷たく、謎の病に蝕まれれば、次は心が折れるだけだった。
だから、最後の力だと思い、病室から一番近い階段まで身体を引きずって身を投げてやったのだと言った。
「
……………
」
「馬鹿だろ。その時に新人の研修医が助けてくれてな。何やってるんだって初めて俺に怒ってくれたんだ」
あの時真摯になって叱ってくれた研修医が、ここに来るまでの審神者の支えとなっていたのだという。未遂に終わった出来事からは、周りから腫れ物のように扱われたが構いはしなかった。ここに移ることになったと研修医に告げると、また真剣に受け止めてくれて送り出されたのだ。
「俺がここに来るまでの過程はほんとにこれぐらい。これしかないってぐらいだ」
「
……
そうか」
「うん」
「主よ」
「うん?」
「今は
…
幸せだろうか」
伺うように、困ったように審神者を見つめる。
「もちろんだ。帰りたくないよ」
「!」
迷うはずもなかった。
帰りたくないと思ったのは事実であり、もしこれが夢でも問題ないと思ったのだ。今が幸せならそれで。膝丸はその気持ちを汲み取ったようで、再び深々と頭を下げた。漢らしいその仕草に、審神者はいつも憧れの念を抱いているのは秘密だ。
「不躾な問いをして申し訳なかった、主よ。この無礼は武勲で拭おう」
「よしてくれ。ほら、お終いにしよう」
「うむ」
「皆待ってるしな。なぁお前ら!」
襖の向こう側から騒ぐ物音がする。溜息をついた膝丸が立ち上がり一喝し、更に騒がしさが増すといつもの本丸の賑やかさが舞い戻った。
「主、これは
…
」
「いいよ。いっそ知っててもらった方がいい」
「?それはどういう
……
」
「守ってくれるだろ?」
「勿論だ。だが無茶はしないでくれ」
「も〜小言が多い!」
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