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乙麻呂
2022-03-07 23:04:10
8012文字
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ショタ殿下誘拐+高校生風慕ネタ
立葵さんが呟かれていた誘拐ネタに乗らせて頂きました。なんかこれじゃ無い感強いしわけわからないですが雰囲気でお楽しみください……
地頭良い三人が好きです。
気がついたら、うす暗くて広い場所に連れて来られていた。
寒さにぶるりと身を震わせたら、ズキズキと色んなところが痛んだ。
手はガムテープで体ごと縛られていて、動かせない。
一気にこみあげてくる不安に、泣きそうになるのをぐっと堪える。
やってしまったな
………
と言うのが真っ先に浮かんだ。
きっと、すごくすごく怒られるし、それよりもっとずっと心配させる。
兄であり年の離れたトモダチでもある二人の顔を思い浮かべたら、余計に涙が込み上げそうになった。
でも、同時に恐怖が薄れるのも感じた。
あの二人は強いんだ。絶対、助けにきてくれる。
自分が目を覚ましたのをみて、誘拐犯の男が言った。
「ガキ、お前の家か親の電話番号は分かるか?それとも、父親の会社に電話するか?」
こくり、と喉が鳴った。
もちろん、家の電話番号は知っていた。でも
……………
誘拐犯をじっと見上げ、口を開く。
「ケータイの番号なら、わかる」
そして口にした。
父親ではないけど、誰よりも頼りになる、たった二人の家族のうちの一人。
迷子になった時にと覚えさせられた、心配性でこの世で一番頼りにしている、『兄』で『友人』の携帯番号を。
◆◇◆◇
「
…………
」
「
…………
」
鮮やかな赤に染まる空の下、誰もいない下駄箱で。
何の因果か、風信と慕情はばったりと出会ってしまった。
如何にも“嫌な奴に出会ってしまった”とばかりに互いに顔を歪ませる。
そのまま二人は無言で下駄箱から靴を出した。
風信の運動靴を見て、慕情が汚い物を見るような顔をした。
…………
男子高校生の靴が、年季は入っているのによく磨かれたローファーな方がおかしいのだ。
「
…
言いたい事があるなら言え」
無言で注がれる侮蔑じみた視線に、風信が唸る。
慕情は竹刀の袋を担ぎながら、冷ややかに言った。
「品位が下がるな」
誰の、とは言うまでも無い。風信は眉を跳ねた。
「高校生活は自由にして良いと言われている!むしろお前は何だ?浮いているにも程がある!少しは馴染む努力をしろ!奥様の好意を無駄にする気か?」
「
………
」
ピクリと慕情の眉が上がった。
「ハ、『学校生活を楽しむ』と言うのは、努力をして“青少年らしく馬鹿でガキに振る舞う”事なのか?そんなの到底楽しんでいるとは言えないし、そっちの方が余程不誠実だな」
「何だとこの
………
」
と、その時。風信の学ランのポケットが震えた。
ウーウーと低い音が慕情の耳にも届く。
「電話だぞ」
「分かってる!」
風信は靴に足を入れながら、学ランからスマホを引っ張り出した。
その着信画面を見て眉を寄せたのを見て、慕情が怪訝な顔をする。
「誰だ」
「知らん。非通知だ」
「詐欺じゃないか?」
軽笑する慕情を睨みながら、風信は逡巡する。
どう考えても怪しいが、無差別な悪戯や詐欺にしては着信が途切れる事は無い。
明らかに、何らかの意図を持ってかけて来ている。
風信のスマホに電話を寄越すような人間は限られており、そのどれもが無視する訳にはいかない相手だった。
暫く考え
…………
風信は通話表示をタップした。
「もしもし」
『これは、忙しいようで何よりだな』
知らない男の声が皮肉げに笑った。
風信の眉に皺が寄る。
「誰だ」
『お前の息子を預かった』
「ハ
………
」
「ハァ!?俺に息子などいるか!」と怒鳴りかけ、風信はふと口を噤んだ。
風信の目に困惑が過りその顔色が変わっていく様に、慕情も揶揄する笑みを消して真顔になる。
