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乙麻呂
2022-07-05 07:07:22
5429文字
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かいこさんの风情のアイドルAUネタを書かせて頂きました。
かいこさんの書かれているアイドルAUの慕情に夢を見過ぎて、先日とうとう実際の夢に見てしまいました(睡眠的な意味で)。
せっかくなのでSSに纏めた所、創作者であるかいこ先生より、公開しても良いとお許しを頂いたので掲載させて頂きます。
かいこさん、掲載許可をありがとうございました。
○かいこさんの現代AU、风情ネタの三次創作です。
○基本設定はなるべく元のネタに準じるようにしましたが、ライブ風景などこちらの妄想による部分が多分に含まれています。
何でこうなったのか。
訳が分からないまま、風信はドームの二階席の一つに座っていた。
私生活は勿論、仕事でも今まで一切縁が無かった広大なイベントホールは、二万人を収容出来るのだとライブスタッフが聞いてもないのに教えてくれた。
薄暗いホールは一階も二階も人がひしめき合い、ペンライトやら団扇やらを持って囁きを交わしている。
チケットは完売したのだと、これもライブスタッフが聞いても無いのに教えてくれた。つまりここには二万人がいる訳だ。
その“完売した”ライブに何故自分が居るのか。
そんなの、風信自身が問いたい。
たまたま、近くで仕事があった。
しかし交通渋滞が酷すぎて車が動かず、近場で時間でも潰そうとファミレスなり喫茶店なりを探したが、どこも超満員。
こんな平日に何事だと頭を捻りながら歩いていると、巨大なポスターが目に付いた。
今日この近くでとあるアイドルのコンサートがある事に、その時初めて気付いた。しかも、開演時間が一時間後だ。道理で人でごった返しているわけだ。しかもよく見ると、大半が青と緑の服や小物を身につけている。
ここまで異様な状況なのに気付かなかった自身に嘆息する。
引き返そうにもこの人の波に逆らって歩く事は難しく、その人の波に沿って歩けば、ライブ会場しか無い。
どうした物かと考えながら、デカデカと掲げられたアイドルの澄ました顔をじっと見上げていると、ふと肩を叩かれた。
「もしかして、風信さんですか?」
振り返ると、正にこのライブのライブTシャツを着たスタッフが立っていた。
「
…………
ああ」
風信である事に間違いは無かったので、頷いた。
スタッフは愛想の良い笑みを浮かべた。
「ああ、成る程、そう言う事でしたか。お困りでしょう?すごい人ですもんね。関係者用通路にご案内しますので、こちらにどうぞ」
「すまない」
この人混みを抜けられるならありがたいと、そのスタッフに付いて行った。
「いやぁ、ドームツアーの千秋楽でして、今日もチケットは完売なんですよ」
そんな、聞いてもいない事をペラペラと喋るスタッフに適当に相槌を打っていたら、気付いたらライブの関係者席にいた。
自分はこのライブを観に来たと、一言でも言っただろうか?
………………
否。
自分はこのライブの関係者だっただろうか?
………………
違う。
関係者席チケットをくれるような知り合いがいただろうか?
………………
これには一瞬悩む。
確かに、このライブの主役である二人とは、顔見知りだ。仕事でも何度か共演した事があり、風信にとって“個人的な知り合い”と称しても良いレベルだ。
しかし、ライブのチケットをくれる仲かと言うと、それは違う。
実際、チケットなど持ってもいない。
…………………
??おかしいよな???
しかし、誤解を解くタイミングも無ければ、ここから出るタイミングも逸してしまった。
仕方なく、深く椅子に座り、眉間に指を当てながら下を見遣った。
女の比率が多いが、男もいる。
首からかかったオペラグラスに何だか腹の辺りがモヤッとしつつ、辺りを見渡す。
ここの鑑賞の必須アイテムなのかと首を傾げる程に皆が手にしているペンライトは揃って同じ色合いの青と緑に光り、デカいうちわにはアイドルの写真が貼られていたり、、蛍光の文字ででっかく《ウィンクして》とか《舌打ちして》とかそんな注文が書かれている。
舌打ち
………………
?
