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乙麻呂
2023-01-14 23:31:44
5704文字
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微睡むように
前々から密かに見たかった『法力を著しく損ない弱った慕情とそれを大事にする風信』です。
原作軸からはかなりの年月が経ったイメージです。雰囲気でお楽しみください。
仙京に戻ると、足は勝手に自殿を素通りしアイツの宮殿へと向かっていた。
「これは南陽将軍」
「此度の遠征もお疲れ様でした」
玄真殿の神官達は、風信の姿を見ると型通りの拱手をして挨拶を述べた。
冷めた表情と硬い態度はここの主にそっくりだと思わず苦笑いする。
まぁ、それを言えば「南陽殿の神官達は主に似て皆直情的で考えなしだな」とでも嘲笑うんだろうが。
南陽殿と玄真殿は、長い年月剣呑な関係だった。
今だって『仲が良い』とは称されないんだろう。
風信は顰めっ面だしアイツは辛辣で、顔を合わせればアイツは皮肉を言うし、俺はそれに怒鳴り返されずにはいられない。
しかし、それは互いの性分だとか“腐れ縁”でもまだ弱い積年の関係から来るもので、喧嘩している意識すら途中から消えていた。
南陽殿と玄真殿の神官同士も何かといがみ合っていたが、有事の際には誰よりも心強い味方であり、支援し合ってきた。
東南を守護する南陽将軍と西南を守護する玄真将軍。
それぞれが管轄する地の人々もまた、その影響か互いに反発しつつも阻害する事もなく、競うように繁栄していった。
そんな二人の関係に一つの明確な変化があったのは、いつだったか。
南陽将軍と玄真将軍は、旧知の仲として、そしてまた別の関係として、互いの宮殿を頻繁に行き交い、多くの時間を共に過ごすようになっていた。
最も、風信が玄真殿を訪れる事の方が圧倒的に多いのだが。
既に玄真殿の小神官達も、風信が宮殿を歩いていても気にも留めないようだ。
玄真殿でも私的な空間
………
つまり慕情の私室からは控えめな灯りが漏れていた。
「慕情」
言い訳程度に戸を叩きながら部屋に入ると、長椅子にゆったりともたれる慕情の姿があった。
「これは南陽将軍。下界での任務ご苦労だったな」
偉そうな態度だが、武神として最低限の装いしかしておらず、ふふんと笑うその表情もどこか気怠げだ。
風信は眉を上げた。
「休んでいたのか」
「ふん、私だって休憩くらいする」
慕情は長椅子から身を起こしながら事もなげに言った。
「お前も休め。その為に来たんだろう?」
「ああ」
風信も重い装飾を外し、上衣を脱いで身軽になると慕情の隣に座った。
肩を抱き寄せると、慕情は軽笑する。
「何だ、数日の遠征でもう寂しくなったのか?」
今まで通りの皮肉だが、口調に勢いが無いせいか微塵もムカつきはしない。
ムカつかないと、案外素直に言葉が出るものだと、風信はここ数年で知った。
「そうだと言ったら?」
正直に言えば、慕情は風信を呆れと照れが入り混じったような顔です見た。
「
……………………
ガキか」
「お前にとって俺はガキか?」
問いながら、風信は慕情が答えを口にする前にその口を唇で塞いだ。
「ン
……………
」
慕情も抵抗する事も無く、慣れた仕草で舌を絡める。
くち
……
と唾液が混ざる音がした。
風信と慕情は情を交わす仲だ。
明確な理由など無い。なるように成った、としか言いようが無いからだ。
きっと何百年も前から互いを心に住まわせていて、しかし長い間それを直視する余裕も状況も逃してきたのだ。
色んな事にけりが付いてみれば、笑ってしまう程に自然と距離が縮まった。
いや、元々距離など無かった事に、今更気付いたと言うべきか。
『
當局者迷,丈八燈台照遠不照近
灯台下暗し
』とはよく言ったものだ。
慕情と親密になってからは、互いの管轄する土地も力に溢れ、豊かで平和な日々が続いていた。
あの日までは。
風信は慕情の襟元を寛げ、首筋に手を添える。
温度が低い肌は青褪めて見えた。
「また眠ってないのか?」
問いかければ、慕情の意思の強い目が風信を見据えてハッと笑った。
「赤子じゃないんだ。毎日スヤスヤ寝なくても、何の影響も無いよ。それとも武神と言うのはそんなにヤワだとお思いか?南陽将軍」
「いや
…………
」
むしろ玄真と言う武神が如何に強いかなど、風信が一番よく知っている。
それでも曇った表情の風信に、慕情はくすりと笑うと今度は自分から唇を重ねてきた。
宥めるように慕情の舌が唇をなぞり、風信の舌を甘噛みする。
「
……………
」
風信は慕情の肩を掴むと、体ごと慕情に重ね返した。
慕情の体が長椅子に倒れる。
押し付けるように重ねられた唇が甘く痺れ、じんわりと温まった気がする。
