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2018-03-30 01:59:59
6493文字
Public fkmt
 

【fkmt】アカギとカイジ|呪泉郷パロSS

昔書いた呪泉郷パロだけど呪泉郷は出てこない(not女体化)
非CPですが微腐です。

ついてねぇ。
なけなしの金を飲み込んだパチンコ台を前に、カイジは今日何度目かわからぬ溜息を漏らす。
明らかに出ない台だとわかっていながら、ただ漫然とそこに座っていたのは、二つ隣の台から、ひっきりなしに大当たりの音が聞こえてきたからだ。
その台の前には驚いたことに、顔つきは若い風貌のくせに、真っ白な髪の男が座っていて、燻るパチンカーたちの中、異様な空気を纏っている。
ーーイカサマでもしてんのか?
それともサクラかと疑りたくなるほどの出玉の量。だが店員達も、表向きはドル箱の上げ下げ、その実、不正の監視をするように男の手元を伺っているのでそれは無い。
重ねられるドル箱が、カイジの目を惹く。
金も持ち玉も無くなったカイジだったが、何故か席を立つ気にはなれなかった。ちらちらと白髪の男を横目にしては、増えていくドル箱と空っ穴な自分との差に居た堪れない気持ちになったが、足だけはどうしても、床に貼り付いたようだった。

「一つやろうか?」
不意に掛けられた言葉にはっとしたカイジは、目を見開いてキョロキョロと周囲を見渡した。誰に言っているのか、そもそも誰の声なのかわからず、眉を寄せて首を戻すと、白髪の男が真っ直ぐカイジに視線を向けて笑っていた。
「あんただよ、傷のにいさん」
そう言うと男は、背後に積まれたドル箱を指した。今度こそしっかりと自身に向けられた言葉に、カイジは思わず言葉を失った。
確かに盗み見はしていたが、気取られる程に物欲しそうに見ていただろうか。
突如湧き出した羞恥心にカイジはカッと頬を染めると、視界の端に入るドル箱に「欲しい」と口走りそうになる唇を強く指で擦り、「いらねぇ」とぶっきらぼうに返す。
貰っておけばいいのに、そんな欲深い声が自分の中から聞こえてくる。それでも見知らぬ若い男から施しを受けるのは、なんとなく嫌だった。もう少し寝汚く生きているような、自分に似た他の連中からなら、カイジも二つ返事で貰っていたかもしれない。だがこの男の誘いからは、直感的に手出ししてはいけないものに手を出すような、気味の悪さ不快さを感じさせた。
「じゃあ、奢るから飯に行かない?」
ピカピカと光る台には目もくれず、男は顔を背けたカイジに告げる。そのナンパ然とした物言いに、流石に「はぁ!?」と間抜けた声をあげて振り返れば、既に男はカイジとは反対側に座っていた老ぼれと席の交渉を始めていた。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
まだ確変中だぞ!目を疑うカイジをよそに嬉々として席を移る爺さん。それすらも最早どうでもいいように、男は店員を呼びタワーとなったドル箱の移動を頼んでいる。
「お、オレは行くなんて言ってねーぞ」
「でも、行くでしょ?」
さも当然の如く言われて、ぐっと喉を詰まらせる。現状、カイジの持ち金のほとんどはこの憎らしい機械に奪い尽くされ、手元にはコンビニで握り飯とお茶を買う程度の小銭しか残っていなかった。
「美味いもの食わせてあげるよ」
足元を見られていることを分かっていて尚、抗えない物言い。行動を支配される気配にぞわりとする。
だが断る口実を見つけられないまま、有無を言わさぬ男と共に渋々店を出ると、入った時にはまだ高かった日は、既に傾き掛けていた。
(こんなに時間が経ってたのか)
影が差す換金所で、男が手にした万札の数に目がくらむ。
殴って奪っちまおうか。
そんな悪い気持ちが頭を擡げる居心地が悪さに、煙草を探るが見つからない。そういえば打っている最中に全て吸いきってしまったことを思い出すと、不意に眼前に差し出された赤マルの箱が二つ、そしてその奥に妖しく光る男の目があった。
「端玉が結構あったからさ」
押し付けられ、男も自分の煙草を手にする。銘柄はハイライト。赤マルではない。何故オレの煙草の銘柄を知ってるんだと、訊きたいが訊けずに箱を開ける。
こちらが見る前から見られていたんだと勘づくと、胸の奥がざわざわと騒ぐのを、カイジは感じていた。



