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木綿子
2021-12-18 16:14:32
7432文字
Public
👹(こい紅)(義炭)
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#15
バイク便配達員の義勇さんと、パン屋さんの炭治郎のお話です。 義炭です。
#14
https://privatter.me/page/65937b3a2878d
#16
https://privatter.me/page/65937b3a2c0a9
梅雨が明けた。
眩しい日差しに目を眇め、義勇は守衛室で指定された駐輪場にバイクを停めた。ヘルメットを脱ぐと、開放感に溜息が出る。ベンチレーションがあるとは言え、ヘルメット内の換気ができるわけではない。湿った頭髪に指を入れて解き、空気を通してから括り直してようやく少しマシになった。
走っているときはいいがこうして停車してしまうと風がなく、途端に暑さがじわじわと襲ってくる。できるだけ早く屋内に入りたい。リアボックスから荷物を取り出し、義勇は真っ白な校舎へ向かって足早に歩きだした。
そこそこの田舎にあるこの国公立大学はかなり広い。その上手続きが二重に必要だ。守衛室での入校確認証を貰い、外来者用の駐輪場から事務室へ行き、外来者予約システムで照合した上で入校許可証を貸与してもらわなければならない。例えどんなに正門から難なく入れてしまいそうでも、業者は正規の手続きを取る必要がある。
七月中旬の土曜日。今日、この大学は学園祭だった。正門側は大変華やかに賑わっており、喧騒が風に乗って聴こえてくる。事務室付近は静かではあるものの、やはりお祭りと言うこともありどことなく浮ついた雰囲気が漂っていた。
(宛先は講堂
……
東側の端か)
事務室でもらった学内地図では、現在地からかなり離れた場所にある。その上校内はたくさんの人が行き来していて歩きにくい。時間的猶予はあるものの、到着するにはそれなりに苦労しそうだ。大学内は駅構内のように案内標識がそこかしこにあるわけではない。方向を間違えないようにしなければ、あっという間に迷ってしまいそうな気がする。
荷物はイベント運営会社からの機材だ。午後に使うものが手違いで搬入されなかったらしい。場所が在来線の駅から大分離れているため、発送元の運営会社からハンドキャリーよりもバイク便の方が早いと判断され、依頼が入ったようだ。こういう仕事は珍しくない。道も渋滞しておらず、時間よりも早く目的地に到着できた。
時刻は正午前。屋台や飲食店と化している講義室からは食べ物の匂いが漂ってきていた。そういう場所は当然人も多く、とても歩きにくい。社のユニフォームのお陰で不審がられることはないが、色が目立つのでいらぬ注目も浴びることになる。こちらへ向けられる無遠慮な視線に早々に辟易し始めていたところで、背後から急に名前を呼ばれて驚いた。
「義勇さん?」
振り向けば、そこには見知った少女が立っていた。長い髪で、柔らかい眼差しの、丸い頬の輪郭が炭治郎とよく似ている。
「お仕事ですか?」
「ああ
……
うん。禰豆子は? 学園祭に来たのか」
禰豆子は義勇の問いに「違いますよ」と屈託なく笑った。
「私、ここの学生なんですよ~。だから出展側ですね」
「それは
……
奇遇だな」
「はい。もうびっくりです。声かける前に二度見しちゃいましたもん。こっちの方までお仕事で来られるんですね。あ、それで義勇さん、行先はどちらです? ここの校舎無駄に広いから、わかりにくいでしょ。よかったらご案内しますよ」
「助かる。配達先は講堂だ」
