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ひろっぷ
2017-12-06 20:41:08
4073文字
Public
無人の殻は撃ちぬけない
グリットさんと魔法使い(とウィジェッタ)があれこれ。
うつらうつらとふねを漕ぐ。今日はいい昼寝日和だ。仕事もなく外に用事もない君は部屋でゆったりとした時を過ごそうと決めていた。手近にあった本を捲ってははいるものの、意識はとうに遥か彼方へ。膝にウィズを乗せ、君はゆっくりと瞼を閉じていった。
しばらく、といっていいのかは定かではないが、君が瞼を開けると同時に聞こえたのは何かがガタゴトと動き続ける音。聞き覚えがあった。シェルからシェルへと移動するための列車。どうやらエニィ達の世界に君はまた来てしまったようだった。見渡してみるが馴染みの顔は近くにいない。
前回と変わっている事といえば、ドローンではなく人が疎らに座っていることと、景色がゆっくりと流れていること。いわばこれが普段通りなのだろう。今君がここから動いても構わなかったが、当分は次のシェルに着かないようで、仕方なく座り直して落ち着くことにした。
と同時に扉からため息と同時に入って来た人物が1人。ちらと覗き見るとその人物こそ見慣れた彼そのものだ。グリット。そう呼ぶと彼が数回瞬きして幻を見るかのようにこちらに近づいて来た。間近に見てようやっと確信したようで、喜びながら君の肩を力強く叩く。
「久しぶりだな!元気だったか」
それなりにね。再び座り向かいにグリットが座る。久しぶりの再会のおかげか話が尽きる事はなさそうだ。
エニィの放浪癖がおさまったものの、クランも加わったために買い物などで強請られる事が多くなっただとか、アライナとレリッシュの暴走ぶりにも拍車がかかり、ミスティハイドに至ってはグリットが胃の痛さや頭痛を発するとここぞとばかりに診たがるのだとか。ウィジェッタは変わらずスラムでデータを漁っているのだそうで、変わらぬ彼女だけがグリットの胃を和らげる唯一の存在なのだという。
「お前がいなくなってからしばらくはエニィが寂しがってな。また来るだろうと言ったら持ち直したみたいだが」
「単純なのかなんなのか、にゃ」
その言葉が引き金となったかは定かではないが、確かに今ここに来たのだからグリットの言った言葉は間違いではなくなった。
所でこの列車はどこに向かっているのか。急な風景で向かう先がてんで分からない君は尋ねた。
「あぁ、その任務先のシェルに行く所だ。ただ
…
」
そう言ってグリットは言い淀んだ。淀んだ、というよりは諦めた風に声が消えていくような。君はスラムより悪いのかと聞いてみたが、軽く首を横に振るだけだ。ではなんなのだろうか?
「俺たちが拠点にしてるシェルより整っている。整いすぎている。そう言やいいか」
整いすぎているシェル、と聞こえはいい。君からすれば治安が良いというのは喜ばしいことだ。だが君のその反応を見てもグリットの眉間のシワが消える様子はない。
そのグリットがこの列車に乗っている理由はこうだ。本社のいつもの雑用、もとい任務の内容が『目的のシェルの調査と隠蔽されているモノを洗いざらいにすること』。最初はグリットも上が動けば露呈するのではと講義もしたが、どうにも上も動けない案件らしく首が飛んでも問題ないと思われる人物を向かわせてみたいのだという。言葉こそ軽いがグリットからすれば自分の生活に関わるものだ。今のこの仕事がなくなるとビームという自身の命と同等の存在が身近ではなくなる。それがグリットの危惧するところだった。
「なんでもかんでも俺にふればいいってもんじゃないって何度言えば分かるんだあの頭でっかち供。おかげでこっちは何でも屋みたいなデータ探しまでさせられてな!」
まぁまぁ、と君は宥めつつも、元々ほぼ何でも屋なのでは、と思ったのは胸に秘めておこうと誓った。今ここで突っ込むと火に油を注ぐようなものだ。
列車のけたたましい金属の音が聞こえ、少し前のめりになってしまい何事かと見渡すがグリットはいつものことのように君を支えて席から立ち上がる。
「列車が止まったんだ。お前んとこじゃ珍しいか。行くぞ」
列車から一歩足を地に踏みしめれば、絨毯が敷かれ磨き抜かれたドローン達が1列に遥か彼方までずらりと並んでいく。ぎょっとする君とウィズだったがグリットはまたも当たり前のようにズカズカと歩き始めた。慌てて追いかける君が思わず絨毯に躓いて転びかけると、一機のドローンが君を支えに列を飛び出す。
『御無事デスカ』
グリット達がいたドローンともスラムの支離滅裂なドローンとも違う、流暢で聞き取りやすい言葉だった。まるで人間そのものだ。大丈夫、ありがとう。と動揺しながらもドローンを見た。いいえどういたしまして。そうドローンの顔から伝わるようだ。
「魔法使い」
空気が切り裂かれる感覚の君を呼ぶ声にはっとして先のグリットを見ると、彼は無表情で君を見ていた。ドローンが離れると、今度はグリットが君を庇うように横を歩く。