「カイジさん、何頼む? 此処はフライ系が美味いよ」
馴れ馴れしく名を呼ばれ、カイジはメニュー表の中でも二番目に高い、ヒレカツ定食を指差す。
「あと、ビール」
「いいね、オレも呑むよ」
こじんまりとした定食屋だが、その中でも三席しかない座敷の一つに通された二人は、ニコニコと常に笑顔の女将に声をかけ、カイジの希望したヒレカツ定食と、アジフライ定食を注文する。
「あと瓶ビール、グラスは二つで」
「アラいいんですか、赤木さん。その体でお酒なんか飲んで」
「それは言わないお約束だろ」
互いの軽口にふふ、と笑いながら厨房へと引っ込む女将に、カイジは妙な違和感を覚える。
(何だ、今の会話)
おそらく50代、若く見積もっても40代であろう女将に対し、この赤木という男、いささか失礼な口ぶりではなかろうか。
自身も決して目上に敬語を使ったり、礼を尽くすタイプではない。常連客ならではなのかもしれないが、それにしたってもう少し、若いなら若いなりの言い方があるだろう。
「そんなに睨まなくたって、取って食いやしないさ」
訝しむカイジに、厨房に目を向けたまま、赤木はさらりと言い放つ。
こいつはこめかみにも目がついているのだろうか。一瞥もくれぬ癖に、こちらの一挙一動、目線の動きまで見通している。
ただただ気味の悪い男だ、と眉を顰めると、ビールとグラスを持った女将が座敷に上がってくる姿が見えた。冷えたビール瓶は汗を掻き、冷気で靄をあげている。
「お待たせしました、グラス二つに瓶ビール。今開けますからね」
目の前で栓を抜く女将に、赤木は自分のグラスを持って少し差し出す。ここでは女将が注いでくれるらしい。
傾けられた瓶からあふれ出す黄金の波に、先ほどまでの不安はどこへやら、ごくりと喉を鳴らす。一気に喉の渇きを覚えたカイジは、最早目の前の欲望しか注視できなくなっていた。
「お若いおにいさんもどうぞ」
赤木の杯をなみなみ満たし、女将はカイジの脇に移る。
美人ではないが女性に注いでもらう機会などないカイジだ。ア、ハイ、と気の抜けた返事と共にグラスを持つと、注がれるビールの重みと冷たさが、ガラス越しにしっかりと神経を駆けていった。
「赤木さんが若い人を連れてくるのなんて久しぶりよ。たんと食べていってね」
「あ、どうも
定食屋にしては、篤い接客。当然カイジも悪い気はしない。自分の表情が脂下がるのを感じつつ、他の客が呼ぶ声に慌てて向かう女将の背から視線を戻そうとすると、途中赤木の視線が痛いくらいこちらに向けられているのに気付いて、心臓がドキッと大きく跳ねた。
「いい店でしょ、ここ」
「あああ
一瞬肉食獣がこちらを狙っているかのように感じられたのは、気のせいだろうか。
「ほら、乾杯」
グラスを軽く掲げる赤木に、カイジもつられて少し泡が減った杯を出す。キン、と接触するグラスの振動が、先ほど跳ねた心臓にまで届いた気がした。