「もしかして午後のステージの何かかなぁ? じゃあこっちです」
炭治郎よりも更に小柄で華奢な身体が義勇の前に立つ。見失わないようにしなければならない。配達員が案内されているにも関わらず迷子になっては甚だ決まりが悪い。
禰豆子の後をとてちてちとついて行き、飲食店エリアを抜けてしまうと大分歩きやすくなった。するする器用に人混みをすり抜けて歩いていた禰豆子が義勇の脇に寄り、楽しそうににこにこと笑う。
「今日は土曜日なのにお仕事なんですか?」
「ああ。休日対応の人員が休暇で。その代わり来週平日に代休がある」
「あらら。それっていつ決まったんです?」
「先週に。なんでそんなことを聞く?」
怪訝に尋ねる義勇に、禰豆子は少し言いにくそうに苦笑した。
「んーと
……
えっとですねえ
……
なんていうか
……
実は今日ってお兄ちゃんのお誕生日なんですよね」
「は
……
?」
誕生日。禰豆子の兄の。つまり、炭治郎の。それが、今日。
義勇の顔を見て、禰豆子は「あ~やっぱりかぁ」とやや脱力したように笑みを深くした。
「その反応だとご存じなかったみたいですね。お兄ちゃんそういうとこ遠慮しいだからなぁ。まあ確かにお仕事だったんじゃあ言いにくいかな
……
。よかったら今日ご帰宅されたら、私の分もおめでとうって言ってあげてください。きっと喜ぶと思いますから」
喜ぶ、だろうか。そんな不安が過ぎり、けれど禰豆子にそんなことを言うわけにもいかず、義勇は曖昧に「ああ
……
」と頷いた。
「あっ義勇さん、講堂この先真っ直ぐです。運営委員会の人が入口入ってすぐのところにいるので、お届け物のお知らせすれば大丈夫です」
「うん、ありがとう
……
」
やや呆然としながら礼を口にする義勇に、禰豆子は朗らかに「じゃあ私、学科の出展のところに行かなきゃなので! お仕事頑張ってくださいねー」という台詞を残し、来た道を颯爽と戻って行った。その長い後ろ髪を見送りながら、胸の中を冷たく寂しい風が撫でていく錯覚に視線を落とした。
誕生日。今日は炭治郎の誕生日、であるらしい。
「
……
」
その場に立ち尽くし、けれどすぐにまた歩き出した。社会人としてひとまず先に仕事を片付けるべきだ。
講堂には禰豆子の言う通り入口に運営の人員が何名かおり、一言社名を言えばすんなりと終わった。持ってきた機材は配達先へ無事渡り、いつも通り宛名票に署名を貰って終了だ。そのまま足早に校舎を突っ切り、まだまだ人通りの多い廊下をやや苦労しながら渡り切り、外へ出る。配達完了の連絡を本社へ入れて、一息ついた。
一息ついて、溜息も吐いた。
炭治郎は今日、出かけている。「友達と遊びに行ってきますね」と言っていた。夜に帰って来るとも。「遅くなるのなら迎えに行こうか」と尋ねたが、なんとも困った顔をして「
……
大丈夫です」と断られた。
ここ三ヶ月ほど、そうやって困った顔をすることが多い。この間も買い物へ行くと言うから「車を出そうか」と言ったら、同じように眉尻を下げて困った顔で「そんなにたくさん買いませんから大丈夫です」と言い、一人で出かけて行った。
社用端末の画面を見るともなしに眺めながら、義勇はぼんやりと炭治郎のことを考えた。
時が過ぎるにつれて、互いの間にはいつの間にか不可思議な距離が生まれていた。
炭治郎が、近寄ってこない。常に一定の距離を保つ。逃げられる範囲を警戒して探る小動物のように。そこに義勇は踏み込むことができない。炭治郎がそうしたいと思うのなら、黙ってその距離を享受して、必要以上に近寄らないようにするしかない。
四月、入社してすぐは当たり前に忙しそうで、新しい環境に慣れるほうが先だろうしと、あまり気にしていなかった。けれどそれが三ヶ月も続くとなれば、さすがに義勇にもわかる。