風信は慕情に目線を向け、指先でチョイチョイと来るよう促した。
慕情もスマホに耳を寄せた所で、風信は慎重に口を開いた。
「
………
息子を預かった、だと?どう言う事だ」
慕情の肩がピクリと跳ねる。
困惑は数秒で、風信と同じ答えに達したらしく、慕情は息を殺してじっと耳を傾けた。
『そのままの意味さ。仙楽グループの御曹司が一人で下校とは、随分と不用心だな』
「
………
無事なんだろうな」
『勿論。大事な人質だからな。暴れたが、一発殴ったら大人しくなったよ。随分肝が据わったガキだな?』
手の中でミシリとスマホが音を立てる。
「
………………
」
風信が目線を送る前に、慕情は自分のスマホを取り出して手早くGPSの探索画面を立ち上げ、微かに首を振った。
位置が探知出来ないと言う事は、アイツの持っているキッズ携帯は電源が落とされたか、最悪壊されているだろう。
「声を聞かせろ」
『その前に、こちらの要求を話させて貰おうか
…………
あ?オイ、何してる!!』
不意に男が声を荒げた。
タシタシタシと、コンクリートの床を打つような音が聞こえた。
体重の軽い人間が、床を踏み鳴らすような音だ。
大人しくしてろ、と怒鳴る声。
バシッと、何かを叩く音。
風信と慕情は互いをつねって、何とか声を荒げるのを堪えた。
スマホから、さっきより気色ばんだ男の声が早口に聞こえた。
『要求は、今お前らが手がけている○○から手を引く事。確認出来次第、また連絡する。
……
警察に知らせた段階で、ガキは殺す。分かったな』
風信が何かを言う前に、ブツッと通話が切れた。
「
……………
」
風信は震える手でスマホを下ろしなかまら、呆然と目を隣に向けた。
こちらを見返した慕情の目にも、同じ怒りが宿っている。
誘拐された。
風信の息子では勿論ないが、二人にとっては家族同然の、弟であり、小さな主君でもある子どもが。
「
……………
通学路だ」
慕情は低く言った。既に校門に向けて駆け出している。
風信もそれに付いて走りながら問いかけた。
「何故」
「坊ちゃんが最近気に入りの遊びだ。スマホを三回鳴らしたら『迎えに来い』」
「
………
」
「“誘拐されたから助けに来い”なんて、当たり前の事を伝える為に、誘拐犯の前で行動をするような奴じゃない。通学路に何かあるんだ」
風信は何も言わず、足を早めた。
謝憐。
財閥、仙楽グループの会長の令息。
それが、風信と慕情のたった7つにしかならない幼君だ。
風信と慕情が通う高校から、謝憐が通う小学校は数キロしか離れていない。
むしろ、二人がこの偏差値が無駄に高い公立高校を選んだのは、小学校が近いその立地故である。
本来なら、風信と慕情が交代で迎えに行く筈だった。
しかし、謝憐は風信の弓道と慕情の剣道の腕を誰よりも
………
それこそ風信や慕情自身よりも誇りに思っており、自分の為に二人が部活に専念出来ない事を嫌った。
そこで、二人の部活がある日は謝憐の迎えは他の人間が行う事になっていた。
誘拐目的で狙われそうな場所には、予め目星を付けていた。
ほんの数メートルの、大通りから死角になりやすい路地の一角。
通学路から少し外れたそこは、風信と慕情しか知らない、謝憐お気に入りの秘密の近道だ。
その場所で足を止めた二人は、サッと辺りに目を走らせた。
日当たりの悪いそこは、まだ昨日までの雨の名残が割れたアスファルトに溜まって濡れていた。
そのアスファルトに、小さな足跡がまだ薄らと残っている。
程なくして、側溝を覗き込んだ慕情が呟いた。
「見つけた」
慕情が摘み上げたのは、スマホ型の青いキッズ携帯だった。
風信と慕情のスマホに付いている物と同じ組紐のストラップは、色が識別出来ない程泥で汚れていたが、二人が見間違える筈も無い。
慕情が編んでやったらお揃いが良いと無邪気に言い放ったりするから、風信の分まで編む羽目になった、この世にたった3つのストラップである。