「流石任務帰りだ。法力が溢れてるな。それとも
………
」
慕情は小さく笑い、囁いた。
覆い被さった風信の腰を衣越しに慕情の脚が撫でる。
「溢れるのは、性欲の方か?“巨陽将軍”」
黙れ、と言う余裕が無い程度には、風信がそっちも滾っているのは確かだった。
風信は慕情の首の黒い皮のベルトを外すと、衣を寛げた。
やはりひんやりとした首筋から鎖骨を撫でると、蒼白い肌に赤みが差した。
「いいんだよ、すぐにお前に奪われるんだから」
「法力をか?それとも、性欲をか?」
「どっちもだ」
下らない事を囁き合いながら、互いの衣を解く。
性欲を持て余しているのは同じだろう。
しかし、法力は違う。
慕情の体に法力は本来の半分程度しか巡っていない。
もう二、三十年前の事になるだろうか。玄真将軍が管轄する西南の土地が炎に包まれ、何千もあった玄真殿は実に半数近くが消失した。
いつか血雨探花が三十三もの神官の廟を焼き払った時のような、害意のあるものでは無かった。
酔っ払いがうっかり倒した灯籠の火が乾燥した空気と風に乗って運悪く燃え広がったようだと、霊文が後に報告しに来た。
もしも害意ならば、むしろ慕情は気付いていただろう。
最初に燃えた場所が、奇しくも玄真殿の近くだったのは幸いだったのだと思う。
しかし、慕情が気付いた時には、既に人間には消火が難しい大きさに炎が膨れ上がっていた。
時間は深夜で周囲に人の姿は無かったが、火事に気付く者もまたいなかった。
火の手は人々の住まう区域へと迫ろうとしていた。
人間への直接的な介入が許されない神官だが、黙って見ている事が出来るはずも無い。
風信も慕情も稲妻のような勢いで寝ていた国師を怒鳴り起こし、避難を促した。
隣接していた風信の管轄する地域の国主はすぐに救援軍を編成し、避難する人々を助けた。
それでも人の移動する速度が、火の勢いに敵うわけもない。
慕情は炎を住民から人の居ない玄真殿へと導いた。
もはや人の手で消火する事が不可能となった炎は町を燃やし尽くした。
そして、引き換えに玄真殿はその半数もの廟が焼け落ちたのだ。
この時点で、炎を自殿に導き続けた慕情の法力は底をついていた。
そもそも、廟が焼ければ神官は法力を損なう物だ。
そのまま慕情は倒れ、三日は目覚めなかった。
これだけの火事にも関わらず、死傷者が殆ど出なかったのは奇跡だった。
代わりに焼け落ちた玄真殿を見て、人々が『玄真真君のご加護だ』と口々に言うのも当然であった。
それが玄真真君のお陰であるのは、間違い無いのだが。
南陽の守護する土地の人々は避難した民を快く受け入れ、生活を全面的に支援した。
焼けた国も、すぐに再建される筈だった。
近隣の国が攻めてさえ来なければ。
慕情が守護する土地は美しい場所だった。
資源が豊かで、金銀や宝石の加工技術に優れていた。
玄真殿の信徒は皆勤勉で美しい物を好み、手先が器用だったのだ。
何千もの玄真殿は皆素晴らしい彫刻や装飾に溢れていた。
焼け残ったそれらが狙われるのは、ある意味必然だなと慕情は自嘲した。
悔やむとすれば、二つある。
一つは、攻めて来たのがただの欲と権力に目が眩んだ人間だった事だ。
もしも鬼が背後にいたのなら、風信が降臨して退けていたし、慕情とて引けは取らなかっただろう。
しかし、人間のする事に神官が関わる事は出来ない。
結果、ただ見ているしか出来なかった。
二つめは、玄真真君へ捧げられる線香が致命的なまでに減っていた事だ。
命が助かった玄真殿の信徒は、熱心に拝んで線香を上げた。
しかし、信徒が逃げた先にあったのは南陽殿で、そこで捧げられた線香は全てが風信の法力となった。
信徒が南陽殿の功徳箱の側に、玄真真君の神像と供物と線香を設置しだしてからは少しはマシになっていた。
しかし、何千もの廟に代わるにはあまりに微微たるもので、慕情の法力は枯れたままだった。
そして、玄真真君の加護が薄れた土地はどこかの国の手に落ちた。
国に残った信徒は捕虜となり、祈る事が出来なくなった。
国を出た信徒は祈り続けているが、まだまだ玄真殿を再建するには至らない。
祈る先が南陽殿へと変わった信徒も大勢いる。
南陽の守護する土地に玄真殿は一つも無いのだから、仕方が無い。
まさか、いがみ合っていた余波がこんな形で跳ね返るとはと歯噛みする風信に、慕情はただ首を振って「それなら俺も同罪だ」と笑った。
「ン
………………
ぁ
………………
はやく
……………
しろ」
むずがる様に慕情が喘いだ。
風信は啄んでいた慕情の腹から顔をあげ、にやっとする。
「お前、腹弱くなったんじゃないか?」
「うるさい
…………
バカ
……………
じゅーやんのむだづかい
………
」
「どんな悪口だ?」
神官が弱体化し、消えていく様を知っている風信は、いつしか体を重ねる前に、点検する様に隅々まで慕情を愛撫するようになっていた。