(
……
避けられているのに、誕生日を祝って喜ぶものだろうか)
距離感以外なら、炭治郎は変わりない、ように見える。「お仕事するって大変なんですね」と言いながらも毎日元気に出かけていくし、帰宅すれば楽しそうに台所で料理もする。義勇に向かって「お米だけ炊いておいてもらえますか」と至って普通に連絡もしてくる。掃除が好きで、家中を掃除して、いつの間にか両親の仏壇に花が添えられるようにもなった。ありがとうと言えば、「家でもやっていたので」とくすぐったそうに笑う。
けれどもう、触れられない。手もつなげない。バイクにも乗ってくれない。
夕焼け色が、義勇を映さない。
「終わり」の予感がする。ひたひたと忍び寄ってくる。それが怖くて堪らない。
いつ「やっぱり一人暮らししますね」と言われるかわからなくて、聞きたくなくて、会話も上手くできなくなった気がする。何が悪かったのだろうかと己を省みても何も思い当たらず、それでいて何もかもが駄目だったような気もしてきて、感情が迷子になる。
「終わり」はできるだけ先延ばしにしたい。そのためなら何でもする。近寄るなと言うなら近寄らないし、話すなと言うなら話さない。炭治郎が他の誰かと暮らしたいのなら、ちゃんと諦める。諦めるように、努力する。努力するから、もう少しだけここにいてほしい。側にいてほしい。
情けない。本当に、臆病で、寂しがりだ。
けれど、いい方にも悪い方にも振り切るほど義勇の魂を揺さぶるのは炭治郎だけだ。その事実は、ほんの少しだけ薄暗い喜びを与えてくれる。
深く細く息を吐いて、義勇は学園祭で華やかに賑わう大学を後にした。社用端末に、次の仕事の依頼が来たのだ。ここからまあまあ近い場所だ。落ち込んでいる場合ではない。それにまだ、底にはいない。恐らくは。
(
……
どうやって祝えばいいのだろう)
仕事の合間に、義勇は考えた。喜ばれない確率の方が高そうだとは思っても、禰豆子に「私の分も」と言われている限り、無視はできなかった。一般的な誕生日なら、バースデーケーキとプレゼントだが、日持ちのしないホールケーキを今日いきなり買って帰るのも気が引けるし、いいプレゼントも思いつかない。炭治郎は優しいから、何をあげても拒否はしないだろうが、後で「いらなかったのに」と困らせるようなことになっては目も当てられない。仕事の帰り道、いくつか店を巡ってみたが、良さそうなものは見つけられなかった。炭治郎が好きそうなものを思い浮かべるとどれも所帯じみてしまってプレゼントになりそうもなく、特別な日なのだから特別なものをと思うと盛大に的を外してしまいそうで、結局諦めて本人に聞くしかないと覚悟を決めた。
いらないと言われるなら、それで構わない。意思表示をもらえるだけでもありがたい。
街を色々迷走したせいで帰宅は遅くなったが、炭治郎はまだ帰っていなかった。暗い部屋に明かりを点け、夏の湿った温い空気を入れ替えて、冷房を入れる。気温は高いはずなのに、家の中はどこか寒々しい。去年まで気にしたこともなかったのに、炭治郎がいないだけで「こんなに家が広いのか」と痛感して、リビングの真ん中でぼうっと立ち尽くす鼻先を、仄かな花の匂いが掠めて行った。仏間の花だ。引き戸を開けてみれば、仏壇には向日葵と小さな白い花が生けられている。昨日は違う花だったから、今日、炭治郎が代えてくれたのだろう。鮮やかな黄色で瑞々しい花弁の先をじっと見ている内に、階下でがちゃんと音がする。
帰ってきたのだ。炭治郎が。
安堵の溜息が漏れた。
「ただいま戻りました!」
軽やかな歩調で階段を上がってきた炭治郎は、いつにも増してにこにこしていた。頬がほんのりと上気し、血色がいい。少しだけアルコールの匂いもする。時計は二十一時でなかなかに健全な時間帯だが、飲んできたのだろう。よほど楽しかったのか、かわいい笑顔が絶えない。
