ひろっぷ
2018-10-27 12:41:33
3685文字
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過ちの夢も2度はない

ライゼルと富豪の夢の話。
ライゼル(→)富豪ぐらいの気持ち。



夢を見ている。ここ最近、毎日のようにずっと。良い夢か悪い夢かと言われれば後者。寧ろ悪夢。ライゼルはただこの夢が早く終わるようにと、誰かが見ている景色を記憶していくしかなかった。
しかも何度も寝覚めの悪い夢ばかり。過去、自分が仕えていた主に命令された子供の輸送。今度は知らされないままではなく、明確な命令で。そしてそれを戸惑う事なく為してゆく自分。やめろ、とまれ、と叫ぶも所詮これは夢の中。こちらの意思は関係なく、次々と子供が放り込まれていく。
正気か。間違っている。前の主であろう彼に制止の声を掛けようと振り返り、見た顔は。

「どうした。続けたまえ」

富豪の顔だった。

これは夢だ。そうだ。早く。こんな夢は。何故。どうして!早く終われ。終われ終われ!

…………

薄暗い笑みを浮かべた彼を最後に、世界はそこで暗転する。




「ライゼル、顔色が悪いですよ。休憩されては」

アーサー達と訓練のために来ていたライゼルは何故か少し離れた木陰に座っていた。シルヴィアが気にかけたのは明らかに彼の顔に不調が現れていたから。目の下のクマ、いつもの艶やかさとは遠い乱れた髪、そして何より訓練中の動きであった。
ライゼル自身、誤魔化せるとは思っておらず、ただ苦笑いしてぽつりと一言告げるだけ。

「少しね。ここ最近夢見が悪いだけさ」
「夢見……?」

尋ねたつもりだったが、ライゼルはそれに気付かないふりをしてシルヴィアの横を通り過ぎる。ここで変に追求しても、のらりくらりと躱されるだけだろう。遠ざかる後ろ姿を見て、胸騒ぎがシルヴィアを襲っていた。


「ライゼル?あぁ、彼のことかね」
「えぇ。最近、彼と何か話されてなかったかと思いまして」

帰還してすぐ、シルヴィアが向かったのは富豪の元へ。ライゼルは何かと彼に共感する部分が多いらしく、よく行動を共にしていたからだ。しかし聞けば最近はシルヴィアが疑問を持った内容通り、富豪とは余り会話していないとのこと。そもそも全ての他者との交流を避けているように思うと富豪は述べた。

「無理強いして親睦を深めるつもりもなかったが……。君が心配するほどならば私からも気にかけてみよう」
「よろしくお願いします」


(思えば彼の様子がおかしくなったのはここ最近)

歩きながら富豪は思案していた。一言二言最低限の伝達こそすれ、他愛ない会話はここ最近ほぼしていない。シルヴィアから言われて改めて実感している。そして最低限である伝達の際、彼はこちらに視線を合わせようとはしなかった。普段は常に興味津々というようにこちらにばっちりと視線を交わしていたのにだ。
シルヴィアから聞いた夢見の悪さ故の寝不足、からの不調。騎士も食事をすれば睡眠も取る。ほぼ人間と同じ生活をしているというのだから、数日も寝不足になればいつかは限界がくる。その限界が近くなければいいが、と廊下の先を見ながら早足で通っていく。

しかし結局、その日はライゼルを見つけることは出来なかった。


外敵が襲来したと知らせを受けたのはそれから数日後。
それまでにライゼルと出会う機会は何度かあったものの、やはり視線を逸らされ会話もぎこちなく、体調も見るからに悪いようだ。さすがに前線には出せないだろうと下がるように指示をしても彼は頑なに首を振る。

「ライゼル、はっきり言って欲しいのかね?君は誰から見ても戦えそうにないのだよ」
「アーサー大丈夫、大丈夫だから」
………分かった。無理はしないでくれ」
「あぁ」

シルヴィアにそれとなく目配せをした富豪。シルヴィアも頷くだけに徹し傭兵の元へ視線を戻す。
金属の反響する音が聞こえだし、すでに戦いが始まっているのだと富豪は身震いした。彼だけを気にかけても仕方がない。今は前に集中するべきだ。剣を構え直した富豪は駆ける。ライゼルが少し離れた所から追っているのを確認し、前方で戦っている傭兵達に防御結界を貼ろうとカードを切った時だった。

「ちが………ち、がう」
「俺は君のために!!」

「!!いけない!アーサー!!」

シルヴィアの叫びが聞こえてすぐ、取り乱した声で向かってくる影があった。だが今の富豪は結界の制御もあり動くことができず、顔を向けるだけ。目を見張った。彼が武器を向けてくると誰が予想していただろうか。

「ライゼ、ぐっ……!?」

貫かれた腹が一気に熱くなる。抑えていた口からも血が吹き出て結界が一瞬で崩壊していく。異常を察した歌姫がすぐさま回復魔法をかけ始める。モニター越しのスカアハは混乱する戦場を収束させるべく撤退の支持。

(迂闊だ!彼をもっと気にかけておくべきだった!)