何箇所かにある巨大モニターには、同じロゴが映し出されていた。
【仙京坂35 Amour Winds Tour 2022】
…………………
まぁ、そういう事だ。
仙京坂35って言うのは、言うまでもなく慕情や青玄が所属する女装アイドルユニットだ。
言っておくが、来たかった訳ではない。いやむしろ来たくなかった。
だって、完全にアレだろ。女装だろう。
すっかり見慣れた姿ではあるが、慕情の女装は、まぁ
……………
その
………………
個人的にあまり接したくないのだ。特に、こんな公衆の面前では。
最近姿を見かけ無いなと思っていたら、そんな事をしていたのか。
…………………
と、不意に照明が一気に落ちた。
暗闇と共に、嘘みたいな静寂が訪れる。しかしそれも一瞬の事だった。
心臓ごと震わせるような重低音がドームに響く。
イントロが流れ、暗闇を何十ものレーザーライトが縦横無尽に飛び交う。
メインステージにスモークが溢れ出し、そして
……………
いつの間にか、ステージには二つの人影があった。
強烈な白い光に、二人のシルエットが浮かび上がる。
ライトがステージ全体を照らす物に切り替わると、そこには二人の“女性アイドル”が立っていた。
ライブ用の、普段よりも煌びやかな衣装。トレードマークと呼べる、青いリボンと緑のリボンで結い上げられた長い髪。
二万人の歓声が響き渡る中、緑のリボンの“女性アイドル”がパンッと扇子を開く。観客席をぐるりと見渡すと、挑発するようににまりと笑った。
『さぁ、○○でのラストステージ!!吹き荒れる準備は出来てる?行っくよー!』
そして、青玄が曲のタイトルを叫ぶと同時に、慕情がマイクに向かって歌い始めた。
それからの事はあまりよく憶えていない。
“女装アイドル”が流行るなど、世の中は物好きな奴ばかりだと思っていた。
しかし、目の当たりにしてみれば、それはどうしようもなく完成された一つの“アイドル”だった。
女に空目しにくい高身長は、ステージの上では圧倒的な存在感を伴って映えた。
顔が綺麗なのは知っていたが、ライトに照らされ巨大モニターに映し出された顔は、TVやポスターで見るのとは別種の美しさがあった。
高いとは言い難いテノールは、時にしっとりと、時に力強く安定して響き渡る。
そして、男にしては艶かしく、女にしてはあまりに力強く迫力のあるパフォーマンス。
次々に曲が変わり、ステージの演出が切り替わり、観客が悲鳴を上げ、気付けばライブも終わりに差し掛かっていた。
風信は結局、途中退場し損ねた所か目を離す事すら出来なかった。
笑顔を振り撒き、うちわのメッセージにいちいち答えて片目を瞑ったり投げキッスをして扇子で扇ぎ、広いドーム全方位に手を振ってと忙しなく動き回る青玄とは違い、慕情は観客に視線を向けない。うちわの内容にも応えない。
勿論歌いながら指でハートなど作らず、歌いながらじゃれついて来る青玄にさえ眉を上げる。
なのに、スッと背を伸ばし、前を見据え、時に目を伏せ、決められたステップを踏みながら歌い上げるその姿はあまりに“アイドル”だった。
と、不意に、自分のパートを歌い終えた慕情が目を上げた。
バチッと目が合う。
それまで微動だにしなかった慕情の涼やかな表情に一瞬驚愕が浮かんだ。
風信は我に返って青褪めながら、その一瞬の“素”の表情がやけに脳裏に灼け付いた。
慕情はあからさまに迷惑そうに表情を歪め、舌打ちした。
それはほんの刹那の、誰の目にも触れない反応だった筈だった。
口元の高性能なピンマイクにより、ドームに舌打ちが響かなければ。
観客がどよめき、こちらに背を向けて歌っていた青玄が驚いた顔で振り返る。
しかし、その目がチラッと上に向いた瞬間、青玄は何とも悪戯じみた笑みを浮かべた。
青玄が慕情の耳元で何かを囁き、慕情が渋い顔でマイクに入らないよう何かを言い返す。
『おやおや、いつの間に呼んだんですか?』『呼んで無い』
そんなやり取りでもするのが、嫌でも頭に浮かんだ。
一気に居心地が悪くなった風信を見上げ、慕情は実に険しい顔でフンッと息を吐くと、舌を出した。
いわゆるアイドルのファンサービスの一つ“舌ペロ”などでは勿論無く、分類するなら“あっかんべー”である。
もしくは、“見るな”か、“出て行け”か。
込められた意味を思って眉を顰めたその瞬間、何千何万の悲鳴が上がった。
慕情はライブを邪魔されたとでも言わんばかりに、それまでよりも更に険しい顔をしたが、結局風信を一瞥もせずにその先を歌い上げた。
青玄がこっそりと片目を瞑って指先でハートを作る“ファンサ”を向けてくるのを薄目で見ながら
…………………
生憎、風信には『青玄がまた悪ふざけをしているな』以上の感想が無い
……………
風信は、慕情の姿に何故か体が熱くなるのを感じて目元を苦く染めた。
