ひろっぷ
2017-02-23 22:22:34
2486文字
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雨、時々、〈夢魔装〉と、魔法使い

雨宿りして色んなメアレスに会うよ。そんなお話。



ザアザア。

「止まないな」

ザアザア。
うん。
ザアザア。
ロクス・ソルスでの戦いに慣れてきた頃、君と〈夢魔装〉ラギトは依頼の帰りに立ち往生していた。ポツリポツリと小さく細かく降り出した雨はやがて太く大きくなり、傘のない状態ではどうしようもなく本格的に降り出してしまったために、近くの屋根のある建物へと避難したのである。
君はコートがあったためほとんど濡れていない。しかしラギトは水分をよく含むジャケットを羽織っているのでかなり濡れてしまったようだ。
大丈夫?
隣にそう尋ねれば雨を見上げていた彼がこちらを向く。

「なに、濡れたぐらいだ。大した事はない」

そう返してくれたが、やはりこちらとしてはその重そうな上着が気になってしまう。ポタポタと雫が溢れる様を見ていると、その視線の先に彼の手が伸びてきた。すると一思いにというぐらいに上着の端を絞り始める。ぎょっとして止めようと腕を伸ばすと彼はきょとんとして君を見た。

「どうした、何か付いていたか」

そうじゃなくて。返事をしながらも上着を絞る手を止めないラギトに君は呆れた溜息を吐いた。明らかに高そうな服を彼は戸惑うことなく握りしめ絞ったのだ。今まさに現在進行形だが、おそらくは君が止めた所でやめはしない。だから呆れたのだ。溜息を吐くほどに。
縮んじゃうよ、やら、伸びちゃうよ、など言いたい事はたくさんあったが、とりあえずは一言もったいない、と雨の中に零してみた。ラギトはまた頭の上に疑問符を浮かべているようで。

「貰い物だからな。もうずいぶん着ているから今更さ」

あぁ、そうですか。確かに他人の物にどうこういう資格など誰にもないのだろう。君はその話を終いにするかのようにもう一度ため息を吐いた。
ザアザアと相変わらず降り続ける雨にげんなりしつつ、たわいない会話を繰り返していると1人の少女が荷物を掲げながら走っている。コピシュだ。名を呼ぶとすぐに気づいて同じ屋根の下に入ってきた。彼女も傘を持っていなかったらしい。

「こんにちは。お2人は雨宿りですか?」
「あぁそんなところだ。買い物か?」

ガサガサと紙袋独特の音を立てた中身はパンだった。父親のお使いか、はたまた〈黄昏〉からのお使いか。

「はい。私も買いたいものがあって、お父さんからも頼まれまして」
「ほう。良い香りがすると思った」

偉いね、と君が伝えると彼女は少しはにかんで照れた。すると思い出したようにはっとして彼女は紙袋を漁りだす。中から取り出されたのは1つのパン。ずいと差し出されたそれに反応しきれず、君たち2人は顔を見合わせた。

「俺たちにか?」
「はい!」
「いいのか。ゼラードから頼まれたのだろう」
「余分に買ったんです。1個しかお渡し出来ませんけど魔法使いさんと半分に」

ずいずいと差し出されるパン。ラギトは擦りそうになる鼻を上に向けて首が逸れている。キミは思わず吹き出して差し出されていたパンを横から受け取った。ありがとう、と伝えると彼女は笑顔で応える。
少し小降りになった雨を見上げたキミは、今ならそんなに濡れずに帰れると思うよ、とコピシュを促した。早めに帰してあげなければあの父親は探しに出てくるだろうからだ。

「そうですね。じゃあお先に失礼します!」

小降りになったのを見計らってコピシュは通りを走っていく。パンの入った小袋は濡れるだろうが帰る頃までは大丈夫だろう。姿が見えなくなるまで、君と魔法使いはコピシュの後ろ姿を見つめていたのだった。

ザアザア。
再び降り始めた雨にげんなりしていると、また見慣れた姿が優雅に歩いて来ていた。こちらに気付いたのだろう、少し歩く速度を速めているのが分かる。

「あら。足止めってとこかしら?」
「まぁな。さっきの小ぶりな時に出ればよかったが」
「そうねぇ。でも雨って気まぐれだから、ここで止まってても仕方ないかもね?」

確かにそうだ。降ったりやんだりするような1日ではいつまでたってもここから出られない。君とラギトは見合って少し考えたが、同じ考えのようで2人で首を横に数回振った。同じ反応を示した2人を見たルリアゲハが目を点にする。それと同時にぷっと吹き出して笑い出した。

「アンタ達、本当にお似合いの2人ね」
「?どういう事だ」
「そのままよ」

傘を持ち直したルリアゲハは君たち2人にウインクを飛ばしてゆっくりと街中へ消えて行った。
ザアザアとまた激しさを増した雨が、彼女の行く先を知らせまいとしているかのようだった。


「なんだお前達、こんな所で雨宿りか?」

慌ただしそうに走っていた見慣れた赤い髪が急停止する。息を切らしているところを見るに相当走っているようだった。

「〈魔輪匠〉。慌てていたがどうした?」
「あの妖精から撒けたところだ。全く隙あれば何かしようとする!」

彼はリピュアという妖精の良い遊び相手として認識されているのだろう。突っ込みもさることながら、なんだかんだと面倒を見ている〈魔輪匠〉レッジもレッジだが。

「!すまん、俺はもう行かせてもらう。またな!」
「あぁ。気をつけてな」

何かを感じたのか、レッジは早々とルリアゲハが消えた方向と同じ方へ走っていった。直後、リピュアがレッジよりも早い速度で飛んで行くのが見え、2人で手を合わせ合掌する。おそらくは時間の問題で雄叫びが聞こえることだろう。

立て続けに他のメアレス達に出会い一言二言交わす怒涛の流れに、君はラギトにいつもこんな感じなのかと尋ねた。

「いや、普段はそんなに会わない。あんたがまたここに来てから、皆に会う頻度も増えた気がするな」

一拍おいて、再びラギトが口を開く。
遠くを見て、嬉しそうな顔を添えて。

「まぁ、こういうのも悪くないさ」

沈黙が長く続いた後、口を開いたのはラギトだった。君もなんとなく感じているこの雰囲気が心地よく、うん、と一言返事を返すだけ。お互いに目の前の振り続ける雨を見つめたまま、再び淡々と世間話を続けるのだった。