慕情はそれがどうにもむず痒いらしく、途中で嫌がるのだ。
まぁ、真っ赤に染まった顔と潤んだ目。そして何より慕情の脚の間で頭をもたげて風信の腹を何度も掠め、先走りで濡らしているモノを見れば、本気で嫌がっているのでは無いのは明確だが。
「ほら、分かったよ」
「ンッ
…………
フ
……………
」
竿を擦ってやれば、慕情は気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
法力が減ってから、慕情は少し勃ちにくくなったように思う。
その分後ろでイク事を覚えてしまったらしく、腰が揺れ始める。
風信は袍から取り出した香油を手に垂らすと、揺れる腰に手を伸ばした。
「ハ
…………
ン
…………
んンッ」
つぷりと指先を挿れると、慕情の腰が小さく跳ねた。
慕情のナカが風信の指をキツく締め付ける。
指で入り口をじっくりとほぐしていけば、それだけで慕情は表情を変えた。
「慕情
…………
挿れるぞ」
風信の巨陽はとっくに準備が出来ていた。
風信の言葉に、慕情は潤んだ目で軽笑した。
「はやく
…………
しろ。あんまりモタモタしてると
……………
興醒めするぞ」
「
……………………
ッ」
風信は答える代わりに慕情に自らの分身を突き立てた。
「ァア
………
ン
……………
」
ぶるりと震えて嬌声を漏らしながら。慕情は風信の背に手を回した。
両の脚も風信に絡めて抱き寄せる。
「ハッ
……………
ハァ
………
ン
………
」
「ハァ、ハァ
………
」
互いに熱い息を漏らし、思い出したように唇を重ねる。
風信が果てるまで、二人の唇は重なったままだった。
「そう言えば、また土地の奪還に成功したようだぞ」
ベッドで並んで余韻に浸っていたら、ふと風信が口を開いた。
慕情は風信の硬い腕の一番寝心地が良い場所を探しながら目を向ける。
「へぇ、早いな。ついこの前も奪還してただろう?」
風信の守護する土地の人々は、もう何年もの間国をあげて玄真真君に加護された土地を取り戻そうと奮闘していた。
とりわけ、ここ数年は目覚ましい勢いで侵略して来た国の人々を退け、土地を奪い返している。
「確か、一人イキの良い武官がいるんだったか?そうそう、確か南陽将軍にあやかって《南陽》の号を頂いたとか」
面白げに慕情が笑う。そのネタでいじられるのももう何十回目になるか分からない。
風信は「そうだな」と応じた。
人間が有名な神官の名にあやかる事はそう珍しくも無い。
それでも普通は一文字だけ頂いたりと少しは遠慮するのだが、件の武官の青年は丸々もらってしまったらしい。
風信は無礼だとか罰当たりだとか、そんな事は気にしない性格なので、別に好きにしろとしか思わない。
が、時折他の神官からはネタにされる。
特に目の前のコイツからは。
「武神が生まれるんじゃないか?」
慕情が面白げに呟いた。それに風信は眉を上げて微妙な顔をする。
「いや
………………
戦場で頭角を表してはいるが、どうも
………
殺戮は好まないのか、制圧はしても殲滅はしないんだ」
人を殺さないのもまた“徳”であり、飛昇への足掛かりになる。
戦場で人を屠れば屠る程に精神が近づくのは、神官などでは無く鬼だろう。
しかし、武神になるのに必要なのは、大勢の信徒を生む『派手な英雄譚』だ。
あんなに心優しく人を傷付けなかった仙楽太子にその手の逸話が無く、ガラクタ仙人としての悪評ばかりが広まっているのを見ていると心底そう感じる。
ささいな親切が広く知れ渡るとすれば、むしろ鬼の方だ。
血雨探花などが良い例だろう。凶悪な鬼王が花を想うからこそ、美談として人々の心を揺さぶるのだ。
「それは将来有望じゃないか。南陽殿に新たな将軍が生まれたら、お前はお役ごめんだな。南陽将軍。せいぜい乗っ取られないように気を付けろよ」
何がおかしいのかカラカラと笑う慕情を力づくで腕の中に閉じ込め、風信は吐き捨てた。
「お前は人の廟より自殿の心配をしろ!!」
慕情は風信の胸に顔を押し付けられて腕の中でもがいていたが、力づくで抜け出すとハッと笑った。
「まぁ、何とかなるさ。どこぞの神官など、三度も飛昇した挙句に法力を全て失ったが何とかしてたしな」
それに、お前もいるしな。
音になるかどうかギリギリの声量で付け足された言葉に、風信は首の後ろを掻いた。
「弱ったお前を見てると腹の底がゾワゾワするんだ!」
「ふん、そんな事を言ってると、その内に後悔するぞ」
慕情は小さく笑い、風信の腕に頭を乗せ直して目を閉じた。
「この状況も、そんなに悪くないけどな」
風信は答える代わりにその額に唇をつけ、自分も目を閉じた。
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