ひろっぷ
2017-01-02 22:28:00
2354文字
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誰かを幸せにできれば、自分も幸せになれるのですから。

ヒビキと魔法使いがやっとエンダァする話。ちょっと長い。前の小話とほんのりリンク。※奥さん設定あります



「なぁ魔法使い。今から俺の奥さんの墓へ行こう」
心臓が忙しなく動く。分かっていた。未だ帰れない以上、遅かれ早かれ誰かの過去に触れる事は。それが特に彼に至っては触れたくない話だった。あの一件からどことなく距離をとってしまっている君と彼。
せめてこれ以上拗れませんように。半ば投げやりに泣きそうになりながらも断りきれない君は、待っている彼の元にゆっくり重い足取りで向かうのだった。

「あの時は悪かったな」
小さくだが確かに聞こえた言葉。草をかき分け彼の住んでいる村へ向かう中、呟かれたその言葉。聞こえた自分が恨めしい。ううん、大丈夫。とそう答えるしかないからだ。どうしてあんな事したの、とかもうあんな事しないでくれ、とも言えない。好きなのだから。
それからしばらく無言の後、たどり着いた彼の村はとても綺麗だった。澄んだ水の川が流れ、畑に植えられている野菜は水々しい。道理で逞しい体つきになる訳だ、とちらりと彼を伺うと。
「ん、どうした?」
彼もこちらを見ていたらしい。完全に目が合ってしまい思わず目を逸らしてしまう。
……
寂しそうな雰囲気が感じられる視線がとても痛い。しかし合わせられる顔ではないために君は話を切り替える。お墓、どこにあるの。
あぁ、こっちだ。付いてきてくれ」
向けられた背中にほっとしながら、しかし合わない目線に寂しさを感じつつ君は付いていく。
「ここだ。俺の奥さんの墓。綺麗だろ」
本当に綺麗だった。作ったの、と問えばそうだと答える。どれぐらいかかったのか想像もつかないが、きっと念入りに長い年月を経て作ったのが見てとれた。クエス=アリアスにあっても不思議ではない石碑のよう。
ふと彼が何かを思いついたように来た道に向き直る。
「悪い、すぐ戻ってくるからここで待っててくれ!」
焦るように走っていく彼に内容を聞く事が出来ず立ち尽くしてしまう。だが突っ立ってても仕方ないので墓に向き直って拝むことにする。静かになった周りの音を聞き、思うことがふと頭の中をよぎる。
ごめんなさい。自分はやっぱり彼の事が忘れられない。忘れたくない。
(いけないことなの?)
違う。けど。
(だったらいいの)
でも、あの人には。
そこでふと我に返って目を開ける。誰もいないはずの墓の前に人の形をした淡い光があった。まさか。
(仲良くしてくれているみたいで安心しました)
光だけでも分かる穏やかな女性のようだ。おそらくは彼の妻。精霊の加護も多いこの魔法の世界ではこんな光景も当たり前なのかもしれない。『妻』という現実味を帯びた存在が、君の心をまた痛めさせる。かと思っていたが。ふわりと光が君の手に伸びた。暖かい光だ。
(私はもういないの)
額にも暖かい感触。彼女の額だろうか。
(彼は私がいなくなってから今まで1人だった。そこに貴方が来てくれたの。嬉しそうに私に話してくれたわ)
君は僅かに手が震えている。聞きたくない気持ちと聞いていたい気持ちがせめぎ合って不安定な感情だった。
(でもね)
合わさられた額と手の光。またも目を合わせられない君は目を瞑って次の言葉を覚悟した。
(彼、貴方の事が諦められないって。好きになったって言ってた)
震えていた手のひらが止まる。分かってはいた。彼の口からもきちんと聞いたのだ。
(彼の事、貴方はどう思う?)
どう、って。
(嫌い?)
違う。
(好き?)
うん。
(でも言えないのは?)
貴方がいるから。
(そう)
頬が包まれていく。
(そんな泣きそうな顔をしないで頂戴。いい?私はもういないの。今、こうやって話をしているのは貴方にたくさんの精霊の加護があって彼らに力を貸してもらったの)
だからね、と付け加えて彼女は語る。緊張して力んでいた肩が段々と落ち着いていくようだ。あぁ、貰いたかった言葉がこれなのだろうか。敵わない、叶わないと思っていた大きな存在が、今目の前にして君に答えを突き付けている。
(彼に応えてあげて。今の彼にはきっと貴方が必要だから)
涙が溢れて止まらなかった。崩れ落ちる体。嬉しさと悲しさが混じった気持ちが押し寄せどうすればいいか分からなかった。彼といてもいいのだと、彼女に後押ししてもらった申し訳なさも感じながら。淡い光が君のその姿を惜しみながら消えていく。
(私はもういないけど、どうか忘れないで)
空に散る光を見上げながらありがとうと涙声ながらに呟くと、彼女が微笑んだように感じた。つられて君も笑う。
「おーい、待たせ……ってどうした!?何かあったのか!?」
またも走って戻って来た彼が息も絶え絶えな中駆け寄ってくる。泣いていた君の顔が見えたからか酷く顔が青いようだ。
なんでもないよ、と誤魔化すつもりのない言い訳をして必死に目を擦る。オロオロとしているこんな彼を、彼女も見て来ていたのだろうか。少しだけ羨ましく思いながら、しかし今までの不安は全く感じなくなった事に嬉しさがこみ上げる。
「誰か来たのか!?なぁ、なんで泣いて
ヒビキ、と名前を呼べば普段君に呼ばれ慣れていないのだろう、石になったかのように固まった。信じられないという目をこちらに向けながら。今度はそんな視線にも負けないように見つめ返し、君は聞こえるようにはっきりと彼に気持ちを答えるのだ。
一緒に、これからもいていいかな。
君なりの彼に対するイエスの答え。これで彼が鈍いのならばそれまでだ。可能性がないとは言い切れない。だが彼も君を好いている事が事実、答えを聞いた彼は周りに花が散るような満面の笑みを浮かべ君を抱きしめる。今度は、君もしかと受け止めた。前とは比べられない暖かさだった。

「ありがとう!ありがとう!あぁ、あんたにつられて俺も泣きそうだ!」