シルヴィアが内心舌打ちをしつつ、呆然と立ち竦むライゼルを引きずるようにして戦場を離脱する。ライゼルを見ると顔は真っ青だ。刺した瞬間に覚醒したのだろう。しかしおそらく会話出来る状態でないと結論づけたシルヴィアは、再び彼の腕を掴み走っていった。



ベッドで目を開けた先は白い天井。
右を見れば自身の私物が点々としていることから、富豪の部屋だと確認出来た。
いつの間に。と考え始めたが、つい先ほどの事のように記憶が蘇ってくる。

(あぁ、そういえば)

刺された、と考えるよりまず浮かんだのは彼の顔だ。刺された瞬間の彼の顔を富豪はどうしても忘れる事が出来なかった。何かを止めようとして、そしてそれが幻だと気付いて、それでも止められなかった己が力と、悔い、と色々がないまぜになった表情。
話をしなければと思った。とりあえず彼の声と富豪の声を交わしたいと。そしてそれはすぐそこまで機会が訪れていた。

「いるのだろうライゼル。入ってくれて構わない」

扉の向こう側でびくりとした気配を感じ苦笑いしたが、今の彼では仕方ないのだと静かに入ってくる彼を起き上がり出迎えた。



………………っ」

富豪の惨状を目の当たりにしたからか、ライゼルは更に身体を強張らせていた。自分がつけた傷で、向けた剣でのこの有様。何と声をかければいいか分からない。立ち竦んだまま負の感情がぐるぐると巡る。その状況を打破したのは富豪の口から出た言葉だった。

「何かを見たのかね」

庇うのでもなく、責めるのでもなく、富豪はそう尋ねた。

「待って、くれ……何故、君はそうじゃないだろ
「では欲しいのかね?罵倒が?君からの謝罪か?」
……………っ」
「少なくとも今の私は必要ない。寧ろ、今後の君を考えればここで聞かねばまた斬られかねないが」
「アーサー………
「聞かせてくれライゼル。君とまた今後も話をしたいからね」



「なるほど過去の」
「あぁ。最近毎日見るようになって、指示をしてくる前主の顔も君の顔で」

声に出して改めて思い出すのも手が震えていた。項垂れて手の甲を見ていると、ふと富豪の手が伸びてきた。思わず顔をあげると眉を下げた富豪の顔が見える。

「アーサー
「聞けて安心したよ。シルヴィアが聞いても答えなかったそうじゃないか」
迷惑をかけたくなかったから」
「だろうね。私も君ならばそうしている」

会話が増えていく。強張っていた身体は段々と緩まっていく。ライゼルは何年ぶりかのように笑っていた。

「不思議だ。目も合わせられなかったのに、夢の事を君に話したらもう何ともない」
「それはよかっ……おっと」

考えるより先に手が伸びた、とは彼の後日談。心の底からしたかったこと、言いたかったことがどっとライゼルの中から溢れて止まらなかった。

「本当にすまない。君を殺してしまうかと思った」
「こうして生きているさ」
「もっと強くなるよ。君を守れるくらいに」
「これ以上強くなられると私が耐えきれないんだが
「あと、あとだな」
「ラ、ライゼル!」
「!」

苦しそうな富豪の声に気付いてすぐさま手を離した。富豪はまだ病人だ。それを忘れて話してしまったのはライゼルらしくないと思ったが、重荷がなくなったというのは富豪にとっても喜ばしいことだった。

「すまない。まだ治ってなかったというのに
「構わないよ」
「じゃあ、俺はもう行くよ。また明日
……………
「?アーサー?どこか調子が悪いのか?」

こちらを見上げていた富豪が何かを閃いたようでベッドの横をトントンと叩く。座れということだろうかとライゼルは富豪の手と顔を交互に見て行動に困っていた。

「私も暇なんだ。君も話足りなそうだし、付き合ってくれないかね」

あぁなんて。過ちを犯したばかりだというのに許してくれるというのか、そばに置いてくれるのか。ライゼルは感謝の気持ちで溢れそうだった。
願わくば、彼だけは裏切らないように。そう決意してライゼルはベッドの縁にゆっくりと腰を下ろした。





後日、あれからライゼルは悪夢を見なくなったが、なんてことのない富豪との夢が増えてしまい、時々顔を赤くすることがあったのだとか。