男の言う通り、食事は目を見張る程美味かった。
店構えは寂れた定食屋であるのに、カイジの頼んだヒレカツは、今まで食べてきた肉の中で群を抜くほどに柔らかく、衣もさくさくと嚙みこむほどに歯を喜ばせ、まろやかなソースの味は疾うに食べ終わった今でも舌を喜ばせている。
おかわり無料のご飯と汁物を二杯ずつ、同じくキャベツは三度も頼み、箸をおいたカイジの体は今、生きてて良かった、と馬鹿のように実感していた。
「いい食べっぷりだったわね、おにいさん」
「すっ……ごく美味かったです!ご馳走様でした!」
膳を下げに来た女将に、普段はほとんど浮かべることのない輝きに満ちた目を向け、カイジは礼を言う。お粗末様でした、と女将は顔を綻ばせ、さっと片づけを済ますと、熱いお茶を二人の前に出して下がっていった。
「あーこんなに美味いもん知っちまって、どうすんだよ明日から~
テーブルに突っ伏して、もだもだと肩を揺らす。素寒貧のカイジに、この至福は完全に毒だ。
満腹ということもあり、緩み切った精神は、赤木がいることも忘れたように、ただただ美味い食事への喜びと、明日から待ち受ける苦しみへの後悔に揺れている。
「じゃあ、明日も奢ってやろうか」
そんな中で下げられる蜘蛛の糸のような一声に、カイジはばっと顔を上げた。
赤木は熱い茶を爺のように微かに啜りながら、勢いよく顔を上げたカイジに、口角を少し上げて笑みを浮かべる。
「明日だけじゃない。明後日も、明々後日も、あんたが望むならその分だけ、奢ってやってもいいよ」
訳のわからぬ申し出に、カイジは意味が分からず首を傾ける。
望むなら、望むだけ? なんだそりゃ。どういうことだ?
たかる側ならともかく、たかられる赤木にとって何のメリットも無い誘いだ。頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなるような言葉に、思わず言葉に詰まる。
カイジの表情は明らかに曇っていた。だがそんなことは気にもかけず、赤木は勝手に話を進める。
「悪い話じゃないさ。オレが稼いで、あんたを食わしてやる。何なら宿も取ってやるよ、その風体、どうせ宿なしプータローだろう、カイジさん」
カイジはぎょっとして、前へと僅かに乗り出していた上体を引く。二人はこの定食屋に来るまでの間に、互いの名前くらいしか情報を交換しなかった。しなかったはずなのだが、驚いたことに見抜かれている。おそらくは同年代の、もしかしたら自分より年下かもしれない男から。
…………
ここに来てまた無言の時間。パチンコ店からの移動時間も、そのほとんどが無言だった。その時は先を歩く赤木の背を眺めてついていくだけの時間だったが、今は違う。赤木はこちらを向いている。強い眼光を湛える瞬きの少ないその目に注視されると、背がじっとりと汗ばんでくるのを感じた。
……な、んの意味があんだよ、それ
やっとのこと喉の奥から絞りだした声は、肉食獣の口の中で悲鳴をあげる兎のようにか細かった。情けなさでまた頬が紅潮するのを感じる。泣く前、人はこんな顔をする。泣く気もないのに鼻の奥がつんとして、カイジはそんな自分の感情のさざなみに戸惑いを覚えた。
「意味? そういうのが必要なタイプ?」
面倒だな、と一言、赤木は湯呑をテーブルに置いた。ゴツ、と重い音が響くと次の瞬間、テーブルの上で無意識に握りこまれていたカイジの左手に、赤木はスリ、と右手を寄せて一撫でする。
「ッ!」
反射的に手を引っ込めようとするカイジ。だが上手くはいかない。
恐ろしく強い力でカイジの左手を捕らえた赤木の右手は、色素の薄いその肌に反して、灼熱のように熱かった。皮膚の薄いごつりと骨の浮いた手が、カイジの手の甲から手首にかけてを覆うと、利き腕ではないとはいえ、大の男の抵抗一つにびくともしない。
テーブルに手首から先を縫い付けられたような状態に、カイジは焦りを覚えて何度も腕を引こうとする。
――惚れたんだ」
そんなカイジの耳を、赤木の言葉が抜けていく。意味を問うたのは自分なのに、その言葉の意味が理解できずに、何?と眉をひそめて伺ってしまった。聞き逃した言葉を反芻し、嚙み砕くのに数秒間。
今この男は何と言った?ほれた?ほれたってなんだ?つまりそりゃ、惚れたハレタのなんとやら、って――………
「はぁっ!!?」