「
……
おかえり」
「はい。義勇さんも帰ってきたばかりですか? 今日は遅かったんですね」
冷房の効き具合で判断したらしい。にこにことしたままで、無邪気にそんなことを訊いてくる。酒精のせいかやや潤んだような夕焼け色には、今はちゃんと義勇が映っていた。
よかった。こちらを見てくれている。
「少し
……
寄り道をしていて」
「お買い物ですか?」
「うん
……
買うものは、見つからなかったが」
「そうなんですか?」と炭治郎が首を傾げる。まだ茜の瞳がこちらを向いている。嬉しい。とても、かわいい。
「炭治郎」
逸らされない視線に心の底から安心して、けれどいつ逸らされるかわからない焦燥に駆られながら、義勇は言葉を紡いだ。
「今日、仕事先で禰豆子に会った」
「え、凄い偶然ですね。今日、確か学園祭のはずだから
……
大学にお届け物だったんですね。禰豆子、元気そうでしたか?」
「うん。炭治郎、誕生日、おめでとう」
こちらを見つめる夕焼け色が、真ん丸になった。「え」と言ったまま、唇も半開きで固まって、真珠のような白い歯が垣間見えた。
まだ、大丈夫。虹彩には自分の顔が映っている。距離は縮まないが、それでいい。見てくれているだけで、いい。
「禰豆子から、聞いて」
「あ
……
そっか、はい
……
ありがとうございます
……
?」
「それで、何かプレゼントを用意しようかと思って探したんだが、いいものがなくて」
「え
……
今日の、お買い物、ですか?」
「うん」と頷くと、炭治郎の瞳が揺れた。パチパチと瞬きをして、夕焼け色の赤みが強くなる。
「何かほしいものがあったら、教えてほしい」
「
……
ほしいもの」
「そう。なんでもいい。俺が用意できるものに限られるが」
「なんでもいいんですか?」
ふわぁと炭治郎が笑う。花が咲くように。夕焼け色がとろけて潤んで、嬉しそうに頬を染めて。
驚いて義勇の方が逆に固まり、そしてうるうるとした瞳を覗き込み、この三ヶ月間が嘘のように交わったままの視線を辿り、やっとわかった。
多分、炭治郎は酔っている。少しわかりにくいが、確実に。
「義勇さん」
「うん」
「義勇さんがいいです」
「
……
俺?」
意味を測りかねた。呆然と炭治郎を見下ろす。
「はい! おれ、ずっと義勇さんがほしく
……
て
……
」
言葉が尻窄みになる。弾んでいた声が急激に萎む。薄赤く上気していた柔らかな両頬がみるみる内に色を失い、蒼白になっていく。それはもう、何かの化学反応のように。
その過程を見るに、恐らく、信じられないが恐らく、今の言葉は。
「
…………
本当に?」
恐る恐る問い質せば、炭治郎は蒼白なまま喉の奥を小さくひゅっと鳴らし、完全に酔いが醒めた顔になった。「いえ」とか「あの」とか「ちがくて」とか、断片的な言葉を零し、何故だかふるふると震えだす。その全てを上から下まで眺め、義勇もまた震えそうになった。既に震えている。心臓がおかしいくらいに。
「わかった」
「
……
え、え
……
?」
「炭治郎がほしいのなら、いくらでも」
訳がわからない、という顔つきの炭治郎に、義勇は微笑んだ。
とてもかわいい。自分の言葉に自分で蒼白になっているのも、真冬に薄着でいるようにふるふる震えているのも、蒼白な頬に少しずつ血の気が戻って桃色になっていくのも、真ん丸な夕焼け色が潤んで光を増していくのも。
全部、かわいい。全部、嬉しい。
本当に、ほしがってくれているのか。
「ああでも、いらなくなったら、捨てていいから」
「す、捨てません!」
本心を語れば、途端に悲鳴を上げて、泣きそうになってもいる。
