2023-05-18 17:43:01
2170文字
Public 一次創作
 

【一次創作】ロッキンファミリー

とあるギャルを襲ったハプニング。ギャルの描写が古い。

十八年前、あたしは取り違えられた。今日は本当のお父さんとお母さんに会いにいく。
とはいえ別に嫌な気持ちは全くない。確かに今のお父さんとお母さんとあたしはなんだか似てねえな、とは思ってたけど、毎年沖縄旅行に行くのは楽しかったし、赤ちゃんのときに取り違えられたと聞いてもあたしにはお父さんとお母さんがもう一人いるんだってワクワクしてた。
「結愛、もうすぐだぞう!」
お父さんは車の中でいつものように爆音でロックを流して歌いながら運転してた。もしかしたらお父さんは少し寂しさを誤魔化そうとしているのかもしれないけど、あたしはノリノリでハモッていた。
今日は気合いを入れて髪を巻いたし、つけまもばっちり決めて爪も鬼盛りにしてきた。もしかしたらこんなあたしを見て本当のお父さんとお母さんはちょっとびっくりするかもしれない。でもいいんだ、今のあたしはこんなに元気にしてるよって伝えられるから。



なんだよ、全然似てねーじゃん。
まず最初に抱いたのはそんな感想だった。家族三人、みんな引きこもってんのか? っていうくらい真っ白で、あたしと取り違えられた女の子は確かにちょっとうちのお父さんとお母さんに似てるかも? ってレベルの黒髪ストレートで冴えない子。この子は結衣ちゃんといって、あたしと名前が似ているから取り違えられたらしい。
本当のお父さんもお母さんも、今のあたしを見て明らかに引いているのがわかった。
「結愛……さん、ですね?」
なんかお堅い感じで話しかけてきたこのお父さんは、車の運転中に音楽をかけなければ、歌うことだってしないだろう。ワクワクしていた気持ちはすぐに萎れていった。



今日はとりあえず本当の家族と一緒に過ごす日だと前もって決めていたから、あたしは本当のお父さんとお母さんと、近くのファミレスに入ってご飯を食べていた。
「本当は違うレストランを予約したんだけど……ちょっと、ねぇ?」
本当のお母さんはそう言って本当のお父さんに視線を送る。わかってる。二人とも綺麗な服装をしているから、もっとお高いレストランでも予約してたんだろう。あたしはあたしなりの勝負服を着てきたけど、沖縄だけじゃなく日サロでゴン黒になった金髪の娘なんて連れていきたくなかったんだよね。というか、ファミレスですらこの人たちと同じテーブルに座っていることに違和感がある。
……トイレ行ってきまーす」
あたしは気まずくてトイレに立った。もう泣きたかった。洗面台の前でスマホを開いて、お父さんとお母さんになんて助けを呼ぼうか考えていた。
そのとき、鍵をかけ忘れたトイレの扉が開く。あたしは驚いた。
「お父さん……⁉︎」
そこにはなんだか項垂れたお父さんが立っていた。本当のお父さんじゃなくて、くたびれたポロシャツを着た結構日焼けした方のお父さんだ。
タイミングが良すぎてなんて言えばいいのか考えているうちに、お父さんは勢いよくあたしに抱きついてきた。
「ちょっ、いきなり何⁉︎」
いやまあ、お父さんも結衣ちゃんとちょっと過ごして何かあったんだろうな、とは思ったけど。
なんて考えていると、あたしの背中にまわる腕にやたらと力が入っていった。
「え、お父さん、痛……
痛すぎる。それもそのはず、あたしの肩には何かが刺さっていた。ぴしゃぴしゃと生温かな液体が吹き出して顔にかかる。目を見開いてお父さんの顔を見れば、今までの優しかったお父さんはどこにもいなかった。白目を向いて、大きな牙を剥き出しにした何か。これ、どういうこと?
「ぎゃああああああ‼︎」
気づけば大声を上げていた。痛い。熱い。誰か助けて。お父さん! お母さん!
そのとき、勢いよくトイレの扉が開いた。血まみれになった本当のお父さんがキッチンから持ってきたのであろう、包丁を振り上げる。包丁は一瞬本当のお父さんの頭上で震えると、まっすぐお父さんの背中を刺した。お父さんの腕があたしを開放する。
「結愛ちゃん! こっちへ!」
「う、うん!」
あたしは無我夢中でお父さんから離れてトイレから出た。
あたしは何分トイレに篭ってたんだろう。ファミレスは血の海になっていた。たぶん、お父さんがやったんだろう。走って外に出ると、出入口の正面にあったボンネットの凹んだ車の中で二人の女性が震えていた。本当のお母さんと結衣ちゃんは無事だった。
本当のお父さんは後部座席の結衣ちゃんの隣にあたしを押し込んでから、運転席に回って素早く車を出す。それから、車の中はずっと静かだった。
「結愛ちゃん」
本当のお父さんが口を開く。
「これからどうなるかわからないが、一緒に暮らしてくれるか……?」
ってかそうするしかなくね? お父さんいないんだし。あ、でも家にいるお母さんは心配だから見にいきたいな。
そんなことを話せる余裕はなかったけど、それでもあたしは震える唇を動かした。
「あの……
「うん? なんだ」
「音楽を、かけてください」
何言ってんだ、あたしは。
自分でもびっくりしたけど、その言葉を聞いた本当のお母さんがスマホを操作して音楽を流してくれた。
全然趣味じゃねえ一昔前に流行ったバラード。そんなん聞いてたら余計に暗くなるだろ。でも隣の結衣ちゃんが小さく鼻歌を歌い始めたのを聴いて、何も言えなくなった。