慕情はタオルで泥水を拭うと、携帯の電源を入れた。
「動くのか?」
「この程度で壊れるなら、とっくに動かなくなってる」
風信の言葉に素気なく答え、慕情はふと目を見開いた。
「当たりだ」
慕情が掲げた画面には、黒い車とナンバーが映ったぶれた写真があった。
風信は思わず舌を巻く。
「しかし、どうやって探す?」
「情報を整理しよう。貴様の気付いたことを言え」
慕情の態度にムッとしつつも、風信は真面目な面持ちで口を開いた。
「
……………
謝憐が暴れた時、電話の主が黙らせていた。側に見張りはいなかった。犯人は単独犯、もしくは、少数犯」
「車で拐ったなら、運転手と実行犯、二人はいたと見るべきだな」
「声からして、そんなに年ではない。30代前半かそこらだろう」
「お前のように、老け声の若者もいるがな。“お父さん”」
「
…
謝憐の足音からして床はコンクリート。反響していたから、監禁場所はそこそこ広い。恐らく
……
」
「倉庫
…………
」
じっとかんがえこみ、慕情は唇を指先で叩いて呟いた。
「謝憐の下校時間から電話がかかってくるまで二時間くらいか
……
」
「車で二時間と言ったらそこそこ範囲があるぞ」
「
……………
」
慕情は無言でキッズ携帯に映し出された車を見た。
ナンバーは地元の物だ。
「盗難車だと思うか?」
「
…………………
いや」
風信もそれをじっと見つめ、首を振った。
「後部までスモーク張りの車は明らかに一般車じゃない」
車のガラスからは本来見えるはずの車内は見えず、黒いガラスには目を見開いた謝憐の緊張した面持ちが薄らと映し出されていた。
細かな情報を拾おうと携帯をいじっていた慕情が、ふと呟いた。
「
…………
一時間だ」
「え?」
「写真の撮影された時間が、下校時間より一時間遅い」
「
………………
あれだけ寄り道するなと
…………
!」
風信は唸りながらも、頭に地図を思い浮かべる。
車で一時間以内の倉庫となると、一気に範囲が絞られる。
風信は謝憐の足跡が浮かび上がってくるとでも言うようにじっとアスファルトを睨み、ふと目を見開いた。
「
………………
ああ、成る程」
「?」
「寄り道の理由は、アレだ」
風信が指した先には、薄桃色の花弁が散らばっていた。
雨で湿り気を帯びた花びらは、あまり飛ばずに残っていたのだ。
よく見ると側溝にも花びらが流れている。
「桜の花びら?」
「集めてたんだろ。剣道大会で優勝した誰かの為に」
慕情が息を呑む気配があった。
◆◇◆◇
「謝憐、暴れたって言ってたよな」
風信の独り言のような呟きに、慕情は目の前を見据えたまま頷いた。
「
…………
ああ」
「つまり、あれを投げつけたわけか」
あれとは、大量の桜の花びらである。
「
………………
その可能性が高いな」
自分達の幼君は、そう言う怖いもの無しな所がある。
その口元が引き上げられる。
乾いて落ちたのか、アスファルトに点々と散らばる薄桃色。
そしてその先には、不自然に花びらのついた黒い車体がひっそりと停まっていた。
ナンバーは写真と同じものだ。
しかも、車の後部座席からポツリポツリと踏み躙られてアスファルトに張り付いた花弁が落ちている。
犯人の要求が、謝憐の父親が手がけているとある企業の発展計画の頓挫だと言う事で、その計画の陰で潰れた小さな工場に当たりをつけて見れば、件の車を見つけたわけだ。
桜の張り付いた黒い車は、正直遠目からでも目立った。
「よし
………
」
「待て。まずは報告を
…
」
勇んで乗り込もうとした風信を慕情が止める。
しかし、その言葉も続かなかった。
建物の影から、人の気配がした。
「どこにする気だぁ?」
如何にも柄の悪そうな男がスマホを片手に現れた。そのスマホがどこに繋がっているかは、推して知るべしだろう。
「「
……………
」」
風信と慕情はぎこちなく顔を見合わせた。
青ざめた慕情と風信の唇が、音も無く罵声を紡いだ。
(お前の声がでかいから!)
(お前がモタモタしてるからだ!)