今なら、大丈夫だろうか。触っても、逃げないだろうか。思いもしなかった僥倖に身の内を踊らせながら、不安になりつつ左手を差し伸べる。「おいで」と囁く。
お前のものを、確かめにおいで。
ゆらり、そろりと、炭治郎の右手が重なる。磁石のように。距離が縮まる。なくなる。
互いの手のひらは氷のように冷たくて、けれど触れた瞬間に溶け出した。そっと握れば、握り返され、腹の底から泉が湧くように、身体中が幸福感に満たされていく。
「ほ、本当に、もらって
……
いいんですか
……
?」
「うん」
「全部、おれの
……
?」
「うん」
「おれの
……
義勇さん
……
」
ひたり、と炭治郎が胸の上に縋ってくる。夏で、薄いTシャツしか来ていないから、きっと鼓動の音が伝わってしまう。でもそれでいい。言葉が上手くないのはわかっているから、音でわかってもらえるほうが遥かにありがたい。もっと響いてくれるように、小柄な背中に手を回して抱きしめる。温かい身体はまだ微かにアルコールの匂いがして、つないだ手のひらにきゅっと力が籠もった。そうっと撫でると、炭治郎が顔を上げて、下から義勇を覗き込んでくる。
「
……
義勇さん」
「
……
ん?」
「義勇さん
……
」
「ん
……
」
名前を呼んでくれる声が甘くて、温かくて、味を知りたくなった。怖がらせないように慎重に、溶けやすい綿飴を食むように、唇を塞いだ。炭治郎は逃げない。逃げるどころか胸の上に置いた手がTシャツの布地をギュッと握り、間近にある夕焼け色が零れそうなほど水を湛えて、いつかのように星を浮かべた。触れるだけの口付けは優しく柔らかく、離れるたびに名前を呼ばれてまた触れる。
身体中が温かい。つないだ右手と左手が、どんどん湿っていく。
「
……
義勇さん」
はぁ、と熱っぽい吐息を漏らし、炭治郎が首の下辺りに鼻先を擦りつけてきた。すんすんと息を吸い、匂いを嗅いでいる。別に構わない。好きに嗅いでもらっていい。何しろ頭の先から足の爪先まで、炭治郎のものなのだから。
「もっと、いっぱい、ほしいです
……
」
「
……
うん?」
「
……
だ、抱いて、ください」
流石に驚いて、炭治郎の顔をまじまじと見つめた。
嘘を言っているようには見えない。確かに「抱いてください」と言った。胸の上に縋り付いて、匂いを嗅いで、義勇が動かなくても自分から唇を塞いで。
目眩がする。情動がどこへ行ったらいいのかわからなくなり、でも炭治郎がそうしたいと言うなら、断る理由なんてあるわけがなく、血流が次第に下腹に落ちていく。肌が粟立ちそうなほどぞくぞくして、思わず炭治郎の唇を甘く噛んだ。
「んん
……
だ、ダメですか
……
?」
「ダメじゃない」
言いつつも、名残惜しく身体を離した。あからさまに「なんで?」と戸惑う炭治郎の髪をそっと撫で、赤くなった頬まで辿った。熱くて、しっとりしている。
「
……
買い物に行ってくる」
「え、い、今から
……
?」
「うん。なにもないから」
この家の中で、そんなことをしたことがないから、避妊具の一つもないから。
正直にそう伝えると、炭治郎は潤んだ夕焼け色を幼く見開き、そしてうっとりと嬉しそうに細めた。何が嬉しかったのだろう。わからない。でも炭治郎が嬉しいなら義勇も嬉しい。
「
……
帰ってくるまでに風呂に入って、気持ちが変わりないなら、俺の部屋にいてくれ」
「
……
はい」
「気が変わったら、自分の部屋で、寝てていい。なにもしない」
「
……
はい、んぅ」
承諾の言葉は全部口の中に溶けた。ほんの少しだけ忍ばせた舌先は、とろりと甘い唾液に浸り、義勇の背筋を震わせた。
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