「これで分かっただろう」
言葉で言われなくとも先程の言動全てが君を悟らせるのに充分だった。ウィズも猫になったからこその勘というものが働いたのか、あれから毛を逆立てている。
本来人に備わるべき善の部分、それがこのシェルではドローンという無機物に備わっている。
そしてそもそも。
「人間が住んでいないにゃ」
「そうだ。それがおかしいということで俺が派遣された訳なんだがな」
人が存在していないシェル。誰が管理していて誰が支持を出しているのか。そしてその犯人はこの捜査を快く思っていないはずなのだからグリット1人だけでは危険なのではないだろうか。
もちろん君も協力するつもりだったがレリッシュやアライナは連れてくることはできなかったのか。
ドローンの列が途切れることはなく、その間を早足で歩きつつグリットはげんなりとして答えていく。
「1つ、主犯は本部上層の可能性があること。2つ、その上層部の可能性があるからこそクラックハンド隊のメンバーを動かすことが出来ないこと。まぁ予想の範囲内だったがな。
…
なんだお前その顔。怒ってるのか」
当たり前だよ。と君は湯気が出るぐらいに怒っていた。もしその通りなのだとしたらグリットを消す名目としか思えないからだ。そして元々、もしかするとこのシェル自体存在こそしていないもので、上層部の邪魔になる存在を消すための施設なのだとしたら。
「いや、まぁお前さんがいるなら生きて帰れるだろ。怪我をしない保証はないがな!」
大きく笑うグリットには、いつのまにやら眉間の皺は消えていた。怒ってたんだけどな、と君もグリットの笑い声に緊張が解れたようだ。話しているうちにドローンの列は途切れていたが、途切れた途端に四方八方からまた新たなドローンが矢継ぎ早に攻めてくる。それでも君とグリットは目的地まで歩くことをやめてはならなかった。
『ご用件をお伺いします』
「支部への方角は合ってるか」
『お車をご用意いたします』
「いらん。街を見るから歩く」
『休憩にはこちらを』
「結構だ」
『ご用件は』『ご用件』『何故』
「だあああ!!や、か、ま、し、い!!!」
振り切るように走り出した。
一機たりとも追いかける素ぶりは見せないが、いったいこのシェルにどれだけのドローンがいるのかと言わんばかりで、走る前方から次々と湧いて出てくる。支部へはあと少し、ドローンが前へ、避ける隙も惜しいとばかりに飛び越える。武力衝突は極力避けねばならない。
「止まるなよ!魔法使い!」
グリットこそ!とドローンを飛び越えながら走る。支部らしき扉が見えてきた。本部の扉と瓜二つ、君も見覚えのある扉が近づいてくる。グリットが一足早く扉に接触していく。
「クラックハンド隊だ!本部からの要請で指しおさ
………
は?」
追いついた君がグリットの後ろから覗き見たのは1人の少女。またも見覚えのある容姿に君が驚いて固まっていると少女も驚いて君たちに近づいてくる。少女の後ろを見ればハッキングされたのだろう、画面が無茶苦茶になっており真っ赤な色のモニターがずらりと並んでいた。
「なにアンタ達。こんなとこに」
「
…………………
お
…
」
「お?」
わなわなと震えるグリットの様子に少女は狼狽える様子はない。次なる彼の叫びを察した君は近すぎる距離で耳を塞いだ。
「俺の台詞だウィジェッタァァァァァア!!」
「ごめんって。あたしはなんかほら、ちょちょいっとやれば動けるから」
悪気は全くないようで、ウィジェッタは頭をかきながらこちらに謝っていた。聞けばグリットの本部からの要請はグリット単独の予定だったらしく、データを流し見していたウィジェッタはそれを訝しみ、独断で動くことにしたのだとか。レリッシュやアライナ達が知らないことを見て危険だと感じたのだろう。サポートのウィジェッタが動いた方が何かと勝手がきくのだ。そして支部へすんなりと潜入し、ハッキング、本来の上層部へとデータが流れこんだ。というのが事の流れだという。
腕組みしてまた眉間に皺が戻っていたグリットは諦めたようにうなだれつつ、入ってきていた扉へ向きを変える。
「あれ。帰っちゃうの?」
残念そうに彼の背中を見るウィジェッタに、彼は顔だけ振り返りニヤリと笑って返した。
「帰るってお前。もう終わったんだろ?」
聞いたウィジェッタもニヤリと笑って返す。そんな2人のやりとりを間で前後と首を動かして忙しい君を彼と少女は見て大笑いした。いつのまにそんな事が、こちらはただ忙しいのに!と怒るが余り効果はない。盛大に笑いあった後、疲れたように髪をかき乱したグリットはまた扉にゆっくりと歩いていく。今度は君とウィジェッタが追いつくぐらいの速さで。
「いい店ありそうだな。奢ってやるぞ」
「マジ!?どこにしよっかな〜」
「魚料理がいいにゃ!」
怒涛の勢いで、小さいようで大きな事件は幕を閉じた。
クエス=アリアスに帰る予兆のない今、グリットの計らいに喜んで乗るのだった。
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