誘拐犯の一味と思わしき男に連れられ、そこからそう離れていない倉庫に押し込まれると、その仲間と思わしき男と共に薄暗い中に小さな人影があった。
「
…………
!」
大きな目が更に大きくなる。
しかし、開きかけた口はまたきゅっと引き結ばれた。本当に賢い子どもだと思う。賢くて、気丈だ。
頬が腫れていて、膝や腕も擦りむいているの見てとりあえず誘拐犯はコロスと心に決めたが、元気そうな姿に風信と慕情はひとまず安堵した。
最悪の想像はずっと頭にチラついていた。
二人を謝憐の側に押しやり、誘拐犯の一人が言った。
「まさかこんなガキがコソコソ嗅ぎ回ってるとはなぁ。随分と勇敢な事だ」
(ハ、そりゃどうも)
内心皮肉を吐き捨てつつ、慕情と風信は自ら謝憐の側に大人しく座り込んだ。
あれから、二人は誘拐犯の男に大人しく捕まった。
暴れれば、コイツらの仲間が謝憐を害する恐れがあったし、謝憐の元に案内してくれるなら、そっちの方が好都合だと思ったのだ。
捕まるのは一人で十分。お前まで捕まるんじゃねぇよと互いを睨みつけながら、慕情と風信は揃って両の手をガムテープで封じられ、こうして謝憐の捕らえられた倉庫に連れて来られたわけだ。
お陰で、二人とも大した怪我もなく無事謝憐を発見出来た。
無事といっていいか、微妙な状況だが。
もう一人の誘拐犯は、面白げに風信と慕情をジロジロと見た。
「まぁいい。こんな小さい子どもを痛めつけるのは、流石に良心が痛むんだ。それに、怯えて黙りこくって話しも出来ねぇ」
謝憐はまた無表情に俯いた。
これは怯えていると言うより、抵抗してんだ馬鹿がと言ってやりたくなる。
謝憐の方が余程賢いし、肝が据わっている。
連絡先に風信の携帯番号を口にしたのと言い、ひどく冷静だ。
しかし、慕情達の顔を見て流石に気が緩んだのか、謝憐は慕情の背中に顔を埋めると、そのまま小さく震え始めた。慕情は眉を上げたが、何も言わない。
誘拐犯の二人は、慕情と風信を見比べて言った。
「で?お前らはコイツの親とは知り合いか?どっちを痛め付けた写真を送れば、あの会長は重い腰を上げるかな?」
嗜虐的な目を無感情に見据え、慕情は落ち着き払って言った。
「それなら、コイツにするんだな。重役の息子だ」
「
…………
この」
アッサリと売られ風信は青筋を立てたが、誘拐犯達の目が自分に向いたのを見、そして慕情の背に顔を埋めたまま動かない謝憐を見て、深く息を吐いた。
「
…………………
この子には手を出さないと誓うなら、好きにしろ」
誘拐犯に両脇を抱えて立たされると、風信は倉庫の外に連れて行かれた。
後には、慕情とその背に縋り付く謝憐だけが残される。
「
………………
」
慕情は手首をリスに齧られているようなくすぐったさを感じながら、辺りを見渡した。
「フン、思った以上に杜撰だな」
呟くと、謝憐が顔を上げた。
唇に付いたガムテープの切れ端が取れず、顔を顰めている。
「むーちん、ふぉんしんが危ない」
慕情はその青ざめた、でも幼いながらに憤りに満ちた目を見て思わず笑った。
「アイツは血の気が多いから、少しくらい血を流したくらいで丁度良い」
慕情は自由になった手を軽く降り、謝憐の頭を撫でる。
謝憐が慕情の手を縛るガムテープを噛み切ったのだ。
慕情は小さな手を縛るガムテープを丁寧に剥がしてやると、謝憐を抱え上げて言った。
「こんな所はさっさと出ましょう。教育に悪すぎる」
「ふふ、お前がそれを言うか」
謝憐は小さく笑い、慕情の首筋にぎゅっと抱きついた。
その体に桜の花びらがくっついているのを見て、慕情は苦笑する。
指先で払ってやると、謝憐は悔しげに口を引き結んだ。
「ごめん
……
むーちん。全部ダメになった。せっかくびっくりさせようと思ったのに」
「ある意味十分びっくりさせられましたし、帰ったら風信と二人でお説教です。なので
……………
」
慕情は丸まった背中を軽く叩いた。
「泣くのは、その時です」
「むーちんはユーカイ犯よりコワイな」
謝憐は小さく笑うと、ぐすっと鼻をすすった。
