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ひろっぷ
2019-03-10 13:26:08
2097文字
Public
Curiosity
富豪と剣術がお喋りしてるだけ。
朝の読書を済ませた富豪が広間に戻ると何やら騒がしい。問題が起こったのだろうかと顔を覗かせると、普段は見慣れないであろう異様なオーラの持ち主が魔女と対面している。
「邪魔しているぞ」
視線が合い、そう言って片手を上げた彼は、なんとも申し訳なさそうな顔をして城の客室に座っていた。
「ふむ
……
そのような変わった妖精は聞いていないが
…
」
「そうか」
スカアハは早々にその妖精の追跡のために席を外し、戻ってくる間は富豪が相手をする事になってしまった。
剣術の城のアーサー。彼が何故申し訳なさそうにこちらに訪ねてきていたのかは、このやりとりで明白だった。彼の領地の妖精が暴走し、行方を追っていくとここに辿り着いたのだという。
ウアサハが入れたカップを見つめた後、彼を見やれば思案中の模様。その行為、姿、近くで見れば見る程、王の中の王に1番近いと改めて感じさせられる。その視線に気づいたのか、思案をやめた彼が苦笑い。
「気になるか、私が」
「あぁ、いや
…
」
誤魔化そうとしたが、やはりアーサーとしては先輩の所があり逃げる事は出来ない。出来るが、興味が勝ってしまっている富豪にはその選択肢ははじめからなかったのだ。
「中々こうして話すことがないものでね。会った時は常に忙しかっただろう」
「はは。違いない。他のアーサー達もいればよかったがな」
ちなみに歌姫や傭兵などは私用のために城下町へ出かけている。盗賊は誰にも告げずに行方をくらますため誰も気には留めていないが、気づけば既に帰っていることが多い。信頼している、とは聞こえがいいがお互いにそう感じているからこそなのだろう。
「せっかくだ、よかったら呼び戻すが
…
」
「いや、構わない。結果が分かればすぐにでも発つつもりだしな。それに
…
」
どっしりとした落ち着いた笑みを携え、言葉が空気を震わせる。怒声などのただ大きな声ではない。遠くでも確実に聞こえるようなそれは、富豪の鳥肌を立たせるのに充分だった。
「そなたとは、このご時世の事
…
よく話せると思うがな」
「
…………
!」
手にしていたカップを鳴らす。ゾワゾワとした感覚が止まらない。
そうだ。ここへ来てからというもの1人で色んな情勢を思案するばかりで何も解決した事はなかった。スカアハなどに相談という手もあったが、彼女は彼女で主とする行動原理が富豪と違う。ウアサハも然り。故にただ1人で悶々とするだけがここ最近までの富豪だったのだ。
「さすが、といった所かな」
提示された美味しい条件。罠ではないと分かっているからか余計に抵抗もないのがまたタチが悪い。しかし否定するものでもない。
肯定を示すように、富豪は腕を組んだ。
「では、"他愛ない"話をするとしよう」
1時間、2時間が経ち、互いのティーカップの底が見え始めた頃。
調査結果という名の閉会の合図が富豪と剣術の元へ届けられた。話したい事は山ほどあったが、自分も彼も『王候補』という立場上無理を通すつもりもなかった。
ただ、惜しいという感情だけは消すことはできない。
「アーサー」
「!」
剣術の背後から覚えのない気配が姿を現した。富豪の隣で控えていたライゼルが雰囲気を変えたのを感じたが、それを剣術が手で制する。
「すまない。私の騎士だ。敵意はないよ」
「
………
そうか。こちらこそすまない」
彼の騎士の名はランスロットというらしい。騎士の中の騎士と噂される者が剣術の城のアーサーの隣に並んでいる。非の打ち所がないと素直に思った。いつかのようにまた敵として現れればどうなるのかと考えるが答えは出そうにない。
「して、そちらの騎士の名はなんと?」
「ライゼルだ」
「覚えておこう。いつか手合わせをしたいものだ」
「あ、あぁ
……
」
前言撤回か。騎士も似た者同士なようで戦馬鹿という欠点も同じなようだ。
「例の妖精はこちらの領地に戻っているようだ」
「結局骨折り損
……
いや、違うな」
「!」
「有意義な時間であった。願わくばまた、この時が訪れることを」
差し出された手を見つめる。よく見れば数多く戦って来た証の傷が多いことに気付く。自分はどうだろうか。おそらく彼には程遠いのだろう。ただ、遅かれ早かれという差なだけで『アーサー』という存在に違いはない。
「富豪?」
呼び名といえども名を呼ばれたことに少し感動を受け、噛みしめるように手を握り返した。
「寧ろ話し足りないさ。今度はこちらから出向いてみたいものだ」
「あぁ、歓迎する。待っているぞ!」
名残り惜しさは感じつつ、彼は振り返ることなく騎士と共に歩みを進めた。
結局姿が見えなくなるまで後ろ姿を見つめていた富豪がライゼルにぽつりと言葉を投げた。
「退屈ではなかったかね?」
「?何故?アーサーが楽しかったなら俺も楽しいしな」
「
……
君は本当に変わった騎士だな」
後日、帰還した歌姫や傭兵に根掘り葉堀り聞かれたものの、富豪は頑なに明かすことはなかったという。
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