ひろっぷ
2017-06-17 19:25:28
1821文字
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だから君は1人になれない

現パロ。ラギトさんと魔法使い。




朝目が覚めると家族が2人いなくなった。テレビのニュースで炎上する車、見覚えのある車種。死亡と表示された横に出た名前。ミルクの入ったコップが床に叩きつけられる。両親の名前だった。ずっとテレビを立ち尽くして見つめる君。そのテロップが流れるや否や、鳴り響く電話。

なんてことのない、いつもの朝が始まるはずだった。

(珍しい。今日はあいつが来ないとは)

いつもの朝、いつもの場所から、いつもの歩幅を学校まで歩く。ラギトはいつも彼とそうしていた。昔馴染みだから、いつも一緒だから。周りにそうからかわれてもなんてことはない。だから今日、彼が来ない"いつも"がないのは自身にとって不自然なのだ。
だから教室で他の友人と話をしつつも、どうしても彼の空いた机が気になって授業に集中出来なかった。
その理由が分かったのも、集中出来ない授業が全て終わってからである。

「ご両親が?」

教師から彼にと届け物を受け取りつつ零されたその事実に、ラギト自身も信じられないと顔が強張った。
だから今日。と納得はしたが1番は彼自身のこと。今回ばかりはいつもと違って家族がいなくなってしまったのだ。行方不明でも殺されたのでもない完全なる事故。誰にも怒りをぶつけられず、内に溜まってゆく理不尽。平常でいられるとは思えない。
一通り考えを巡らせた後、渡された届け物を抱え彼の家へ走った。



一通りの用事を済ませ、静まった部屋をぼうと見つめる。関係はそれほど悪くなかった。ただ仲が良いというのでもなくそれなりの距離を保って良好だったはずだった。何がいけなかったのか。何が神の気に触れたのか。ぐるぐると違った方向へ考えが巡る。

「元気か」

途端に響いた声。
見ると傍にはラギトが少し息を切らせて立っている。どうしたの、と呟くと同時に抱きしめられた。ぼうとした頭ではあぁ抱きしめられているということしか理解できず、ただただ暖かいことは覚えている。

「辛かったな」

そして、こう付け加えた。

「あんたはまだ、1人じゃない」

はっとする。両親の死という衝撃で周りが見えていなかった君はその一言で世界に色が戻ったように感じた。白黒になってしまっていた目の前が鮮やかになっていく。そしてじわりじわりと滲んでいく目の前。溢れる涙には悲しみも嬉しさも何もかもを混じらせて。一粒、二粒。
堪えようと千切れんばかりに握りしめる袖が悲鳴をあげるようだ。しかしラギトはそんな事を気にもとめず、ただ抱きしめ続けた。声をあげるでもなく静かに涙を零す君を、彼はずっと慰め続ける。

「あんたはいいや、俺もか。今までこうやって泣いたりした事はなかったな。それがようやっと今だったということだ。悔しいな。悲しいな」

ますます皺になる彼の服。君は涙こそ止まったが、力むことは止められなかった。それに応えるように彼の手が君の頭を撫でる。
まるで赤子をあやすように撫でるものだから、君は思わずやめてくれと呟いた。それでやめるラギトではないことも承知の上で。

「俺もずっと1人みたいなものだ。だがあんたといて1人きりと思ったことは1度もない。あんたはどうだ。今、"ひとり"か?」

即答するように違うよ、と首を横に振った。
昔から何があってもラギトが隣に立っていた。喧嘩をしても、誰かにいじめられても、必ず離れることはなかった。それは友達、昔馴染みのせいもあったのだろう。けれど言葉にできない何かが君たちの間にはあった。
それを聞いたラギトは君の肩を優しく叩く。分かっていたような、そんな素振りで。

「どこか部屋が空いているだろ?居候という形でも構わないから俺も一緒に住むよ」

さも当然と言わんばかりにラギトはスタスタと君の自宅の捜索を始める。あぁ待って、勝手に。君は見られてはならない物があると焦って彼を追いかける。

その顔にはもう不安の色はなかった。




いつもの朝、いつもの朝御飯、いつもの支度を済ませ、君は彼が待っている玄関へ向かう。

「忘れ物はないか?」

大丈夫だよ、心配性だなぁ。と一言余計にぶつけると肩を小突かれた。
靴を履いて扉を開けつつ、ふと思ったことを振り返らずに彼に伝えてみたくなった。
ありがとう、と。

…………お互い様さ、そんなの」

振り返らずに聞いたそれは、ひどくとても優しかった。