頬を首筋に押しつけてくる、片腕に収まる体が小刻みに震えてるのを感じ、慕情はあやすように背中を叩いた。
「さて」
慕情は辺りを見回し、壊れた鉄パイプが転がっているのを見つけると、謝憐を左に抱え直してそれを手にする。
感触を確かめるように振って、呟いた。
「
………………
コレ、まともに当たったら死ぬかな」
謝憐を誘拐した挙句に怪我を負わせた奴など何度殺しても足りないが、そんな馬鹿の為に刑務所に入るのもまたごめんである。
口の中に広がった生臭い唾をアスファルトに吐き捨てる。
紅い唾がまた一つ汚れを増やした。
風信はよろめきながら、じっと誘拐犯を見据えていた。
誘拐犯の一人が風信を殴り、もう一人がそれをスマホで撮影している。
それは、風信のスマホだった。
その映像を謝憐の父親に送りつけるつもりなのだろう。
「お前、意外に打たれ強いな。少しは惨めに喚いて、悲壮感を出してくれないと、人質の価値がないだろう?」
ケラケラと笑いながら、誘拐犯どもは好き勝手言う。
「
………
ゲホ
…………
ッ
…………
断る!」
風信は呻きながら、じっと待っていた。
この世で一番借りを作りたくも手を借りたくも無い相手だが、この場合はむしろ貸しがあるのはこっちだ。
痛い思いをして、時間を稼いでやってるんだから。一発殴るくらいじゃ足りないなと、内心吐き捨てる。
と、その声が聞こえたのか分からないが、不意にスマホで撮影している男の背後に黒い影が躍った。
ドカッと、思わず風信の方が顔を歪めてしまうような音があがる。
声もなく倒れた誘拐犯の背後には、学ラン姿で鉄パイプを肩に担いだ慕情の姿があった。
慕情の目が風信を捉え、細められる。
「フン、随分ボロボロだな」
「お前が遅いせいだ!」
口の中に溜まった唾を吐き捨てると、またアスファルトが赤く染まった。
「なっ
………
お前、何で
………
」
風信を痛めつけていた方の男が唖然として慕情を見る。
慕情はそれを、ひどくつまらなそうに見返した。
もう一つ、鈍い音が響く。
「ああ、そうです。○○の倉庫に。はい。犯人はまぁ、気絶してますね」
淡々と警察に電話をする慕情を眺めていたら、倉庫から謝憐がひょっこりと顔を出した。
地べたに座る風信の、血と痣が点々とついた様に、一気に青褪めると、駆け寄ってくる。
「ふぉんしん!!」
「謝憐」
血が付くのも恐れずに風信に飛びつくと、謝憐はへなりと眉を下げた。
「血が
…………
」
「大丈夫です。口の中切っただけなんで。骨も折れてない」
「そうです。コイツの頑丈さは心配するだけ無駄です」
警察に通報し終えた慕情が鼻で笑いながらやって来る。
「
…………
お前はとりあえず覚悟しろ。すぐに同じ目に遭わせてやるよ」
「フン」
慕情は肩をすくめると、手荒に風信の手を縛るガムテープを剥がした。
思わず「痛っっ」と呻くが、慕情に殴りかかる前に謝憐が首筋に抱きついてきた。
「
……………
謝憐。大丈夫ですか?」
風信がたずねると、こくりと頷く。
「汚れます。今は慕情の所に」
今度はぶんぶんと首を振った。
泣いてるのかと思ったが、唇を噛んで耐えているようだ。
誰に似たのか、強情な幼君は涙を見せたがらない。
「ごめん
………
」
ポツリと謝憐が呟いた。
「ごめん
………
痛いおもいさせて
…………
むーちんのストラップも、ダメにした
………
」
嗚咽の代わりにポツリポツリと漏らす幼い懺悔に、淡々と誘拐犯をガムテープで縛っていた慕情は手を止めた。
「別に構いません。悪いのはコイツらだし、風信は貴方の身代わりになれて本望でしょう。ストラップなんて、またいくらでも作りますよ」
暫く、スンスンと鼻を啜る音だけがしていた。
遠くから、サイレンの音がする。
こうして、誘拐事件は呆気なく幕を閉じた。
それは、三人が生み出す数々の武勇伝の、ほんの一コマに過ぎず、冒険譚はまだまだ続く
……………
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