荒木 篠
2015-04-09 20:16:52
3025文字
Public
 

世界の終わりと2人の始まり



【カタストロフィ】

このシェルターに来て、いったいどれ程の日数が経ったのだろう
エレンは朦朧とする意識の中、あの日起こった事を反芻する。


エレンはギムナジウムの行事の一つである校外学習でローゼにある地下のシェルター見学に来ていた。
シェルターは現在使われておらず、週に1度の点検の際に見学をさせてもらえる事になった。

見学は各グループごとに行い、自分達でアポを取り訪ねる。
アルミン、ジャン、コニー、マルコ、そしてエレンの五人のグループは午前中に美術館と博物館の見学を終え、お昼を食べた後、このシェルターを案内してくれたローゼ市職員のイアンさんへの質問を終え、地上に戻るべくエスカレーターに向かった時に事が起こったのだった。

突如鳴り出したけたたましいサイレン。
思わず足を止めた一行はイアンさんの指示のもと、管制室に向かう。
シェルター内を隈なく映すモニターとシェルター付近の地上の映像を確認し、さらに色々な数値を表しているモニターを睨み付けていたイアンさんがサイレンを止め、ふと表情を和らげた。
「どうやら誤報のようだ。こんな事初めてだよすまなかったね。さぁ地上に案内しよう。」

再びエスカレーターに向かうべく入り組んだ廊下を進み、先程下りて来た細い階段を登る。
イアンさんを先頭に1列になり進む一行の最後尾にいたエレンは突然頭の中に響いた声に足を止めた。
『戻れ‼︎ 』
何処か切羽詰まった声に思わず後ろを振り向く。
誰もいないでも声は背後から聞こえた気がしたのに。
その時再びサイレンが響き始め、頭上からアルミンの呼び声が聞こえた。
「エレン!何してるの⁈ 早く‼︎ 」
どうやら長い事立ち止まっていたらしく皆の姿はない。エレンは慌てて階段を駆け上がる。
階上に近づくにつれ、頭上でガラガラと音がした。
階段とエスカレーターの間のシャッターが下りようとしていた。
ギリギリ間に合う!
そう確認して一歩を踏み出そうとした時、またあの声がエレンの意識を背後に向けた。
『行くな‼︎ 戻れ‼︎ 』
あっと声に出す前に足は階段を踏み外し、エレンの身体は階下に落ちていった。


痛っ!
壁に手をつき立ち上がるも足に鋭い痛みが走る。
どうやら落ちた時に捻ったらしい。
エレンは小さく息を吐き頭上を見つめた。
恐らくシャッターは下りてしまっているだろう。
鳴り響いていたサイレンも止んでいて辺りは静寂に包まれている。
エレンの息遣いだけが狭い階段に響き、不安を助長させた。
足を庇いながらゆっくり階段を上がり、案の定下りていたシャッター叩き声を上げた。
「イアンさん!アルミン!ジャン!コニー!マルコ!」
いくら待っても何の応答もないそこに耳を充て様子を窺う。
聞こえるのは自分の荒い息遣いだけ。
皆がオレを置き去りにする筈はないそれは確信している。
きっと何かあったんだ
大丈夫、今すぐじゃなくても、きっと助けは来る。
エレンは足を庇いながら階段を下り、先程行った管制室に向かった。
あそこに行けば、シェルター周辺の映像が見られる。
だが、行けども行けども管制室は見つからずエレンは途方に暮れた。
実は管制室に行くための幾つかの通路にはシャッターが下り、辿り着く事は不可能になっていたのだ。
捻った足は勿論の事、落ちた時に打ち付けた腰もズキズキと痛む。
何処か休める場所は
エレンは通路を進みながら、幾つもの部屋の前に立ちその都度ドアが開くか確かめていくが、どの部屋にも鍵がかかっていて開かない。
これで最後。一番奥の部屋のドアのぶを回すと難なく開いてくれた。
やった‼︎
中に入り電気のスイッチを押すが明かりはつかなかった。
停電かな
薄暗い部屋を見回す。
そこはダンボールが幾つか積まれた倉庫のようだった。
怠い身体を横たえたい。
だが床にじかに寝るのは躊躇われた。
毛布か何か床に敷ける物があれば
エレンはダンボールを漁るが入っているのは書類ばかり。
薄暗い部屋を再度見回すと、ダンボールと壁の隙間に折りたたまれた状態で立て掛けられたダンボールがあった。
全部で3つ、それも新品だ。
エレンはさっそくダンボールを床に敷くと、身体を横たえた。
どのぐらいで助けが来るだろうか見当もつかない
それにしても、怠い今は休もう。
重たい瞼を閉じ意識を闇に沈めたエレンは、いつの間にか入って来たドアが自動で閉まり、ドアの内部にある電子制御された鍵が締められた事に気が付かなかった。