後から聞いた話によると、慕情のライブ中の舌出しは、後々《幻のファンサ》としてファンの間で語り継がれたらしい。自分には心底関係無いし、興味も無いが。
結局、風信が席を立ったのはライブが終了して一時間近く後の事だった。
このまま無数の観客の波に紛れるには、風信も知名度があり過ぎる。
幸い、関係者席は客席から見れば暗く、風信がそこにいた事に気付いた人は少ないようだったが、こんな所で見つかれば混乱は免れない。
いっそ素知らぬ顔でスタッフ用通路を通って帰ってやろうかと考え、誰も居ない質素な廊下を歩いていたら、明るい声がかけられた。
「風信!!」
目敏く自分を見付けて駆け寄って来たのは、まだライブの衣装のままの青玄
だった。
思わず一歩後ずさる風信に構わず、青玄は風信の腕を掴んで引き止めた。
「はぁ、良かった。もう帰ったかと思った。もう、水くさいじゃない。何で来たの?誰からチケットを貰った?私達は送ってない筈だけど
………
まぁ、とりあえず楽屋に来て
……
」
「行かない。これは
………
その
………
単なる手違いで」
「手違いで人のライブを荒らされては良い迷惑だな」
ハァ、とこれ見よがしな溜息がして、風信は身を強ばらせた。
青玄の後ろから現れたのは慕情だ。
ライブTシャツは汗でぐっしょりと濡れており、額にも汗が滲んでいた。
首にかけたフェイスタオルでそれを拭きながら、慕情は皮肉げに唇を歪めた。
「お前がアイドルに興味があるとは、知らなかったな」
「興味などない!」
その顔を見返せず、風信は吐き捨てた。
剣呑な二人の空気など気にもせず、青玄はコロコロと笑う。
「とか言って、慕情が珍しくファンサなんかするから何事かと思ったけど?」
「ファンサなんかしていない」
「ファンサ?挑発の間違いじゃなくてか?」
「挑発も立派なファンサよ!」
即否定する慕情と怪訝な風信の言葉そのどちらも切り捨て、青玄はやたらと力強く胸を張った。
成る程、青玄はライブ中もやたらと客席を煽っていた。
しかし、それはライブを盛り上げる為だと風信でも理解出来る。
それに比べて慕情のは到底、ライブを成功させる気があったとは思えない。
もの言いたげな風信を胡乱な目で見返し、慕情はじとりと風信を睨んだ。
「関係者席に居座っておいて図々しい奴め。来るなら、差し入れくらい持って来たらどうだ?」
「だから、来るつもりでは無かったんだ」
風信は自身の髪をぐしゃっと掻き乱した。慕情の、化粧のせいで普段より大きく見える目を見返す事は出来なかった。
慕情から視線を逸らし、体も背ける風信をじぃっと青玄が見つめる。
少し首を傾げ、やおら何かを納得すると、パンッと音を立てて扇子を開き、扇子の陰で耳打ちをしてきた。
「
…………………
男性にはよくある事だから。ええ、ライブで熱狂すると、偶にそうなるらしいから」
笑いを含んだ、しかしやけに真面目くさった声に寒気がしたのは、青玄が美しい女の姿で身を寄せてきたせいだけでは無い。
「
………………
」
「恥ずかしがる事はないわ。どうぞ、お気になさらず。楽屋の隣にトイレが
………
」
「何の話だ!?」
思わず声を上げると、青玄は小さく肩を竦めた。
会話が聞こえなかっただろう慕情がこっちをじっと見て怪訝な顔をする。
「何よ、慕情の真剣な顔とファンサでドキドキしたくせに」
「してない!」
風信の何とも苦い顔を見遣り、慕情は顔を顰めたまま言った。
「
……………
で、お前、私のファンだったのか?」
実際のファンに問いかけたらファンがたちまちアンチに変わりそうな迷惑そうな顔を見返し、風信は唸った。
「違う」
それだけは間違い無い。
慕情はムッと眉を寄せたが、すぐに腕を組んで面白くもなさそうにフンと鼻を鳴らした。
「楽屋に来る気が無いならさっさと帰れ。暇人が」
しっしと追い払う仕草までしてくれる。マニキュアが塗られた無駄に綺麗な指先を見遣り、風信は素気なく言った。
「言われなくても帰る。
………
邪魔をしたな」
「いえいえー。今度から、先に言ってくれたらチケット送るから」
笑顔でひらひらと手を振る青玄とは対照的に、慕情はにこりともしない。
しかし、その目は風信を捉えていた。
「
………………
あー」
ふと、風信は足を止めた。
頭を掻き、少し口籠ると言った。
「
…………
ライブはよく分からないが、凄かった」
「あらあら、ありがとうございます」
青玄がケラケラと笑う。
慕情は眉を上げ、フンッと吐き捨てた。
「こっちは本気でやってるんだ。当たり前だ」
しかし、その耳元が微かに赤らんだのを見て、青玄はそっと口元を扇子で隠し、目を細めた。
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