素っ頓狂なカイジの声で、ざわめく店内は水を打ったように静まり返った。周囲の視線を一斉に浴びることとなったカイジは、思わず残された右手で口許を押さえ、視線から逃げるようにぎこちなく壁側に顔を背ける。
その間に赤木が手振りで何でもないことを周囲に示すと、また店はゆっくりと、元のざわめきを取り戻した。
びっくりさせるなよ、カイジさん」
「びっくりさせてんのはどっちだよお前
周囲の視線を集めてしまった失態に、咎めるように赤木を睨むカイジ。だがやはり獣としては鋭さの足りない震える兎に、赤木は押さえつける手の力を緩めて、カイジの断指痕の残る指の根元を撫でる。
「惚れたってのは、まあ冗談さ。そういう理由が一番手っ取り早く懐柔できるかと思ったんだが、案外初心なんだな、カイジさんは」
「ぅぶ……っ~~~! てめぇ!!」
青くなっていたカイジの顔は、今度は怒りに赤くなる。胸のむかつきが臓腑に満ちるが、先ほどの周囲の反応のこともあり、カイジは奥歯を噛みしめて、ギリギリと赤木を睨めるだけ睨んだ。
だが赤木はどこ吹く風といった態度で、そんなカイジの様を眺めていた。
「あんたかなって思ったのさ」
……何?」
「この指。それに耳。多分あんたが一番、今の"俺"を楽しませてくれるんじゃないかと思ったんだ」
赤木の挑戦的な視線が、カイジの指と耳に向けられる。一度ちぎれて縫い付けた、通常の人間ならぎょっとして距離を取るこの傷跡を、男は愛おしそうに見つめ、また指の腹で一撫でする。
その行為に、カイジは唇をひん曲げながらも抵抗を見せない。されるがまま、指に触れさせる。頭の中の信号はずっと黄色表示のままだが、払いのけるほどではない。先の馬鹿力はどこへやら、今はただの繊細な指にしか感じられなくなっている。
そしてひとしきり指の痕を楽しんだ赤木の手は、するりと蛇のようにカイジの視界から消えた。
「あんた、危険な輩を呼び寄せる癖があるだろ?」
は?なんだそれ」
「自分じゃわからないかな。癖というか、においに近いかもしれない。あんたはそういう輩が好む、甘い蜜みたいなにおいをさせてる。最近じゃ少ないんだ、どいつもこいつも無味無臭みたいな面してさ。だから、あんたを店で見つけた時、久しぶりにぞくっときたよ」
カイジは思わず自分の服の襟元を嗅いで、数日洗ってない服の饐えた匂いに顔を曇らせる。どう考えても甘い匂いなどするはずもない体だ。
臭えけど。そう呟きながら男を見やると、カイジの仕草にまたくつくつと肩を揺らして、楽しげに赤木は目を細めていた。
「たしかにちっとばかし臭うよなあんた。風呂もまともに入ってないだろう。近くに湯屋がある。腹も満たされたし行くかい?同じ釜の飯を食った仲だ、このまま裸の付き合いといこうじゃないか」
勘定を頼む、と女将に声をかける赤木に、カイジは慌てて少し身を乗り出す。
「おっ、オレはそっちの趣味はねえぞ!」
釘を刺すようなカイジの台詞に、これまで笑みを浮かべるだけだった赤木は、ついにハハッと高めの笑い声を上げて、テーブルに少し乗り出したカイジの目を覗き込むように視線を合わせた。
「オレにそんな趣味があるように見えるかい」
笑みを浮かべたままだったが、目が笑っていなかった。ヒヤリと冷気を帯びた声色が、カイジの背を抜けていく。
先に会計を済ませて出て行く赤木に、カイジは暫し止まったままだったが、残った茶を一気に飲み干すと覚悟を決め、女将に軽い会釈をして、赤木の後を追って店を出た。
赤木は店の前で待つこともなく、すでに暗がりの細道を歩いていて、待てよ!と大きな声を掛けると、結局カイジは赤木の後を追うのだった。



この後銭湯に入った二人だが、湯を浴びた赤木の姿に、カイジは目を白黒させて、言葉を失うことになる。
「俺はこの姿じゃここらの賭場では出禁でなァ、かといってガキの姿じゃ一人じゃ賭場どころか馬券ひとつも買えやしねぇ。だからガキの姿の俺に付き合って、一緒に博打を楽しませてくれよ。あんたなら色んな遊び場を知ってるだろ、カイジさん。ーーいや、今は年下だから、呼び捨てでいいか。なァ、カイジ」
「あ、あんたどうなってんだよ!?」
湯に浸かった青年赤木は、あっという間に老け込んで、中年赤木しげるになったのだった。

ちなみに周りの客たちは「何度見ても面白いなァ、赤木さんのその呪いは」なんて談笑してたもんだから、カイジはその状況に、ますます頭の中がこんがらがるのだった。



おわり