この部屋に閉じ込められた。
エレンがそれに気が付いたのは、翌日の事だった。
喉の渇きと空腹に食料を探しに行こうとドアに手をかけるも開く事はなかった。
ドアの何処にも鍵は付いていない。
なのに開かないなんて
エレンはようやく自分の置かれた状況に危機感を感じた。
ヒヤリとした汗が背を流れる。
昨日確認したが、このシェルター内で携帯電話は圏外になっていて使用出来なかった。
何とか外部と連絡出来ないかといじっていたらあっという間に充電がなくなってしまった。
もうエレンの出来る事はない。
静かに助けを待つだけしか

いったい何が起こったのだろうか。
エレンは昨日まで一緒にいた友人達の顔を思い浮かべ、あいつらは大丈夫なのかと心配になった。
アルミンは小さな頃から一緒にいる幼馴染。昔から飛び抜けて頭が良くてコイツは絶対αだろうと思ってたらβだった。
ジャン、コニー、マルコもβ。
もう一人の幼馴染で、女子のミカサはαだったが、男友達の中でΩはエレンだけ。
オレの第二次性を知ってもあいつらは変わらなかったな
第二次性検査でΩとわかった後、これからΩとしてヒートを迎えフェロモンを撒き散らす存在になる。
だから敢えて皆に知らせた。
そうなった時に対処するため、してもらうために。
一番最初に話をした時あいつらは嫌悪感を表すでもなく普通に具合が悪くなった奴を介抱する感覚でいるようだった。
学校だったら保健室に、外だったらどうしようかと真剣に話し合ってくれていた。
エレンは泣きそうになるのをグっと耐え俯く。
隣にいたアルミンが、ポンポンと背中を叩いて、ほら大丈夫でしょ?とコソッとつぶやいた。
うん、みんなイイやつらだ。
結局エレンにヒートは訪れず今に至るが、エレンが安心して学校生活を送れたのはあいつらが側にいてくれたから。
Ωを嫌悪していたのは誰でもない自分自身だ。
いくら良い抑制剤があるといっても、ヒートを止める事は出来ない。
3ヶ月に1度起こるそれに翻弄され続けるのだ。
そして場合によっては男の身で妊娠出産する事になる。
未知の出来事に対する恐れ。
そして番の存在。
何もかもがエレンにとって恐ろしく感じた。
だけどこうして孤独でいると、αとΩの番の繋がりの強さに縋りたくなる。
もし自分に番がいたら、心配して探しに来てくれたのではないか
1人きりにはしないでいつも守ってくれたのではないかと。
何て自分勝手な奴なんだ、オレは。
ふっ、と笑ったつもりが実際ピクリとも表情は動かなかった。
もう何日も水も食べ物も口にしていない。
口はカラカラに渇き切り空腹過ぎて気持ち悪い。
眩暈を感じたエレンはゆっくり瞼を閉じた。
身動き一つ出来ない自分に、もうダメかもしれないと思いながら